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ジェイムス・モリソン

PROFILE

James Morrison 1985年イングランド中部のラグビー生まれ。シンガー・ソングライター。22歳の声とは思えない甘いハスキーヴォイスと天性のメロディーセンスが、世代を超えた音楽ファンを魅了。2006年7月の英国デビュー直後、8月7日付UKアルバムチャート初登場1位を獲得。10月にアルバム『ジェイムス・モリソン』(輸入盤『Undiscovered』)で日本デビュー。同月、恵比寿リキッドルームでのプレミアライヴは各メディアで紹介され、日本でのジェイムス・モリソン熱を決定づける。今年3月には全米デビュー予定。先日発表された英国最大の音楽賞『Brit Awards 2007』では、主要3部門にノミネート。http://www.universal-music.co.jp/u-pop/artist/james_morrison/


インタビュー、文=深澤里奈
撮影=峯 竜也


ジェイムス・モリソン インタビュー
メロウなのは魅惑のハスキーヴォイスだけじゃなくて

ロンドンにはギブ・ミー・サムシングがあるのだから

 ロンドンでもっともチケットの入手が困難といわれているライヴハウス「KOKO」で、私はうっとりと彼の歌声に耳を傾けている。真紅の壁に大きなシャンデリア。まるでオペラハウスのような「KOKO」は、さまざまな方角、目線からライヴを楽しむことができる。
 アーティストといちばん近い1階のフロアには、少しでも彼に近づきたいという熱狂的なファンが押し寄せているのに対し、私がいる3階では、バーでアルコールをオーダーし、仲間や恋人とたわむれながらゆったりとライヴを楽しんでいるというひとが多い。年齢層にも幅がある。会場の観客たちに偏りがないことで、私は何の違和感ももたずに心底ライヴを楽しむことができた。
 昨年7月にデビューし、あっというまに世界中の人々の心をわしづかみにしてしまった彼の歌声は、今夜もロンドンの耳を虜にしている。昨年末、私が担当しているTFMのラジオ番組で、「2006年度ベストワンであり、最も聴いた曲」として紹介したのが、いま目の前で歌っている、ジェイムス・モリソンの曲だった。
 私にはチャームポイントに見える、彼の左目の下にある傷跡。それは彼が3歳のときに転んでできた傷だった。「セントラルヒーティングの一部に、かけられているはずのキャップがかかっていなかったんだよ」。ライヴ前、ギターを指でなぞるように確認しながら、ジェイムスは私にほほ笑んだ。
 決して裕福ではなかった幼少期が、いま彼がつむいでいる言葉やメロディーに大きく影響している。どんなに幸せそうに見えても、誰しもが抱えている心の闇。彼の歌声は、その闇にすっと溶け込み、そして大きく揺さぶる。
 景気のよさをまざまざと見せつけるロンドンでは、多くのひとが「ロンドンでできないことは何もない」と思っているようだ。1ポンド=約240円(2月上旬現在)。地下鉄初乗り4ポンドと知ったときは、計算してもにわかには信じられなかった。
 しかし好景気は一流のシェフやアーティストを呼び寄せることになり、ロンドンの舌、耳、目を刺激し、その感受性をどんどん豊かにしていく。  さらに、私の金銭感覚からするとすべてが“高い”ロンドンなのに、美術館、博物館、ライヴ、オペラ、ミュージカルなど文化にかかわる催しに関しては“安い”と感じるということは、それだけ、ロンドンが文化に触れることに対して積極的で、なおかつ協力的だということだろう。


ジェイムスが生涯をとおして大切にしたいと思う四つのもの

「ロンドンには何でもあるし、何でもできるから好きだよ」
 吹きさらしの1月の橋の上で、震える私のコートのファスナーを、「ほら」とぎりぎりまで上げてくれたジェイムスは、昨夜ライヴで見せたものとは打って変わって、リラックスした表情をしている。
「それぞれのエリアに特徴があって、それらが重なって大きなロンドンという街になっているんだ。全然違う雰囲気を味わえて、それがおもしろいんだよ。きっと誰だって楽しむことができるはず。歩いているだけで歴史を感じることができるしね」
 新しい文化が生まれても古いものが廃れていくわけではなく、一つひとつがしっかりと根づいたまま時は流れる。たとえばクラブミュージックが流行りだしても、パンクだって残っているというように。まるで新しい糸を足して織り上げていく生地のように、ロンドンの文化はさまざまな色が複雑に調和している。
 そんなロンドンに住みはじめて2年だという彼の休日は、家族や友人と一緒に過ごす以外は、「テート・モダン」や「自然史博物館」といったミュージアム、活気あふれるポートベローマーケットに出かけるのだという。大都会でありながら、その緑の多さを誇るロンドンでは、ふらりと散歩に出かける場所に困ることもない。
「だけど、たとえどこにいても、どんな状況になっても、人生を楽しむってことが重要なんだよ。まわりが変わったって、僕は変わらない。大切なものをいつまでも大切にするのと同じでね。僕にとって大切なものは、家族、友人、経験、思い出、この四つだけなんだ」
 ジェイムスは、カフェの席につくと、巻きたばこを器用にくるくると巻きながらつづけた。 「誰かを批判したりすることなく、ひとの気もちがわかるような、そんな“good person”になりたいんだ」
 帰りの飛行機が飛び立ち、ジェイムスとの距離が広がっていく。切なさに似た胸の痛みを感じながら、私は本気で思った。「この飛行機がロンドン行きだったらいいのに!」と。