Step ahead 日本女性としてさらに輝く先へ

宮崎あおい

Yuya Yagira 1990年、東京都生まれ。2004年『誰も知らない』で、第57回カンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を日本人初、史上最年少で受賞。同年の文化関係者文部科学大臣表彰のほか多数の賞を受賞し、日本はもちろん世界からも注目を浴びる。07年はアニメ映画『Genius Party』の「BABY BLUE」で初の声優にも挑戦し現在全国で順次公開中。また9月15日公開の『包帯クラブ』が待機。ダイハツ工業「Mira」のCMでも活躍中。 http://yuyayagira.jp/


金原由佳=インタビュー、文
奥村恵子=写真


柳楽優弥 インタビュー
俳優と素顔のブランコ。
ひとまわり大きく揺れて

顔は笑っていても
心では泣いているかもしれない。
ディノはそんなことを敏感に感じとれる人。
ぼく自身、『包帯クラブ』が完成したあと
人の気持ちを深く考えられるようになりました。


柳楽優弥という
イメージを
ぶち壊していきたい


「ちょうど今、アメリカからクエンティン・タランティーノ監督が東京に来ていますね」
 インタビューをはじめる前、軽いあいさつにそう伝えると、柳楽優弥くんはあの印象深い切れ長の目を即座に向けて、「本当ですか?タランティーノさんは今、ぼくが俳優の仕事を続けていられる“感謝している人リスト”の大切な一人です。いつかまた、カンヌ国際映画祭に行けるように、自分を磨いていくための、重しのような存在です」と言葉を返してくれた。
 広く知られるが、柳楽くんは14歳のとき、『誰も知らない』での演技が認められ、カンヌの最優秀男優賞に選ばれた。そのときの審査委員長がタランティーノ。あれから3年、『星になった少年』『シュガー&スパイス 風味絶佳』と一作ごとに成長の証しを刻み、少年の面差しはいつしか精悍な青年の顔つきへ。その変化を観察し、見守っていく作業は観客としてはとても楽しい。けれど、本人は「それ、すごく気になるんです」と告白する。
「ぼくの素のキャラクターが出ていいのは、こういうインタビューのときだけ。映画に出るときは、柳楽優弥を出す必要性はまったくないと考えているんです。作品では演じているキャラクターそのものとして観てほしいし、そのためにできるだけの努力をしようと思っています。ぼく自身の成長とかイメージとか、そういうのを思いっきり壊して、崩していきたい。そのためにもがんばった新作なんです」
 彼がつかんだたしかな手ごたえがこちらにもしっかり伝わってくる。最新作『包帯クラブ』で演じたのは、敵国の銃撃を受ける子どもがいると想像したら、テントのなかで爆竹を爆発させたり、飲み水に恵まれない子どもがいると思えば自分も川の水を飲んでみたり、恵まれない人の苦しみを身をもって体験せずにはいられない高校生の通称ディノ。原作は天童荒太の同名の小説で、日常生活を送るうえでの息苦しさを自覚する10代の少年少女たちがひょんなことから、ネットを通して自分の心の傷がうずく場所についての投稿を広く募集し、そこをたずね、包帯を巻くことで、ある種のつらさ祓いをする姿を描く。ディノはそのリーダー格。
「松本人志さんの『人志松本のすべらない話』のDVDを繰り返し観て習得しました」という怪しげな関西弁を嬉々として操る姿はイメージ一新。けれどディノの天衣無縫のふるまいの裏には、しっかりいわくありげな影が見えかくれする。
── ディノの行動原理って共感できる? 
「できます。この役を演じて、世界を見る眼が確実に変わった。自宅から高校まで電車通学してるのですが、世界のどこかではすごい距離を歩いて通学する子がたくさんいるんだろうなと考えると、今度、自分も徒歩で帰ってみようかなと思ったり。でも2時間30分ぐらいかかる距離なので、まだ試したことはないんですが……(笑)。舞台となった高崎が、ぼくが育った東京郊外の風景と似ているのも入りやすかったです。周囲を山に囲まれ、なんだか見えない壁に包囲されているみたいな感じ。高崎には縁があって、『誰も知らない』のとき、高崎映画祭の新人賞をいただいた、やはりぼくの“感謝リスト”に並ぶ想い出の場所なんです。その場所でまたいい映画が作れて、ホントうれしいです」


ディノを演じることで
ぼく自身にも
包帯を巻きました


 その高崎市内で最も高い、市庁舎屋上のヘリポートでディノが走り回る場面がある。自殺予告した匿名の投稿者に向かって、「出てこいや!」と全身で呼びかける場面だ。命綱もつけずに疾走する姿はコワくて、危なっかしくて、ハラハラドキドキの連続だけれど、ディノの叫びが胸にぐっと迫ってくる。
「21階の高さで、こんなことをする人間は今後、現れないだろうなとちょっと優越感に浸りながら、フジロックフェスティバルのアーティストの気持ちってこんな感じだろうなと思いました。その高揚した気分と裏腹に、『この一線を超えたらヤバい』と境界線を冷静に把握している自分もいて、映画撮影とは知らない現地の人たちが驚きのあまり、地上からぼくを見上げて、固まっているのもしっかり見えました。体は熱く突き動かされているけど、心の中はさめている状態。これこそ、ディノの心理なんだなと肌身に感じた瞬間でした」
 ぼく自身はつらくなったとき、一瞬たりとも、じっと悩んだり、とどまっていたくないタイプ、と柳楽くんは笑う。心の中で大切にしている“感謝リスト”の数を日々増やしながら、少年は周囲の感慨や思惑なんかものともせずに、前へ、前へと進んでいくのだ。