Step ahead 日本女性としてさらに輝く先へ

松下奈緒

Nao Matsushita 1985年、兵庫県出身。最新主演作品の『砂時計』が現在公開中のほか、おなじく公開中の『チェスト!』にも出演。また現在放映中の連続ドラマ『猟奇的な彼女』(TBS系)にレギュラー出演中。6月14日放送スタートのNHK土曜ドラマ『監査法人』にも出演する。
http://www.matsushita-nao.com/


齋藤正弘(ジェイヌード)
=インタビュー、文
奥村恵子(Image)=写真


松下奈緒 インタビュー
ラブストーリーは
お好きですか?

ラブロマンスはいまでも好きです。
アメリカ映画の『ある愛の詩』なんて
何回みたことか。
日本人にはない恋愛観や
会話のセンスがすてきなんですよね。
出演者が少ないほど
会話の密度が濃くなっていいんです。
それだけでじゅうぶん
生きていけます(笑)


演じる女性と
わたしのこころが
共鳴する瞬間


 14歳のころ、あなたはどんな場所でどんな毎日をすごしていましたか?
 たとえば水分をたっぷりふくんだ青いにおい。あるいは澄みきった冷たい冬の空。少女のころにすごした土地の記憶をたどりながら、松下奈緒さんは当時をふりかえります。
「毎日近所をかけまわっていました。もちろん女優になるなんて、夢にも思ってなかったです。14歳といえば、そのころだったかもしれません。“第1次ピアノやめたい期”は(笑)」
 14歳。それは少女が大人のトビラに手をかけるころ。この14歳から26歳までのヒロイン・杏の成長を描いたのが、奈緒さんの最新作『砂時計』。少女期の杏を夏帆さん、大人になった杏は奈緒さんが演じるダブルキャストもみどころのひとつです。
「この12年間って学生時代の出会いや別れ、そして社会へと旅立つおおきな節目のとき。いいことがあれば悪いことも起きる、女性の人生のなかでもいちばんドラマティックな時期ですよね」
『砂時計』はコミックが原作のラブストーリー。奈緒さん自身の少女コミック体験をたずねると「高校生になってから。おそかったんですよね」と笑う。
「当時はマンガのなかのヒロインにあこがれ、その相手に恋をしてました(笑)。でも『砂時計』という作品は、少女コミックによくある理想や夢をみせるだけの物語ではないんです。大人の女性でも自分自身をふりかえり、みつめなおすきっかけをくれる作品だと思います」
 時計の針をさかさにまわせば、記憶があざやかになるのは家族の思い出。『砂時計』は娘と母、そして祖母の絆を考えさせる家族の物語でもあります。
「わたしも母娘3代で旅行に出かけることがあります。3人ですごしてみると、意外なところで母とおばあちゃんが似ているのに気づいたりして楽しいんです。おばあちゃんって、ちょっと特別な存在。母にはいえないことでもおばあちゃんには話せたり、わたしの知らない母のことを教えてもらったり。これから母がつちかっていく体験をすでにつみかさねた、もうひとりのおかあさん。それがわたしにとってのおばあちゃんです」
 物語のなかで杏は母を亡くし、その死の責任を背負い、もがき苦しみます。
「杏という女性はメンタル面でちょっとキツイところがあります。でもわたし自身は他人にいえない悩みを『どうしよう……』と抱えることはあまりないんです。ですからそのぶん、演じる女性の人生では徹底的に悩んだり、わめいたりできる。そうすることが松下奈緒のこころを開放して、気持ちを発散できるんです」
 奈緒さんの人生体験になかったことが、ほかにもいくつかありました。
「誰もいない海岸を一人で歩いている杏が、突然砂浜に倒れてしまう。台本にはみじかいト書きだけで、セリフはいっさいありません。歩くだけの演技がこんなにむずかしいのかと思い知らされました」
 砂浜で倒れる杏の背景には荒涼とした海が映し出されています。それは杏の置かれた状況や心理が投影されています。
「でも女優としては風景の力に頼るのはイヤなんです(笑)。言葉にはできないなにかが表現できるよう、なんども納得するまで撮影しました」


おおきな愛に
包まれている杏。
それは恋人の
言葉でもわかります


 そしてつかんだ手ごたえが、奈緒さんにさらなる自信をあたえました。
「ピアノの練習や作曲の場合、うれしいと気分が乗るし、イヤなことがあればいっさい手をつけません。ピアノはわたしのこころの鏡。でもいざステージに立てば座長はわたしですし、レコーディングでもわたしが作品をつくっていく。おなじように『砂時計』では『自分が作品をひっぱっていく』とつよく意識して撮影にのぞみました。物語のなかで恋人の大悟が杏にいいきかせるセリフがあります。『おまえを幸せにできるのは、おまえ自身しかいない!』。ほんとうにそのとおりなんだと思います」