アフリカから もの食わぬ女房

[アフリカから]

もの食わぬ女房

島岡由美子

Shimaoka Yumiko

 ハポ ザマニザカレ(むかしむかし、あるところに)、大金持ちのアラブ男がおりました。この男は、金を一杯持っているのに、けちで、けちで、人のためには、一シリングも出さないので有名でした。
 男は、女房に食べさせるのがもったいないと言って、三〇過ぎまで独り者でいましたが、隣の国に、砂糖をちょっぴりなめる以外はものを食わぬ美しい女がいると聞いて、その女と結婚することにしました。
 結婚してからも、その女は本当に砂糖をちょっぴりなめる以外は、何も食べないので、男は大喜びでした。

 男は仕事で家を空けることが多かったのですが、もの食わぬ女房は別に寂しがりもせず、いつもにこやかに男を送り出していました。
 ある日、三日の仕事が二日で片付いたので、一日早く男が家に帰って、
「おい、帰ったぞ」
 と戸を叩くと、いつもならすぐ飛んできてドアを開ける女房が、その日に限ってなかなか出てきません。やっと出てきてドアを開けはしましたが、女房は、なんとなくそわそわ落ち着かない様子です。
 さては、自分がいない間に、男でも引っ張り込んでいたのかと疑ったのですが、美しい女房に、
「いやですねえ。私はいつもと同じですよ」
 と微笑みながら言われて、男は自分の気のせいかと思い直し、仕事で疲れた体を休めようと、床にごろりと横になりました。
 横になった拍子に、何気なく椅子の下を見ると、食べかけのキャッサバイモのココナッツ煮が置いてありました。
「なんで、こんなところに芋の食べかけが置いてあるんだ?」
 と男が聞くと、女房は、
「ああ、さっき、女中が、仕事をさぼってこの部屋に入り込んでいたのを見つけて、私が叱りつけたところです。きっとそのとき、つまみ食いしていたのを、見つからないように隠していったのでしょう」
 と答えたので、男はそうかとうなずいて、そのままうとうと眠ってしまいました。

 男は、次の日も仕事で出かけていきましたが、忘れ物をして、昼頃帰ってきました。
 やっぱり、そのときも女房の様子がおかしくて、今度は花瓶の後ろに食べかけのシチューが置いてありました。女房は、また女中が隠していったのだと説明し、男はそうかとうなずいて、出かけていきました。

 ある日、男は、一月の予定で仕事に出ていましたが、思いのほか仕事がはかどり、二週間で家に帰ってきました。
 男は、美しい女房をびっくりさせようと思って、玄関から声をかけず、裏の台所から入ることにしました。すると、そこには、一〇個の大鍋に、肉入りシチューがたっぷり入っており、山盛りのピラウ、ビリヤニ、キャッサバイモや豆のココナッツ煮、マンゴー二〇個、パパイア三三個、二五羽分の鳥の丸あげ、五五個のマンダジ、一〇〇枚のチャパティ……目を見張るようなご馳走が、所狭しと並べられていました。
 今日は、なにかパーティーでもあるのかと思った男は、なんとなく出そびれて、そのまま台所の隅に隠れていました。
 そこへ、女房が入ってくると、その場にしゃがみこんで、がつがつと手当たり次第に、料理を食べ始め、台所中に並べられていた、ゆうに一〇〇人分はあろうかと思われたご馳走は、砂糖を少々なめる以外はものを食わぬはずの美しい女房によって、ものの一五分で食われてしまいました。
 全部食べ終わると、女房は女中を呼びつけ、こう言いました。
「こんなんじゃとても足りないよ。明日から、この倍用意しな」
 男は、驚いて卒倒しそうになりましたが、ぐっとこらえて、そのまま台所に隠れて、明日まで様子を見ることにしました。

 次の日、女房は、昨日の倍、二〇〇人分の料理をやっぱり一人でぺろりと平らげると、また女中を呼んでこう言いました。
「こんなんじゃ、とても足りないよ。明日から、この倍用意しな」
 男は、その場に飛び出すと、大急ぎで三枚のタラカ(離縁状)を書いて、妻に叩きつけました。
「お前のような大食らい女を置いておいたら、いくら金があったって足りやしない。砂糖をちょっぴりなめる以外はもの食わぬなんて、とんでもない。このうそつきの大食らい女め、とっとと出て行け!」
 大金持ちのアラブ男は、大食い女を家から追い出して、ほっとしたのも束の間、三年分の食料を入れておいた倉庫は空っぽ、庭で飼っていたにわとり五五〇羽、牛五〇頭、ヤギ三〇頭、羊五五頭も全部食べられており、おまけに男がけちけちと長年かかって貯めてきた金も、すっかり女房の食費として消えていました。その上、女房が前借して食べ物を買っていた店から莫大な請求が来て、とうとう家まで売るはめになってしまいました。
 大金持ちだったアラブ男は、もの食わぬ女を女房にしたお陰で、国一番の貧乏人になって、みんなの笑い者になってしまいました。
 もの食わぬ女房の話は、これで、おしまい。
 気に入ったら持ってきな。いらなきゃ海に捨てとくれ。