Step ahead 日本女性としてさらに輝く先へ

竹野内豊

Yutaka Takenouchi 1971年、東京都生まれ。4月26日公開の『あの空をおぼえてる』(冨樫森監督)は、2001年に公開された日本アカデミー賞優秀主演男優賞受賞作『冷静と情熱のあいだ』(中江功監督)以来2作目の主演映画。本作で竹野内さんは、最愛の娘を事故で亡くした深沢雅仁役を好演している。また3月に公開された『明日への遺言』(小泉堯史監督)ではナレーション、同月に放送された『地球創世ミステリー マザー・プラネット奇跡の島・ガラパゴス"命"の遺産』(TBS系)でドキュメンタリーに初挑戦するなど活動の幅をさらに広げている。
http://www.ken-on.co.jp/takenouchi/


森 鈴香(ジェイヌード)
=インタビュー、文
ミズカイ ケイコ=写真


竹野内豊 インタビュー
内なる自己との
ダイアローグ

気がつけば
映画に出演するのは数年ぶり。
この作品との出合いは不思議な偶然のようで、
でもあらためて考えると
必然だったのかもしれない


作品に呼ばれ
役に導かれて


「言っていること、わかりますか?」
 引き出しのなかにあるたくさんの思いを一つひとつていねいに言葉にしていく。そしてふと生まれた空白を、みずからうめるかのようについで出るのが「言っていること、わかりますか?」。その言葉を投げかけたときの竹野内さんの眼はどこまでも透明でまっすぐだ。
 インタビューで語られた数々の思いのなかでも、もっとも印象深かったのは「ひとを思いやる気持ちは、どんなときも持ちつづけていたい」という言葉。それは『あの空をおぼえてる』の根底に流れるメッセージともつながる。
「最近、いろいろなことを深く感じ、考えることが多くなりました。『こんなにモノが満ちあふれている世の中で、ほんとうに大切なものっていったい何なんだろう』と考えたのがきっかけなのかも」
 どんなに高価なものを手にいれても、ほんとうの意味で満たされることはない、と竹野内さんは言う。では仕事ならば“大切なもの”を見つけることができるだろうか?
「たとえば映画賞のようなだれにでもわかること、達成感のような自分のなかに大きくふくらむもの、どちらも仕事で手にいれることができるかもしれない。でもモノづくりって、そこで満足することなく、さらに先にあるものを追求していくこと。次のもの、また次のものと絶え間なく何かを探し求めつづけていくことなんじゃないかって。でも自分自身、“追求していくこと”イコール“仕事を楽しんでいる”と単純に置き換えることはできないんです。追求するということは、壁に立ち向かわざるをえない瞬間が何度もあるから。かといって苦しみや大変なことにばかり目を向けることもしたくない。以前、現場である人に言われたことがあるんです。『いま苦しんでいる? これまでも笑うより苦しんだことのほうが多かったんじゃない? でもつらいかもしれないけど、竹野内くんが苦しんでくれたほうが、新しい作品を待っているぼくたちにはありがたいんだよ』って。ドキッとしました。自分にとって仕事ってなんだろう、と」
 もちろん仕事は日常、そして人生の大きな部分を占める大切なこと。これまでに積み上げてきたものがあり、これからも力をそそいでいくことにまちがいはない。
「役者としての技術や地位を追求する以前に、いろんなことをみて聞いて感じること。つまり自分がどう生きていくのかがまず大切なんじゃないか。その人の言葉を聞いて、そう思うようになりました」
 そしてある考えにたどりつく。
「たしかな手ごたえを感じている自分と、不安にかられている自分。そのふたつのあいだをずっと行ったり来たりしていました。でもあるとき『浮遊していてはダメだ、ガンと地に足をつけていないと!』と思ったんです。そうしたらあたりまえのように存在している周囲のものでも、気持ちを入れてみていなかったと気づいたんです。おかげで“いちばん大切なもの”もみえてきました」
 仕事は楽しんでするもの、と言い切れなくても、生涯をかけるものだと思っている。そのいちばんの理由がわかったのだ。
「それは出会いということです。かかわりあうひとたちとどういう出会いができたか、どういう話ができたかということ。ほんとうにかけがえのないもの、それは仲間や家族、ひととのつながりだったんです。それがすべてなのだと、ようやくわかりました」
 この作品の主演のオファーが来たのは、そうした絶妙のタイミング。「だれかに『やりなさい』と告げられているような気がした」という。たしかに竹野内さんが演じる深沢雅仁は、竹野内さん本人と似たような感情の流れを物語のなかでたどってゆく。
「脚本を読みはじめてすぐ『自分はこの作品に参加することになる』と直感的に感じました。こんなことはめったにないんです。どうしてだろう? 深沢雅仁という生身の人間の姿が、自分のこころにストレートに伝わってきたからかな」


アクション映画って
イメージに
あわないですかね


 映画が好きで役者の道にすすんだ。「ちょっと遠回りしてますけど」とはにかみながら、とにかくいろんな役、たくさんの作品にたずさわっていきたいと話す。
「アクションシーンもできる身体になってます(笑)。学生のころ器械体操をやっていましたし、いまでも適度な運動は欠かしません。でも倒立をして歩いてみせたら『竹野内豊が逆立ちして歩くなんて思わなかった』と言われました。いったいどんなイメージをもたれているんだろう(笑)」
『あの空をおぼえてる』に出演したことで、またあらたなスタート地点に立った。
「この作品に出合ったことで、これから先の人生に持ち越す必要のないものがあることに気づきました。それは自分のなかにつくりあげた自分自身。これまではそれが自分なんだと信じ込んでいました。知らず知らずのうちにかたいヨロイを背負い武装してたんです。でもそれが、ふと楽になれた。ヨロイを取り去ることができたわけではないんです。だけど自分自身がヨロイに身を固めていると気づけた。そのことに気づかないままあたらしい出会いを迎えずにすんでよかった。ほんとうにそう思うんです」