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Step ahead 日本女性としてさらに輝く先へ
Shinichi Tsutsumi 1964年、兵庫県生まれ。2008年は映画『山のあなた~徳市の恋』(石井克人監督)、『クライマーズ・ハイ』(原田眞人監督)につづき秋には『容疑者Xの献身』(西谷弘監督)の公開がひかえている。また舞台『人形の家』(デヴィッド・ルヴォー演出、ヘンリック・イプセン作、9月5~30日、Bunkamuraシ
アターコクーン)、『イリュージョンコミック 舞台は夢』(ピエール・コルネイユ作、鵜山仁演出、12月3~23日、新国立劇場)に出演予定。デヴィッド・ルヴォーの作品に出演するのは26歳のときの『双頭の鷲』にはじまり、今回の『人形の家』は8年ぶり11作目になる。 http://www.siscompany.com/02manage/
森 鈴香(ジェイヌード) =インタビュー、文
奥村恵子=写真
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堤 真一 インタビュー
なにかが動き、なにかが変わる
デヴィッドとの仕事はなにもわからず、
なんでも学ぼうとしていたころの自分を
よみがえらせてくれる。
だから彼のまえではとりつくろうことも
わかったふりもできないんです。
いくつになっても
はじめての体験がある。
こんな微妙な男を
演じることのようにね
それはまだ、西日が強くながく照りつけるころのこと。この日の稽古を終えたばかりの彼は、よく引き締まったカラダに映える黒のタンクトップ姿で現れた。夏が似あう人だ。
「休憩中に考えてたんですけどね。“8年ぶりにデヴィッドとまた仕事ができる、しかも『人形の家』。なんて最高なんだ!”と手放しでよろこべない自分がいる。でもこの作品はいまのぼくにとっての運命、いや宿命のめぐりあわせなんだと」
その休憩時間はこんな光景だった。日本でも数々の舞台作品を手がけてきたイギリス人演出家のデヴィッド・ルヴォーさん。そのそばにヒロインを務める宮沢りえさんと堤さんがいた。
「わたしは人間よ!」と悲痛の叫びをあげる、妻のノラを演じる宮沢りえさん。そして「奇跡のなかの奇跡」の言葉で幕を閉じる夫のヘルメル役の堤さん。その舞台をいかにルヴォーさんが仕立てていくか、期待はおさえられない。それだというのに、堤さんは複雑な表情を浮かべる。
「これまでいろんな役を演じてきましたけど、ヘルメルほど好きになれない男はいない。こんなに嫌いな男を演じるのは、はじめてといってもいい。それなのに周囲の人たちは
『はまり役だ』なんていう。『オレはこんなにイヤな男だったんかい!』ってカチンとしましたけど(笑)。でもね、ひょっとしたら自分で気づいていないだけで、もっと知らなければならないヘルメルがいるのかもしれない。そう思いはじめているところです」 ノルウェーの劇作家イプセンの名作『人形の家』は、19世紀後半まで支配的だった古い秩序と道徳観にしばられた夫婦(=男女)関係の崩壊、そして“新しい女”の時代の到来を予見するものとしてセンセーションを巻き起こした。以後、世界各地でくりかえし上演されているが、この女性賛美の物語はときに政治的にあつかわれることもあった。
「いまや女性のほうが強いくらい。でも一部では、本来の女性の価値を損なうような状況を招いているようにも感じる。たとえば幼さやか弱さを商品化したり。だからこそ現在の日本で『人形の家』を上演する意味があるはず。そうデヴィッドとは話をしています」
そしてこのヘルメルとの出会いが、運命をこえた宿命という言葉につながる。「どこまで自分を捨てることができるか? 硬いカラで覆われてしまった自分自身の価値観を内側からつついて破ることができるか? それが問われているのだと思うんです。来るべくして訪れた宿命なのだと」
霊場・熊野への道。
それは守らない力を
手に入れるための旅
信じるのは自分の直感と行動。それはもう仕事以外でも実践済みだ。
「2年前に紀伊半島の熊野古道をひとりで旅したんです。でもね、ぼくは身支度とかが大の苦手で。だからひとり旅なんて、もっとも苦手なことのひとつ。それなのに、そのときはひとりで行こうと決めた。その気持ちを尊重しなければならないと。放っておくと人は守りに入ろうとするもの。でもいまのぼくに必要なのは、守らない力をつくりだすこと。そう思ったんです」
ひらめきを決意に昇華させ、歩きついた果てにある境地にたどりつく。
「熊野本宮大社の神殿でお参りしようと手をあわせてみたら、祈るべきことがなにもない。なんかあってもいいじゃないですか? 『仕事がうまくいきますように』とか『彼女ができますように』とか。それがなにもない。だからすーっと浮かんできた言葉をこころのなかで静かに唱えました。『来ました』と」
誰かに、何かにすがろうという気持ち自体、消えてしまったと堤さんはいう。
「ノラはこころのなかにずっと秘密を隠してきました。その秘密が明るみに出るとき、そこに奇跡が舞い降り、すべてを救ってくれるはず。彼女はそう願いつづけてきたのです。しかし彼女の祈りはかなえられない。そうと気づかされて、はじめてノラは自分が変わらなければ、なにも変わらないことを悟るのです。奇跡なんて存在しないんだと」
物語と堤さんの心境がここにリンクする。それもまた堤さんにとって『人形の家』が宿命であることを物語っている。
「ぼくのなかでなにかが動き、変わる。その小さな革命を、この『人形の家』でみずからのうちに起こしてやろうと思ってます」
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