Step ahead 日本女性としてさらに輝く先へ

浅野忠信

PROFILE

Tadanobu Asano 1973年、神奈川県生まれ。90年、松岡錠司監督の『バタアシ金魚』でデビュー以降、国内外の名だたる監督の作品に出演。待機作にセルゲイ・ホドロフ監督作『MONGOL』(年内公開予定)、青山真治監督作『サッドヴァケイション』(今秋公開予定)、山田洋次監督の『母べえ』(2008年新春公開予定)、木村威夫監督作『こぶ広場(仮題)』(08年公開予定)。また自身のブランド「JEAN DIADEM」のデザインや、5月13日にはソロCD『CRY & LAUGH』をリリースするなど、幅広く活動している。
http://www.anore.co.jp/asano/


片岡真由美=インタビュー、文
レイク・タホ(KiKi inc.)=写真


浅野忠信 インタビュー
火のオトコは水に守られている

ビクついて自分のままで
いられなくなるのがいちばん辛い。
作品全体をよくするためなら
よろこんで悪者にもなります。

冷めていたあのころと
映画を熱く語るいま

 中学生のころは船乗りにあこがれたという。
「俳優をはじめたころは『嫌だ嫌だ、いつか逃げてやる』って思っていました。それで『船乗りになって別の国に行ってしまえばいいんだ』って思いついたんです」
 この数年だけでもタイで2本の映画を撮影し、モンゴルでの撮影も『MONGOL』(年内公開予定)で体験した。
「いろんな国でいろんな体験をしたいっていう当時の夢は、けっこうかなえられましたね」
『地球で最後のふたり』(2004年)に続いてタイのペンエーグ・ラッタナルアーン監督とふたたび組んだ『インビジブル・ウェーブ』では、香港で料理人として働く青年キョウジに扮している。ボスからの命令で殺人を犯した彼は、逃亡の身となって客船に乗り込み、プーケットへたどり着く。その旅で、彼の周囲では謎めいた人物や不可思議な出来事が続出するが、彼自身は内面の動揺を表には出さず、クールにやり過ごす。
「日本を飛び出した人間だから、一人で生きていくことに覚悟ができていると思うんです。だからいちいち何かにびっくりしないんじゃないかと思ったし、それこそぼく自身、海外では思ってもみないことを体験してきたから、その経験も生かせたと思う」
 浅野忠信はまったく素のままに思わせる稀有な演技力で、早くから別格の存在だった。だが10年ほど前は、彼ひとりがその才能に無頓着でいるように見受けられた。インタビューのそこかしこに「俳優なんていつまで続けるかわからない」と、冷めた様子が見え隠れしていた。
「たとえば『バタアシ金魚』(1990年の映画デビュー作)のころは、『そんなことあるわけない』とか『こんなこと恥ずかしくてできない』ってことがいっぱいあった。でも『アカルイミライ』(03年)を撮り終えたあたりから、それまでのやり方に飽きてきて、『わざとらしくてできない』って思うこともあえてやりたくなった。いろんなことに挑戦したくなったんです。でもそうした時期を経て、いまではまた自分がやりたい方向を一度きわめてみたいと思ってます。初心に帰って、『このセリフをいかにふだんらしく言うか』ってことを考える。自分でもしつこいって思うぐらい、そんなに考えてもしょうがないだろうってぐらい、そのことは考えますね」
 俳優という仕事への考え方が変わる転機は、自身の監督作品『トーリ』(04年)から。
「それまでは『俳優なんて楽じゃん』なんて思ってました。でも自分で監督をやってはじめて、俳優って大変なんだってことに気づいた。だから俺ももっと監督に大切にしてもらおうって思ったし、けっこう人に甘えるようになったんです」


監督やカメラマンが 演じる 映画を撮りたい。
タイトルは もう決めてます

『インビジブル・ウェーブ』の撮影監督クリストファー・ドイルとは、ドイルの初監督作品『孔雀』(99年)に主演するなど、幾度も一緒に組んできた仲だ。
「ドイルさんもペンエーグ監督も、ふだんはものすごくユーモアにあふれてますけど、表現することにかけては命がけです。ドイルさんは現場でビールを飲んだり、はしゃいだりしてるんだけど、ちょっとでもスタッフが気を抜いたりすると、瞬間的にものすごく怒ります。それは『なんで俺を楽しませてくれないんだ』っていう怒りなんです。自分の勘をフルに生かして、真剣に楽しみたいんですよね」
 浅野自身、いま、現場では作品のために熱くなる。
「ぼくが何かを言うことで人を傷つけたとしても、それでぼくが悪者になるとしても、みんなのために悪役になってると思えば、そんなに落ち込まない。ビクついて自分のままでいられないのはいちばんつらいことだし」
 ドイルは「俺たちはファミリーだ。次はペンエーグがプロデューサー、浅野が監督、俺が主演で撮ろう!」と語った。
「ぜひやりたい、こてんぱんにやっつけたいですね(笑)。さんざん現場で苦労させられたことを味わわせたい。監督はぼくで、カメラマンや監督に俳優をやらせて、『いじめ』って映画を撮りたいですよ(笑)」
 俳優の演出法についての考え方は、相米慎二監督の『風花』(01年)の経験が大きい。
「自分が考えていることは間違いじゃないってわかったんです。ほとんどの場合、『カメラ位置はここ、そこで振り向いて』みたいに最初に動きを決めつけるけど、監督にはまず芝居をよく見てほしい。何も決めない状態で一度リハーサルをやって、俳優の思う通りの芝居をやらせてほしいって、いつも思います。もちろんこっちも真剣にやらないとおもしろいものは出せないけど」
 船乗りにあこがれた彼は、ある分類によると“火”に属する人だという。その熱を鎮めるために“水”が重要なのだそうだ。
「たとえばお風呂でじっくり水に浸かるとか。そういえば『インビジブル・ウェーブ』も水が重要なモチーフですね」
 浅野忠信が演技において天性の才能を持つことは、誰もが認めるところ。だが彼の本当の天才性は、つねに進化しつづける、その驚異的な深度と速度にある。水を得た魚のように、彼はこれからもはるか沖まで、船を漕ぎつづけていくだろう。