Step ahead 日本女性としてさらに輝く先へ

豊川悦司

Etsushi Toyokawa 1962年、大阪府生まれ。91年の映画『12人の優しい日本人』、翌年のテレビドラマ『NIGHT HEAD』で脚光を浴び、その後、映画を中心にテレビドラマ、舞台、CMと多方面で活躍し、数々の受賞歴をもつ。2007年は『愛の流刑地』にはじまり『魂萌え!』『接吻』『サウスバウンド』、現在公開中の『犯人に告ぐ』のほか、『椿三十郎』(12月1日公開)が待機。また08年春には『犬と私の10の約束』の公開が予定されている。 http://home.a00.itscom.net/alpha/
af_toyokawa.html


金原由佳=インタビュー、文
奥村恵子(Image)=写真


豊川悦司 インタビュー
アウトローでいこう

完成した作品を観ながら
反省点や課題をさがそうとは思わない。
そもそもぼくは自分自身に
おおきな期待をしていないから(笑)。


いくつになっても
あとから後悔する
ようなことがある


 豊川悦司の“タマネギ説”をご存じだろうか。
 かつてテレビドラマで演じた『愛していると言ってくれ』や『青い鳥』の女性たちの母性本能をくすぐる、憂いを秘めた青年役から一転、最近ではキンチョールのCF「10万円」編であのいいかげんなヒモ男、大塚製薬のSOYJOYのCFでの田中麗奈さんとのかけあいが楽しい会社の上司役、映画『サウスバウンド』のナンセンスなお父さん役など、コミカルな役柄が続いている。
「まさか、こんなことをするとは?」
と世間が驚く役柄を演じながら、豊川悦司という役者の素顔はデビューから15年たっても相変わらず謎めいたまま。皮をむいても、むいても中の硬い芯には到底、届かない。生のままガブリと噛めば苦みが勝るが、じっくり炒めると甘さがジワッと染み出てくる。味つけしだいでどうとでもなる男。
 ねえ、豊川さん。いったい、あとどれだけ、隠し玉を持っているんですか?
「そう言ってもらえると、うれしいですね。自分でも最近、幅のあるキャラクターを与えられる機会が多く、とても楽しいし、恵まれているとも思うから。ぼくは今、45歳ですけど、これくらいの年になっても、『なんで、あんなことを言ってしまったんだろう』『どうしてあのような行動をとってしまったんだろう』と、あとになって反省をすることがいっぱいある。まだまだ自分自身を把握もコントロールも理解もできていないからこそ、芝居をとおして演出家にまだ見ぬ自分を開発されたいと願うのかもしれないですね」
 そう語る豊川さんは1カ月のバカンスから戻った直後で真っ黒に日焼けし、素足にサンダル、ポロシャツにジーンズといかにもくつろいだ風情。現在公開中の新作『犯人に告ぐ』で演じた神奈川県警の刑事、巻島のスーツ姿とはこれまた全然違う。
 雫井脩介の同名の小説を映画化したこの作品は、6歳の少年の誘拐事件の捜査に失敗した刑事、巻島が6年後、再び男児連続殺人事件の捜査に大抜擢されるところから幕を開ける。前回の事件の際、記者会見で大失態を演じたことで左遷された男が、今度はテレビ局の報道番組にみずから出演し、マスコミを巻き込む劇場型捜査で犯人を捕まえようとする。
 新鋭、瀧本智行監督が紡ぎだす重厚なドラマのなかで、豊川さんはじめ登場人物全員がノーメークで出演しているのが印象的だ。事件をめぐり、プライドをぶつけあう男たちの顔が幾度となく大写しされ、彼らが何にプライオリティーを置いて警察機構のなかにいるのかがあぶり出しにされていく。出世、事件への執着、被害者への弔い、残された家族への謝罪、犯人への憎しみ、警察官としての正義感……。個々の想いを鏡のようにあらわす役者たちの顔。なかでも巻島の、左遷を経て、ある種、組織のなかで異形の人となっていったふてぶてしくも強い顔が映画のなかでいぶし銀のように光っている。
「監督はクローズアップで、役者たちが積み重ねてきた年齢を撮りたいとおっしゃっていましたね。ぼく自身、ノーメークは全然平気です。今日もそうですし」


挫折から帰ってきた
男の演じる方法


 豊川さんがネタばらしを好まないと知りつつ紹介すると、冒頭の若き巻島と6年後の巻島は同じ人間が短期間に演じたとは思えないほど顔つき、髪形、体つきが違う。がんで死にゆく男性を演じるために13キロも減量した『命』や、愛する女性との出会いで殺人者になる『愛の流刑地』など、“変貌”は豊川悦司という俳優を語る上ではずせないキーワードだけれど、今回もそうだ。
「撮影中は巻島の困難に向かっていく、いろいろな表情や仕草をイメージするのが楽しかった。でも、登場人物のなかでは巻島がいちばんノーマルで、石橋凌さん演じた県警本部長や小澤征悦さんの刑事総務課長、片岡礼子さんのテレビキャスターのほうがよっぽど強烈。彼らには出世しなくてはという強迫観念が染み込んでいる。巻島は若い段階で挫折しているから、ちょっとちがう場所に立っている。ぼくが巻島に深くコミットできた点は、子どもが殺されるかもしれないといういいようもない恐怖と悲しみを抱いている点で、そこは作らなくても自然に出てくる感情でしたね」
 豊川さん自身には、出世欲ってあるんですか? と聞くと即座に、「ないです」と返ってきた。
「個人的には、男社会における権力闘争には全然、興味はありません。だからこそいっそう、この映画のなかで右往左往する男たちがおもしろかったなあ」
 やっぱり一匹狼が似合う人なのだ。瀧本監督は『犯人に告ぐ』における巻島のイメージを市川雷蔵に重ねていたそうだが、実は豊川さん、「かねて、雷蔵さんのあたり役で孤高の剣士、眠狂四郎を演じたいと思っているんです」という。ニヒルなアウトロー役が好きと聞いて、タマネギの皮が一枚はがれ、芯にちょっと近づいた気がした。