Step ahead 日本女性としてさらに輝く先へ

加瀬 亮

Ryo Kase 1974年、神奈川県生まれ。2009年は山田太一さん脚本のフジテレビ開局50周年記念ドラマ『ありふれた奇跡』(1~3月放送、CX系)で主演をつとめたほか、5月23日公開の『重力ピエロ』(森淳一監督)、『インスタント沼』(三木聡監督、5月公開予定)、『プール』(大森美香監督、9月公開予定)、『おとうと』(山田洋次監督、10年1月公開予定)が公開待機中。
http://www.anore.co.jp/kase/

森 鈴香(ジェイヌード)
=インタビュー、文
ミズカイ ケイコ=写真


加瀬 亮 インタビュー
この道はいつか来た道?

30歳になったとき、楽になりました。
やっと一人前にあつかってもらえる気がして。
でも、それはほんの一瞬でした。
いまも20代の役が多くて、
どっちつかずな感覚なんです。 若い役は精神的にも肉体的にもしんどい(笑)。
いっぱい走らされたりね!


写真のなかのぼくに
“色”はついて
ないほうがいい


「このシチュエーションで、ぼくはどうすればいいんだろう(笑)」
 ポートレート撮影のために用意した森の小道の布バック。その絵をじっと見つめながら加瀬亮さんは考えます。
「どれだけシュールを極められるか。レゴブロックの人形をたくさん並べるのもいいよね。でもここに写るぼくには“色”がついてないほうがいい気がする。無表情? 直立不動がいいかな」
 そして小道を駆けてきたポーズをとってみたり、足を投げ出して座ったり。アクションはユニークなのに、無表情を貫く加瀬さん。そして試し撮りのポラロイドをチェックしながら、仕上がりのイメージを写真家と話しあいます。それは加瀬亮という役者のものづくりへのスタンスが感じられるひととき。
「『重力ピエロ』の撮影初日、頭が真っ白になりました。ぼくはこの作品のなかに死のにおいがするシリアスな空気をとらえて、そこにリアルな気持ちをいれていこうと考えていました。でも森淳一監督はそうではないという。『じゃあ監督はこの映画で何をしようとしているんだろう?』とこんがらがってしまったんです」
 そこから監督との話し合いはつづきました。
「登場人物たちの境遇は重くて、しんどいかもしれない。でも、さわやかな青春映画にしたい。またミステリーとしてのエンターテインメント性と作家性のバランス感を大事にしたい。それが監督からはじめに伝えられたことでした。しかしどちらの要素もぼくの頭にはなかった。森監督は独特の不思議なバランス感覚をもっているひとなんです」
 絶妙なバランスをつくるために、ふたりがとりくんだのは“重さの調整”でした。
「たとえば岡田将生くんが演じる弟の春、セリフが重いとします。それを岡田くんはわざと軽やかに話し、ぼくが重く受けとめる。そうすることで軽さ本来の意味が生きてくる。そんなふうにトーンをつくっていきました」
 この物語の主役は加瀬さんの演じる泉水と設定されている。でも加瀬さんは岡田さんの演じる春が主人公であり、小日向文世さん演じる父親も主人公だと断言します。
「ぼくはふたりの動きにただ反応していけばよかった。台本ではまったくリアリティーを感じない家族が作品としてちゃんと成立するのか? はじめはそう思いましたが、小日向さんが現場に入ってきたとき、この家族はいるんだと信じられるようになり、映画が一気にまわりはじめたんです」
 実際、加瀬さんは小日向さん演じる父親に対して、「こんな弱い父親になりたくないし理解できない。何やってんだ、オヤジは!」という感情が“感謝と尊敬の入り交じった、同性としてとても大きな存在”に変化していく体験をしたのだそうです。
 その一方で若い役者たちから感じることも多いといいます。
「彼らが緊張したり迷ったりしているのが、ものすごく新鮮に映って、大きなものをもらいました。岡田くんや吉高由里子さんは予想できないかたちで向かってくるから、すごく楽しかった」
 現場でのやりとりを思い出したのか、くすりと笑います。
「先日も別の作品で芝居ははじめてという女性と共演したんですが、本読みの段階ですごくドキッとさせられました。いい意味でなめらかではないんです。それにすごく感動したんです。岡田くんにも、そういうところがありました。気持ちも演技もデコボコしてる。きれいに整えられたものには引っかからない。逆にデコボコこられると自然に反応してしまうんです」


先達たちのトビラは
進んでたたこう


 現場ではいろんな世代が交錯し、これまで培ってきたもの、いまその瞬間のひらめきを出しあう。それは化学変化? それとも、もちつきやチャンバラ? 幾重もの交わりが、こころにたくさんの揺さぶりをかけるようです。
「いま参加させていただいている山田洋次監督の現場には、吉永小百合さんをはじめとする大先輩たちが、よいと信じてつづけてきたものがある。ぼくはそこからたくさんのものを受けとり、また、ときに『やっぱりここはぼくにはわからないな』と感じる。それは実際に体験しないと伝わってはこないんです。そうやって体験を重ねることで、ぼくたちの世代、というかぼく自身がよいと思える形が確固としてくると思うんです。『東南角部屋二階の女』では、小津安二郎や溝口健二といった先人の話を、香川京子さんから聞かせていただきました。ぼくの知らない時代を知るひとたちの話を、なるべくたくさん聞いておきたいという衝動が、しばらくつづいていたんです」
 積極的に先輩の映画人たちと交わる機会をつくろうとしている加瀬さんは「けっして憂えているわけではないんですが」と前置きをして、こういいました。
「ぼくは映画の未来にそれほど大きな期待をもってはいないんです。消えることはなくても、ぼくが考える“映画”は縮小していくような気がするんです。でも映画が映画として存在する限り、ぼくはつづけていきたい。映画が変わっていくことに、ぼくという個人になにかができるわけではありません。ぼくは、ただ、自分ができること、好きなこと、よいと思うことをひたすらつづけていくしかないし、つづけていきたい。そう思っています」