Step ahead 日本女性としてさらに輝く先へ

小出恵介

Keisuke Koide 1984年、東京都生まれ。2009年は10月31日公開の『風が強く吹いている』(大森寿美男監督)、12月19日公開の『のだめカンタービレ 最終楽章 前編』(武内英樹監督)が待機中。また10年の春には『のだめカンタービレ 最終楽章 後編』(同)、『パレード』(行定勲監督)の公開がひかえている。現在TBS日曜劇場『JIN─仁─』に出演しているほか、撮りおろしの写真集『小出恵介by藤原江理奈 Days in India』(Bbmfマガジン、2940円)も好評発売中。
http://www.amuse.co.jp/koide/

森 鈴香(ジェイヌード)
=インタビュー、文
奥村恵子(image)=写真


小出恵介 インタビュー
ひた走って見えてきた指定席

ぎゅうっと追いつめられるのも大切。
でもそうでなくても自分の限界を
広げることはできるはずです。
成長を状況に頼ってはいけない。
そうすると鈍ってきてしまうから。
10以下の力でできることも
10以上出さなければできないものに
自分で変えていきたいんです。


表があって裏がある
リアリティーに
気づきました


 1年前、小出恵介さんは蜷川幸雄さん演出のシェイクスピア喜劇『から騒ぎ』の公演を終え、楽屋で汗を拭きながら精神と肉体からわき起こる熱を抑えきれない表情で話してくれました。
「やっと居場所を見つけた気がします。役者としてひとつのベースとなる作品に出合えました。この仕事をこころから好きだと感じるようになったんですよね。意欲もいままでとはくらべものにならないぐらい(笑)」
 そんな大きなギフトをくれた『から騒ぎ』の稽古前から、もうひとつ走りだしていることがありました。それは映画初主演となる『風が強く吹いている』。
「この作品ではかなり追い詰められました(笑)。初主演ということを意識しないようにはしていたんですけれど、やっぱり意識していたみたい。その重圧と役柄そのもののむずかしさで、あっぷあっぷしてました」
 小出さんが演じる清瀬灰二は、大学の陸上部の寮に住む幽霊部員たちを説得して箱根駅伝に出場するためにリーダーとして、監督として、そして全員の母親のようになってみんなのこころをまとめ上げていく男。
 長距離を走るためにフィジカルなトレーニングも必要とされました。
「台本を読んだ時点で、この作品のカギはやはり走っている姿だと思ったんです。観ている人が応援したくなったり、何かを見いだせる姿でないと嘘で終わってしまうんじゃないか。そんな不安がありました」
 走ることをとことん追求したかった小出さんは、撮影に入ってまもないころ、走るシーンを撮るのが怖かったとふりかえります。それはまだ満足のいく走りに到達できていなかったから。
「でも練習を重ねるほどに自分のなかに変化も感じられて、人前で走ることを楽しめるようになりました。トレーニングで苦しい思いをすればするほど、自分が役に近づいている感覚があって気持ちよかった。撮影で地方に行ったときも夜はひとりで走っていました。こうやって感じたことが作品にすべて乗っかっていくんじゃないかというような気がして。ひとつのことをやり遂げるには、犠牲にすることもあって、みずからを賭していかないと役に対しても失礼だと思うんです。役をほんとうの意味で自分でつかめるようになりたいって、この作品で強く思いました」
 ランナーとしての灰二に自分を重ねていく作業にくわえて、灰二という人間の多面性にも、小出さんらしいアプローチで近づいた。
「なかなか手ごわい男でしたね(笑)。みずからの真情を吐露することはほとんどなくて、つねに“みんなのための自分”でしかないように見える。でも大学生で、あんなに器が大きい男ってほんとうにいるんだろうかと、内心思っていたんです。だからその“裏側”を埋めていく作業をたいせつにしました。そうしないと人間味が出ない。芝居やセリフに直接的に表現されていなくても、その思いを持っておくだけでちがいます。そうすると灰二の言動もしっくりくるんですよね」
 献身的でカリスマ性があって、周りの人間が「灰二が言うなら」とついていってしまう人柄には、うさんくさささえ感じたという小出さん。
「でも監督と話してみて、灰二は純粋に仲間を愛しているし、ただ自分がしたいことを自分なりの方法でやろうとしている男なんだ、という方向性に落ち着きました。そうやっていろんな可能性を考えると、役とのかかわりかたも変わってきます。彼が体験した挫折、彼が見たどん底の景色、人を恨んだことも、孤独だったこともある。そんな背景があって、いまの灰二があるということをいつも考えていたかったんです」
 20代の共演者たちと長い時間をすごした『風が強く吹いている』。そして今年の出演作『ROOKIES─卒業─』『ごくせん THE MOVIE』、来年公開がひかえている『パレード』。ここ最近、小出さんは同世代の役者たちとの共演がつづいています。
「芝居談議もしますけれど、話をしなくても相手がどんな芝居をしたいと思っているのかがわかるようになってきました。それぞれやりかたがちがって、それを見て考えることもある。でもいまは自分のやりかたがすごくしっくりくるから、それをもっとつきつめて、どうなるのかをためしてみたいんです」


ぼくとおなじ
年のころ
あの名優たちは…


『風が強く吹いている』に参加したころから、いくつかの映画の撮影を経て、“自分のやりかた”が見えてきた。
「映画にがっつり入っている時期って、自分の状態がすごくいいんです。あいだに『から騒ぎ』もあって、その流れのなかで、なにかひとつ自分のなかでできあがってきたものがありました」
 その感覚が途切れることを避けたくて、小出さんはオフの恒例行事の海外旅行も今年はひかえたそうです。
「海外に行くと自分のなかのものが一回抜けちゃうんですよね。それがいいときもあるけど、今はそうしたくなかったんです。ずっとスイッチオン状態でいたくて(笑)。そのかわりではないけれど時間があれば映画を観ています」
 最近よく観るのはロバート・デ・ニーロやアル・パチーノの若かりしころの作品や過去の日本映画。
「ぼくぐらいの年齢のころ、彼らがなにをしていたのかということが気になってしかたがないんです。彼らはとんでもない切れ味! 邦画でも松田優作さんの作品や、深作欣二監督の『蒲田行進曲』、阪本順治監督の『トカレフ』や相米慎二監督の作品なんかを観ています。役者さんの顔つきがいまとは全然ちがいますよね。飢餓感というんでしょうか、すごくギラギラしてる。そんな彼らの芝居から感じられる、何かこころにぐちゅぐちゅとひっかかってくる得体のしれないものが気になるんです」
 現在出演中の連続ドラマ『JIN─仁─』(TBS系)は、ひさしぶりに先輩役者が多い現場。そこで先達のたいせつさをあらためて実感しているそうです。
 そして小出さんは笑顔と強いまなざしをもって言いました。
「真摯にやりつづけていれば、自分の席というものはちゃんと見えてくるのかもしれない。最近そう思えるんです。役者になったときからの目標は、自分が監督だったら使いたいと思える役者になること。そのビジョンが、なんとなくですがすこしずつ見えてきた気がしています」