アフリカから 七人兄弟

[アフリカから]

七人兄弟

島岡由美子

Shimaoka Yumiko

 ハポ ザマニザカレ(むかしむかし、あるところに)、仲のいい夫婦がおりました。
 夫婦には、七人の息子がいましたが、末っ子のことが、一番好きでした。
 上の六人は仲良しで、何をするのも一緒でしたが、末っ子はいつも仲間はずれにされ、六人の兄にこき使われていました。両親が末っ子ばかりをかわいがるので、兄たちは末の弟を嫌って、ことあるごとにいじめていたのです。
 兄たちは、わざと畑を荒らしたり、父親の自転車を壊したり、母親のカンガ(アフリカの綿布)を破ったりしては、末っ子のせいにしました。それでも、末っ子はいつも素直に「ごめんなさい」と謝って、父親も、母親も、末っ子かわいさに「しかたがないさ。今度から気をつけるんだよ」と答えるものだから、兄たちはますます頭に来て、次の日はもっとひどいいたずらをして、末っ子のせいにするのでした。

 ある日、兄たちは、六人で相談して、末っ子を遠くに捨ててこようとたくらみました。遠い遠い森の中まで歩いて行くと、六人の兄たちは、昨日の晩に隠しておいた馬に乗り、末っ子を置き去りにして帰ってしまいました。末っ子は、帰り道がわからず泣いていると、たまたま森に薪を取りにきていた父親に会って、無事に家に帰ることができました。
 ただ遠くに置いてくるだけではだめだと思った兄たちは、なんとか確実に末っ子を殺す方法はないかと考えました。

 ある日、六人の兄たちは、末っ子を誘って、また遠くの森まで歩いていきました。
 兄たちは、井戸を見つけると、ごろりと横になって、末っ子に命令しました。
「おい、俺たちは喉が渇いてしかたがない。お前ちょっと井戸の持ち主に頼んで、バケツをかりて水を汲んできな」
 末っ子は、いつものことなので、素直に返事をして、井戸に向かおうとしました。
 すると、馬が、口で末っ子のシャツを引っ張って、こうささやきました。
「だめだめ、だめですよ。水を汲んではだめですよ」
 末っ子は、
「離せよ。水を汲まないと、兄さんたちにぶたれるんだ」
 と言って、無理やり馬の口からシャツを引き抜くと、井戸の持ち主のところにかけて行き、長いロープのついたバケツを借りてきました。
 馬は、しかたないなあと言いたげに、首をふるふる振ると、あわてて井戸の方に駆けて行きました。
 末っ子が、バケツを井戸の中に落とすと、さっきまでごろごろと横になっていた兄さんたちが全員ささっと起き上がって、水を汲んでいる弟の背中をどんと突き飛ばしたので、末っ子は、深い深い井戸の中に、まっさかさまに落ちていきました。
 ドッボーン、バッシャーン
 六人の兄たちは、代わる代わる井戸の中を覗き込みましたが、深い深い井戸の中は、真っ暗で何も見えませんし、こんなに深い井戸では、一人で上がってこられるわけがありません。六人の兄たちは、これでやっと嫌な末っ子が片付いたと笑いながら、家に帰っていきました。

 一方、末っ子を追って井戸に駆けてきた馬は、末っ子が投げたバケツのロープの端を、間一髪のタイミングで前足に絡め取っていました。馬は、六人の兄たちがいなくなったのを見計らうと、用心深く一歩一歩後ずさりしました。すると、井戸の中でバケツにしがみついていた末っ子が、一二インチ(約三〇センチ)ずつ引っ張り上げられました。
 末っ子は長い時間かかってやっと助け出されたものの、水をいっぱい飲んで腹がはちきれそうになっていたので、馬は、末っ子の腹を、前足でぎゅうぎゅう踏み、末っ子の口からぴゅうぴゅう噴き出してくる水を、うまそうに飲みました。末っ子は、すっかり腹の中の水を出し切ると元気になり、馬に乗って家に帰っていきました。
 井戸の持ち主は、バケツを末っ子に貸したときから、一部始終見ていましたが、関わり合いになりたくないので、見て見ぬふりをしていました。

 六人の兄たちは、家に帰ると泣き真似をしながら、両親にこう言いました。
「末の弟が、井戸に落ちて死んじゃったよー」
 母親は、泣きながら六人の兄たちを責めました。
「あんたたちがついていながら、一番小さな弟が井戸に落ちるのも止められなかったのかい。ああ、かわいそうな末っ子よ。一番かわいい子供が死んだなら、いっそのこと、かわいくない六人も全部死んだ方がいい」
 そこへ、末っ子が馬に乗って元気に帰ってきたので、両親は大喜び。末っ子をしっかり抱きしめました。一方、六人の兄たちは、全員口をぽかんと開けて、呆けたように突っ立っていました。何しろ今度こそ確実に末っ子を殺したと思っていたのですから。
 母親は、「かわいい息子よ、井戸に落ちたって聞いたけど、気をつけなくちゃだめじゃないか」と優しくたしなめました。
 いつもなら素直に「はい、ママ、ごめんなさい」と言っていた末っ子も、今度だけは本当のことを言いました。
「ママ、僕は井戸に落ちたのではなく、突き落とされたのです」
 それを聞いた母親も父親も、すぐに六人の兄たちの仕業とわかり、怒って六人の兄たちを叩きのめしましたが、さすがに殺すことまではできなくて、馬と金をやって家から追い出してしまいました。
 親は、一番かわいい末っ子だけを手元において、ますますかわいがって暮らしました。
 まあ、えてして親というのは、末っ子がかわいいものですからね。

 話は、これでおしまい。
 気に入ったら持っていきな。いらなきゃ森に捨てとくれ。