アフリカから 女房には舌をやれ

[アフリカから]

女房には舌をやれ

島岡由美子

Shimaoka Yumiko

 ハポ ザマニザカレ(むかしむかし、あるところに)、王様がおりました。
 王様は、国中から美しい娘を集め、よくよく品定めをしてから、よく太ってよく笑う、国一番の美人娘と結婚しました。
 すばらしくすてきな緑色のドレスを着せられ、ヒナ(染料:ヘナ)で手足を飾られた花嫁は、誰もがため息をつくくらい美しく、王様は大満足。一〇〇〇人を超える客にピラウを大盤振る舞いをしながら、高笑いしていました。
 それなのに、よく太って美しかったはずの花嫁は、日に日にやせてしわしわになっていき、笑顔も見せず、暗くどんよりした目になって、一年後には、すっかり醜女になってしまいました。

 王様のお城の裏には、その国で一番貧乏な男が住んでいました。
 その男の家は、まるでヤギ小屋と間違えてしまうくらい狭くて、土壁はぼろぼろ、雨が降るたびに屋根ごと崩れてしまうくらいひどい家でした。
 その貧乏な男も、たまたま王様と同じ日に結婚しましたが、この貧乏な男の方は、やせこけて、しわしわでみるからに貧相で愛想なし、誰も嫁にしたがらなくて行き遅れの、その国で一番不細工な娘を女房にしました。
 王さまと結婚した娘とは反対に、貧乏な男の不細工な女房の方は、日に日に太って、しわもなくなり、笑顔が増えて、大きな声で明るくしゃべるようになっていきました。そして、不細工だった顔も、どんどんつややかになり、一年後には、すっかり評判の美人女房になっていました。

 王様は、家来から、そのうわさを聞いて、貧乏な男を城に呼びつけました。
 貧乏な男がお城に行くと、王様は家来を下がらせ、貧乏な男と二人だけになると、そうっと聞きました。
「なんでも、お前の女房は、結婚したときはひどく不細工だったのに、この一年でえらくきれいになったそうじゃないか。わしの妻は、国一番の美人だったのに、今ではすっかりやせて見る影もない。わしは、妻に毎日贅を尽くした食事と、国一番の仕立屋に作らせた服を与えている。これ以上何をしたらいいのかわからない。お前はなにか、女を美しくさせる薬でも持っているのか?」
 貧乏な男は、それを聞いて驚いて言いました。
「薬ですって、とんでもありません。私は、毎日女房に舌をやっているだけですよ」
「えっ、舌だって? 本当にそれだけか? 俺の妻にも舌をやれば、きれいになるのだな」
「ええ、そうです。私が女房に毎日やっているものは、舌だけです」
 それを聞いた王様は、今度はすぐに城の料理番を呼び出して、こう命じました。
「国中の牛タンを集めろ。きょうからわしの妻には、牛タン以外の物は食べさせるな」

 それから三月、王様の妻は舌ばかり食べさせられ、もう舌を見るのも嫌になって、食事のたびに泣いていたので、ますます醜くなってしまいました。
 王様は貧乏な男にだまされたと思い、今度は男を殺すために家来をやって、引っ張ってこさせました。
「おい、よくもわしにうそを言ったな。あれからわしは、お前が言ったとおり妻に毎日舌をやった。しかし、妻はちっとも太らないどころか、前よりもっと醜くなってしまった。もう許さん。お前を殺してやる」
 貧乏な男はびっくりして、こう言った。
「し、し、しばらくお待ちを。王様、聞いてください。私にひとついい考えがあります。お妃様を私に預からせていただけないでしょうか。三月たったら見事美しく太らせてお返しします。その代わりに、私の大事な女房を置いていきます。でも、後生ですから、私の女房にも舌をやるのをお忘れにならないで下さい」
「うーむ、それじゃあ三月で、わしの妻を昔のように美しくして返すというのだな。……よし、それなら今度だけは許してやろう。しかし、三月たっても俺の妻が醜女のままだったら、お前の首はないと思え」
「は、は、はい! お約束します」

 貧乏な男の家に来たお妃様は、見る見るうちに元気になり、よく笑い、よく食べ、目もいきいきしてきました。お妃様は日に日に太って、しわも伸び、約束の三カ月の一〇日前には、王様と結婚した時よりもずっと美しくなっていました。
 約束の日が来て、貧乏な男がお妃様を連れて城に行くと、誰もが目を見張り、王様も、こんな美人は見たことがない、と自分の妻の美しさにびっくり仰天。そして、貧乏な男の方は、自分の女房があまりにもやつれて、結婚したときよりもずっと不細工になっていたので、びっくりしました。
 貧乏な男は、王様に向かってすごい剣幕で言いました。
「王様、あなたは私との約束を破って、女房に舌をやってくださらなかったのですね」
 王様は、ちょっとうろたえましたが、自分が王様だということを思い出し、威張りくさって言い返しました。
「なんだ、その無礼な言い方は。わしがおまえの女房に、舌をやらなかっただと、言いがかりもほどほどにしろ。わしはお前に言われたとおりお前の女房に、毎日、たくさん舌をやっていたのだ」
「王様は、一体どうやって舌をやっていたのですか?」
「タンシチュー、焼き牛タン、タンのココナッツ煮に……」
「タンシチューですって? ということは、王様は、牛タン料理を食べさせていたのですね。私が女房に舌をやってくださいと言ったのは、言葉で女房をうんとほめてやってくださいということだったのですよ。
 王様、女はいくら贅沢な暮らしをさせたって、言葉でほめてやらなけりゃ、きれいでいることはできませんよ」
 そう言って貧乏な男が帰ろうとすると、お妃様が、
「私もあなたのところに連れて行って」
 と泣いてすがりました。
 妻があんまり泣くのを見て、王様も仕方なく美しくなった妻を貧乏な男にやったので、貧乏な男は、自分の女房と、お妃様を連れて帰り、それからも二人にうんと舌をやって、美人の女房二人と、仲良く幸せに暮らしました。

 話は、これでおしまい。
 気に入ったなら持ってきな。いらなきゃ海に捨てとくれ。