Step ahead 日本女性としてさらに輝く先へ

長澤まさみ

Masami Nagasawa 1987年、静岡県生まれ。現在放映中のNHK大河ドラマ『天地人』ではミステリアスな女性・初音を、TBS日曜劇場『ぼくの妹』では天真爛漫で勝ち気な江上颯と、まったく異なるふたりの女性を好演。映画作品は6月27日から全国ロードショーの『群青 愛が沈んだ海の色』、今冬公開予定の『曲がれ!スプーン』が待機中。また『長澤まさみSweet Hertz』(ニッポン放送系列、毎週日曜22時~22時30分)ではパーソナリティとしてレギュラー出演中。『長澤まさみ smart』(宝島社)も好評発売中。
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齋藤正弘(ジェイヌード)
=文
奥村恵子(Image)=写真


長澤まさみ インタビュー
仕事 ドキュメント わたし

女優とキャスト
ふたりの女性が
重なりあう瞬間


 青空を背に立つ、琉球赤瓦の民家。その庭先にはブーゲンビリアが花をつけ、南風に吹かれてフクギの葉は揺れる。沖縄。ひとはそこに永遠の楽園を夢見る。
 でもそこがほんとうにパラダイスだとしたら、沖縄のひとたちから笑顔が消えることがあるのは、どうして? 沖縄のひとたちに癒やしが必要なときは、どうすればいいの……。
 長澤まさみさんは去年の夏を沖縄の渡名喜島ですごしました。そこは沖縄本島から海路で2時間以上かかる離島。那覇とのあいだを往復する1日2便の連絡船の積み荷には、島民がネットで注文した生活必需品なんかもあること。島内に一軒だけの喫茶店のアイス白玉ぜんざいがおいしい。島での日々をふりかえりながら、まさみさんは教えてくれました。
「知らなくてもいいことは知らなくて済む暮らしが、渡名喜島には保たれていると思いました。都会とは全然ちがう感覚。情報に踊らされたりしない、キレイなこころのひとが多いんだろうなぁって」
 まさみさんがこの島でひと夏をすごしたのは、最新主演作『群青 愛が沈んだ海の色』の撮影のため。タイトルが示すとおり、まさみさんが演じるヒロイン・凉子は最愛のひとを失い、海の底のような深い悲しみに沈みこみます。
「身近なひとを亡くすという体験は、わたしの場合、去年の冬にはじめてありました。亡くしたのは肉親だったんだけど、なぜかわたしはその死に実感がもてなかったんです。中学2年でこの世界にはいり、親もとを離れてひとりで暮らしているから、ほかの身内とは受けとめ方がちがったのかもしれません。『群青』の凉子が直面したのは、小さいころから家族よりもずっといっしょだったひとの死。わたしが経験した死との向きあい方とちがって、凉子の体験は、はるかにリアルで強烈なんだと感じられました」
 それは、はじめて味わった不思議な感覚だったそうです。
「役づくりというものは、役者自身の人生経験、といわれることがあるけど、『それはちがう!』とずっと思ってました。でも、こういうこともあるんだなって。もっともっと想像力をかきたてられる、いい刺激をみつけられた気がします」
 撮影中、まさみさんの映像が一つひとつカメラに収まっていくたびに、中川陽介監督は感激の涙を流したそうです。原案から手がけた中川監督の作品に寄せる思いは、熱く深かったようです。でも仕上がったのは感情に流されない、みごとな引き算の映画。
 だからこの物語には、あらゆることを大きな優しさで包みこむ、おばあの笑顔はありません。ガジュマルの木に棲むキジムナーのような精霊も出てきません。ファンタジーの力に頼ることなく叙事的に描かれるのは、父と娘2代にわたってくり返される愛の痛みと再生の物語。
「お父さん役の佐々木蔵之介さんをはじめ、ほかの共演者のみなさんとは宿泊先がちがってましたし、凉子は“無”を抱えてしまう女の子。だから渡名喜島では、ほとんどの時間をひとりですごしてました。その時間は気持ちがぶれないよう、精神統一をしていた感じです(笑)。でもひとりの時間をくり返していくうちに、凉子という役をのぞいてしまったら、『わたしにはなんにもない』って気持ちになってくる。ニンゲンって、いくらでもどん底になるんですよね」
 それはまさみさん自身の体験でありながら、凉子という女性がおちいった無の時間と重なりあう。
「イヤな自分を思い出したりして、ちょっとつらかったです。でもそれはきっと自分を見つめ直すために必要なことだったんだと、いまは思ってます。わたしは仕事ニンゲンとは思っていないけど、もともと興味があってはじめたことだし、途中でやめたり、逃げ出すのは悔しいから、この仕事をつづけてきました。でも学生のころはプライベートや学生生活もあったけど、どうしても仕事の時間のほうが増えてくるんですよね。ふりかえると、わたしの青春って仕事ばかり。だからといって、自分の時間がなかったとは思いません。ほかのどの時間よりも、仕事の時間が多かった。それがわたしの時間なんだなって」


これまでも
そしてこれからも
自分に誠実で
ありつづけるように


 スタッフがひとり、またひとりと体調を崩していくなかで、主演女優として現場を勤めあげるために絶食をとおした酷暑のインドの日々(2007年ドラマ『ガンジス河でバタフライ』)。生まれてはじめて金縛りにあい、甲冑をつけた武者が枕もとにあらわれた地方ロケの夜(04年映画『深呼吸の必要』)など……。これまでの仕事も、そしてこれからの仕事も、すべてまさみさんにとっての自分の生活なのです。
 そういえば、ある出演作について、こんな話をしていました。それは作品を観た自分の子どもから「お母さんて、おもしろいね」というひと言が聞きたいと……。 「まだまだ自分の人生を語るほど生きてないし、ほかの仕事にも就ける年齢でもあるし。でもいまの世の中、仕事があるだけわたしはしあわせだと思うんです。きっとわたしの青春はいまもつづいているし、これからもずっと青春なんだって」