アフリカから ダウ船

[アフリカから]

ダウ船

島岡由美子

Shimaoka Yumiko

 ハポ ザマニ ザ カレ(むかしむかし、あるところに)、ヌフという男がおりました。
 ヌフが生まれたころは、まだこの世に海というものがなく、人間はどこにでも歩いて行くことができました。
 あるとき、ヌフの住んでいたところに、三日三晩大雨が降りました。四日目の朝になって、やっと晴れたので、ヌフが外に出てみると、大きな大きな虹が空にかかり、その下には、大きな大きな水溜りができていました。
 この水溜りは、大きくて深くて、とても人間の力で渡ることができない巨大なものでした。そして、その水溜りの水は、とっても塩辛かったのです。

 人々が途方にくれていると、ヌフにアラーからのお告げが下りました。
「ヌフよ、お前にはこの大きな塩辛い水溜り、海を渡る道具、船を造る才能を与えよう」
 しかし、ヌフには、船という言葉も、海という言葉も初めてで、どうしていいかさっぱりわかりません。ヌフは困って、一心に祈りを捧げました。
「偉大なるアラー様。船とは一体どんなものですか?
 私はどうやったら船を造ることができるのですか? どうか教えて下さい」
すると、再びアラーの声が、ヌフの心に響いてきました。
「にわとりを一羽屠り、再び祈れ。されば、船というものが、必ずやお前にわかるだろう」
 ヌフは、早速にわとりを一羽、神の名のもとに屠り、祈りを捧げながら解体していきました。首を切り取り、血を抜き取った後、普段どおり、羽を抜いて、胸の部分から真っ二つに切断したところで、ヌフははっとひらめき、にわとりの骨組みをじっと見つめました。
背骨、あばら骨、首の骨、翼……。

 ヌフは、翌日から丸一週間、不眠不休で丸太を削り、組み合わせ、とうとうたった一人で船というものを造りあげました。
 ヌフが造った船というものを、塩辛い巨大な水溜りである海に浮かべてみると、ちゃんと浮かぶではありませんか。大勢の人が、嬉々として船に乗り込んでも、船は沈まず、三角の帆に風が当たると、するすると動き出しました。
 すべては、アラーのお告げどおりでした。屠ったにわとりを見ていたら、にわとりの骨組みと同じように、木を組み合わせていけば、船というものができるということが、ヌフにはちゃんとわかったのです。
 だから、今でも、ダウ船の構造は、にわとりの骨組みと一緒。
 にわとりの背骨がムククー(船の土台になる一番下の太い柱)、あばら骨がマタルマ(船のあばら骨にあたる部分の湾曲した木)、首の骨がファシーネ(船首柱)、尾がスカニ(舵)、そして翼がタンガ(帆)です。

 アラーは、ヌフだけでなく、誰にでも何かの才能を与えてこの世に送り出してくださっています。商売の才能を持って生まれてくる人、家畜飼育に長けている人、学問に秀でている人、農作物を育てる才能を授かった人、中には動物の声を聞き分ける才能を与えられた人までいます。
 あなたは、自分に与えられた才能を、もう見つけることができましたか?

 今日の話は、これでおしまい。
 ほしけりゃ持ってきな。いらなきゃ海に捨てとくれ。