Step ahead 日本女性としてさらに輝く先へ

アンジェラ・アキ

Angela Aki 1977年、徳島県生まれ。2005年9月にシングル『HOME』でメジャーデビュー。06年リリースの1stアルバム『Home』のセールスは60万枚を超え、同年武道館の公演史上初となるピアノ弾き語りライヴをおこなった。09年は2月25日に3rdアルバム『ANSWER』をリリース、4月4日からはじまるライヴツアー「Concert Tour 2009 ANSWER」では全国43カ所53本の公演をおこなう。
http://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/
AngelaAki/


森 鈴香(ジェイヌード)
=インタビュー、文
ミズカイケイコ=写真


アンジェラ・アキ インタビュー
鏡の中のわたしがくちずさむメロディー

歌で愛を伝えようとする以前に
どんな過去も自分のイヤな部分も
許してあげなければいけない。
自分を愛せてるのかという確認作業が
必要なんです。
自分と向き合わなければ
先には進めないと思うんです。


わたしの歌が
エールを贈っているのは…


 飴色のつやが出た木製のオルガンを開け、象牙色の鍵盤に指をのせて目をつむる。ふたたび目を開けたのを合図に、あたたかみのあるオルガンの音色にのせて、アンジェラ・アキさんはハミングをはじめました。そしてサヌカイト(石琴)というめずらしい楽器を見つけると、とてもはじめてとは思えないほど軽やかに自作のナンバーを奏でます。 「まだ誰もしていないことに挑戦したくなるんです。音楽に限らず、それがわたしの人生のテーマなのかもしれません」
 新作アルバム『ANSWER』に収録されている『レクイエム』。この曲も大きな“チャレンジ”でした。フルコーラスの演奏時間が11分という長さ。それをオーケストラや混声合唱団総勢40人でレコーディングをしたのですから。
「演奏時間の尺という制約を飛び越えました。そして、より自分を自由にしてつくった曲です。これまでも『宇宙』や『モラルの葬式』のように自分のダークサイドっていうのかな、『わたしがやりたいだけ。だからわかってもらえなくてもかまわない』と思いながらつくった曲はあります。でもありがたいことにファンは受けいれてくれました。だったらこの世界観も無理して閉ざさず、もっと踏み込んでもいいかなって。奇をてらいたいわけじゃないですよ、未知の世界をつくってみたいんです。チャレンジから得られることって想像以上に大きいから」
“アーティストとしてのエゴ”ということに話がおよぶと、アンジェラさんは目を大きく開き「うまくこたえられないかもしれないけれど」と、一呼吸置いて言葉をつづけます。
「チャレンジから何を得たいのか、どうすれば自分は満足できるのか? つねにそう考えていることがエゴなのかもしれません。自分の作品を好きになれないひとのほうが多いと思うんです、アーティストって。コンプレックスの塊(笑)。少なくとも、わたしはそうです」
 そして「あくまで、わたしの感じかたですけれど」と前置きをしながらも、会話のピッチはあがってきます。
「“アベレージ”なアーティストの芯にあるのはコンプレックスだと思うんです。だからこそわたしの歌は日々成長しているし、自分を満足させるべくアベレージを進化させられると信じています。コンプレックスから生まれたとしても、生まれたものに満足を追求する。それがアーティストのエゴだと思うんです。そしてそこにはエネルギーをともなうチャレンジが必要なんです」
 アベレージを自任する一方で、「他人よりずば抜けてすごいところ」もアンジェラさんは自覚しています。
「それは“願望”(笑)。わたしの場合、音楽の才能よりもその想いのほうがはるかに大きいんじゃないかな。『やってやるぞ』という気持ちですよね。願望があるからこそチャレンジをつづけられるんだと思う」
「デビューしたい。歌いつづけたい」。その願望だけを頼りにメジャーデビューまで10年。
「表現したいだけなら部屋でひとりで歌ってればいいんやけど、そうじゃなかった」  アンジェラさんの言葉にはますます熱がこもってきます。
「コンプレックスをそのまま表現しても価値はありません。だからこそ葛藤が生まれるんです。コンプレックスの存在をこころにとめおきながら、詞を書き、曲をつくる。その作業は“無から有へ”という創造をすること。だから搾り出す苦しみがつねにともないます。そしてそれをかたちにして世に出すのには、とても強い意志が働いているんです」  その意志がアーティストのエゴ。だから自作の曲が“応援ソング”と呼ばれることには戸惑いがあるといいます。
「だれかを励ます歌なんてようつくらんから、応援しているつもりはないんです。自分のもやもやの原因を突き止めるためにピアノに向かう。そうしてできあがった作品はわたしに対するエールなんです。こころのなかで葛藤している天使と悪魔のあいだに『まぁまぁ』って仲裁に入る第三者としての自分へのエール。それが結果としてだれかの背中を押すことができたとしたらうれしいし、ありがたいです。でもわたし自身がしているのは、自分を知るための作業なんです」


存在しないものに
命をあたえる。
わたしには
その責任がある


「『孤独を飼いならしなさい』。これは尊敬する瀬戸内寂聴さんの言葉です。孤独は生まれたときから皮膚の一部。だからこそコントロールできるようにならないと人生楽しくないよって。ほんとうにそう思います。
『We're All Alone』という曲では、たとえ恋人とラブラブでも、幸せな家族をつくっても、その幸せを失うかもしれないという不安も孤独のひとつだと歌っています。音楽も自分と向き合うことで生まれてくるもの。その作業自体がすでに孤独なんです」
 そして「“自分大好き”って、ほんまはいないんちがうかなぁ」とつづけます。
「いわゆるナルシシストも本当は自分が嫌いだから、自分が好きでたまらないようにふるまってるだけじゃないかな。自分を好きになれないから生きることってたいへんなんです。でもその好きになれない部分もふくめて、鏡とにらめっこするの。コンプレックスというものは、ずっと向き合っていかないと強さに変わっていかないと思うんです」
 でも作業はいつ終わるともわからない。なにが正解で、どこがゴールなのか? つまりこの作業そのものが孤独を飼いならすということ。
「恋愛、家族とのこと、自分の将来、キャリア。いろんなことに対して、現在の自分なりの答えを探したくなっているんです。このアルバムにあるのは、わたしというひとりの女性が、答えを求めて自分自身と向き合うプロセスそのもの。だから『答えはこのなかにあるんだよ』という道しるべではないんです」
 たとえそこに答えが見いだせなかったとしても、大切なのは求めていくという強い意志。その意志の力が全曲を作詞、作曲、アレンジ、プロデュースするという『ANSWER』の作品の密度を濃くしています。
「自分ひとりですべてを担い“無から有にする作業”を行うことで、シンガー・ソングライターとしての責任をとることができたと思います。そこにはずっしりとしたよろこびがありました」と眼鏡の奥の大きな瞳に強い輝きをたたえて静かにほほえみました。