Step ahead 日本女性としてさらに輝く先へ

松田龍平

Ryuhei Matsuda 1983年、東京都生まれ。12月20日公開の『悪夢探偵2』(塚本晋也監督)で主演をつとめる。09年は『誰も守ってくれない』(君塚良一監督、1月24日公開予定)、『劔岳 点の記』(木村大作監督)、『蟹工船』(SABU監督)などが待機中。『誰も守ってくれない』と対極の視点で描かれるドラマ版、土曜プレミアム『誰も守れない』(09年1月24日21時よりCX系でオンエア)も。また1月4日放送開始の大河ドラマ『天地人』(NHK総合、毎週日曜20時~)や舞台『メカロックオペラ R2C2』(宮藤官九郎作・演出、4月27日~5月31日/東京・パルコ劇場、6月/大阪・イオン化粧品シアターBRAVA!)の出演も決定している。
http://www.ryuhei-matsuda.com/(PC)

森 鈴香(ジェイヌード)
=インタビュー、文
奥村恵子=写真


松田龍平 インタビュー
あの日のままに いまを生きていく

女性スタッフってだいじです。
たったひとりでもほっとする。
女優さんもそう。現場の空気がやわらかくなる。
花をみるときのような
やさしい気持ちになるんです。


転がる石にも
苔をまとわせたい


 斜光がまぶしい秋晴れの朝、すこし眠そうな眼で現れた松田龍平さん。この日は連日つづいている映画の撮影がお休み。
「いま撮影中の作品のあとにもう1本撮るんですけど、それで今年は終わり。来年の公開のときには思い切り宣伝できるようにがんばらなくちゃ(笑)」とつぶやくように冗談を言います。
 そして今年最後の出演作となるのが『悪夢探偵2』。他人の夢に入る能力をもち、他人のこころの声が聞こえてしまう影山京一を演じています。
「こころの声が聞こえる。それって超能力のようだけど、だれしも他人を雰囲気や態度で感じとったりしますよね。その延長のような気がするんです。感じとる力がもっと具体的になると、相手の気持ちもみえてくるんじゃないかな。だから京一の力って、それほど現実離れしたものではないと思うんです」
 役者は自分ではないほかの人物のこころに入りこみ、重なり、同化する。演じる人物のこころを感じとる作業をどこかの過程でしているのかも……。
「役者の仕事って具体的でたしかなものがない気がするんです。『経験がモノをいう』とはいいますけれど、ぼく自身が実生活で経験できないことは山ほどある。だから役については“知る”という行為とはすこしちがう。自分なりに『ここまででいいかな』というラインをつくっていきます。そうしないと突き進みすぎて、結果的にわからなくなってしまったりするんです」
 そして一呼吸置き、胸にざわっとした空気が吹きぬけるようなほほえみを浮かべて、こうつづけます。
「単純でいいんじゃないかなって。ぼくがあえて“単純”でいることで、つけくわえられるものがたくさんあるから。たとえば脚本の解釈だったり、監督のイメージだったり。そんなぼくではない“外からの刺激”で自分を転がしてほしいんです。あえてわからないことはわからないままにする。『経験してみたい』という気持ちがあれば、転がされていくことに意味がでてくると思うから」
 だからこそ自分にまったくない部分がある役を演じてみたくなる。
「自分を変えたい、自分をもっと知りたいということなんでしょうね。どこまでできるのか自分に挑んでみたい気持ちもある。自分がどんな人間なのか、いまでもわからないからかな」
 いつしか龍平さんのまなざしは鋭くなり、瞳にはすがすがしさが宿っています。
「でも演じる役の感情の波が激しいほど、自分にないものが波打つわけで、すごく大変なんです。それがさらに自分自身をうまくコントロールできない時期と重なると、芝居なんてできなくなってしまう。だからつねに自分をまっさらにしておきます。そうするとひとの言葉もちゃんと入ってくる。“自然体”って意識しないとなかなかできないから、だいじなのは思いこみ(笑)。ぼく、正直すぎて切り替えがじょうずじゃない。でも、そんな自分にウソだけはつきたくないんです」


落ちていく果てに
たどりついた原点


「かっこいいひとを目の当たりにすると、やっぱりうらやましいし、落ち込むし、悔しいですね」
 年明けに公開の『誰も守ってくれない』で共演した佐藤浩市さんについてたずねると、そんな言葉がかえってきました。
「おなじ仕事をしている者としてそう感じます。現場では主演俳優として、すべて見通している雰囲気が浩市さんにはありましたね。その姿を言葉にすると“かっこいい”のひと言かな」
 それは年齢や経験とはまたべつのものだと言います。
「経験を積めば自分も同じことができるのかといえば、そうではないと思うんです。『じゃあ、どうなんだ?』と聞かれると……、ひと言ではむずかしいですね。そういう話は恥ずかしいから、あんまりしたくないかな」
 照れ笑いをして下を向く。でも、たいせつなことを簡単に口にするのを厭うのは、つねに考えるという行為をだいじにしてきたから。
「役者って、なにかを練習すれば成し遂げられるものじゃないから、とにかく頭に浮かんだことについて、ひたすら考える作業をするしかないと思ってきました」
 でも数カ月前に、べつの流れが龍平さんを掬いました。
「なにかに悩んで考えすぎていた時期があったんです。ぼくはダメになったら無理して這いあがろうとせず、とことんダメになろうという性格だから(笑)。そのときふいにひとつの言葉が浮かんだんです。それはだれでも一度は口にしたことがあるような、とてもシンプルな言葉」
 そのときの感情がよみがえったのか、龍平さんの言葉に熱がこもりはじめました。
「それ以来考えこまなくなりましたね。いまでもその言葉を思い出すとパワーがみなぎるんです」
 最近あらためて思うのは「モノづくりをとことん楽しみたい」ということ。
「この仕事をはじめたころ、友だちとショートフィルムを撮ってたんです。モノづくりが純粋に楽しかった。いまは趣味で撮るのとはちがって、何十倍もの職人がかかわっています。でもその大勢のプロフェッショナルといっしょに純粋に楽しんで作品をつくっていきたいと思いますよね」
 そして一つの作品の撮影が無事に終わったときのよろこびを楽しそうに話してくれました。
「打ち上げのときの『終わった、バンザイ!』という空気がほんとうに気持ちいい。いっしょに仕事できてよかった、みんなでつくったぞと感じますよね。決められた時間や制約のなかで、たくさんの仲間と緻密につくりあげてきたからこその充実感なんです」
「打ち上げでははじけますか?」とたずねると「……。そうですね、人並みには」とまた、照れくさそうに小さくほほえみました。