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Step ahead 日本女性としてさらに輝く先へ
Ryoko Hirosue 1980年、高知県生まれ。2009年はヒロインを演じた『おくりびと』(滝田洋二郎監督)が第81回米アカデミー賞外国語映画賞を受賞、また第32回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。『GOEMON』(紀里谷和明監督)、『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』(根岸吉太郎監督)につづき『ゼロの焦点』(犬童一心監督)が公開中。また2010年1月からオンエアのNHK大河ドラマ『龍馬伝』(NHK総合、毎週日曜20時~など)に出演する。
森 鈴香(ジェイヌード) =インタビュー、文
奥村恵子(image)=写真
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広末涼子 インタビュー
あふれる涙は美しさを知りすぎたから?
わたしにとって映画は
自分が演じきったとき、そこで完結します。
賞や評価をいただくのはもちろん
とてもうれしいこと。
でもそれは監督さんやスタッフさんのもの。
役者としてはその役をいただけるということ、
そのスタート地点がいちばんのごほうびなんです。
あらためて女性の
美しさをみつけました
「“ひとりの女の子”という時期が過ぎて、役者として女性として、そういう時期にきたということなんでしょうか」
最近の広末涼子さんが演じる女性たちは、“女の本性”を気づかせてくれる。『おくりびと』では夫を理解し支える包容力のある妻、『ヴィヨンの妻』では妻子をもつ小説家を一途に愛し抜く愛人、そして最新作『ゼロの焦点』では結婚直後に突然失踪した夫を捜し真相を追いかける貞淑な妻。だれかを強く深く愛することによって女性の潜在的な力や感情や性が激しくあふれ出たり、静かな表情からじんわりと伝わってきたり。
そして『ゼロの焦点』では鵜原禎子という女性を生ききったことが、スクリーンに映る“彼女”を観たときに新鮮な驚きとして広末さんの目に飛び込んできたそうです。
「30分間ぐらい、禎子がまったく言葉を発していないシーンがあるという大発見をしたんです‼ 台本を読んでいれば気づくはずなのに……。それぐらい作品の展開のなかに入りこんでいたんですよね。つまり撮影中に自分だけを見ている瞬間が一度もなかったということだと思うんです。そんなふうになれる作品だからこそ、こんなにすばらしいんだと思う」
はじめて作品を観たとき、広末さんの瞳は潤み、頬にはうっすらと赤みが差しているようでした。いつもなら自身の出演作をはじめて観たときは反省したり、あら探しをしてしまいがちだけれど、この作品はちがいました。
「びっくりするぐらい純粋に“お客さん”になっていました(笑)。自分の演技がどうかなんていうことより、ただただ作品の完成度の高さに圧倒されて……。共演した中谷美紀さんと木村多江さんのお芝居には、緊張感や興奮、悲しみや怒りからにじみ出る美しさが一気に押し寄せてきて涙があふれてしまいました」
気がつくと、生き方も性格も立場も異なる3人の女性それぞれに、物語が展開するたびにめまぐるしく感情移入してしまったという広末さん。
「女性にはそういう柔軟性があるのかもしれません。社会的立場や生い立ちなんかには関係なく、単純に女性として感情だけで共感できる。立場や世代も超えてしまえるんですよね」
こころの琴線がいつもぴんと張っていて、どんなちいさな揺れにも繊細に音を響かせる広末さんだからこそ、禎子を演じるのは「ある意味、とてもストレスだったんです」と笑います。それは禎子が感情を表に出さない女性だから。
「どんな感情であっても表に出すということは表現者としてひとつの“発散”になるんです。でも禎子はつねにコップにすりきりいっぱいのあふれそうな感情をかろうじて表面張力でたもっている状態。どこかでそのもやもやをクリアする術もまったくみつからなくて、あふれないようにただ耐えるしかないんです。でもいまの自分自身だったらそんなふうにいられるのか、さらに現代の女性が自分をそのような状況に置くことができるのかということも考えました」
『ゼロの焦点』の舞台は戦後まもない日本。女性はいまよりずっと限られた世界のなかで生きていました。それにくらべて現代を生きる女性には可能性が広がっているのだから、それを最大限いかすべき、と広末さんは言います。
「でも禎子が生きた時代の女性たちがもっていたものも秘めていたいって思うんです。自由のすくない境遇だからこその夢や希望への執着心や、あきらめない気持ち、夫を敬うこころ。わたしは禎子のそんな強さやしとやかさ、耐え忍ぶ美しさを尊敬しているし好きなんです。どの時代にも一生懸命生きていこうとしている女性の姿からは伝わってくるものがかならずあると感じています」
29歳のわたしと
ホームグラウンドの
化学変化
『ヴィヨンの妻』につづき『ゼロの焦点』でも撮影に入るまえに言葉遣いや所作、そしてその時代の空気感を身体にたたきこもうと、みずからに染みこませる作業に努めた。
「台本をいただいた直後に行かせていただいたアカデミー賞授賞式でロスにたつときも、昭和初期のモノクロ映画のDVDを持っていきました。犬童監督や共演した西島秀俊さんに薦めていただいたりして何本も観ました。お気に入りは『洲崎パラダイス 赤信号』『夫婦善哉』『東京物語』。西島さんのオススメの『次郎長三国志』は、この臨場感はなに⁉と、日本映画のすごさに衝撃を受けました」
でも授賞式の華やかな雰囲気と『ゼロの焦点』の台本とのギャップのなかで感情のバランスをとるのは大変だったとふりかえります。授賞式のあと、この作品の撮影で韓国をおとずれたときも、すこしでも英語が耳に入ると授賞式モードに切り替わってしまうので、イヤホンを着けて日本映画を観つづけていたそうです。
「どんなにちいさなテンションの“ズレ”でも、そのまま作品のなかでは“ブレ”として表れてしまうんです」
『ゼロの焦点』ではナレーションもして、声だけを聞くと感情の揺れがさらに顕著に感じられることに気づかされたのだといいます。
「楽しいことを考えるだけで声のトーンが変わってしまったり、ふと気持ちが現実に戻ると重みがなくなってしまう。そこを意識しつつ、監督とサスペンスらしいダークさを出したほうがいいのかフラットにしたほうがいいのかというような相談をして、最終的には4回録りました。実際に映像にはめてみると想像とはまたずいぶんちがったりして、とても勉強になりました」
監督もスタッフも役者もストイックなひとばかりが集まっているので、集中力や緊迫感の持続は想像を絶するものでした。けれどそれは苦しさやつらさとはちがったといいます。
「スタッフさんたちの集中力、あきらめない気持ち。そしてなにより監督の熱意にはだれしもが応えたくなるんです。あるシーンでは中谷さんと木村さんが朝から翌日の朝まで撮影している間じゅうずっと泣きつづけていたそうです。メークさんがこまってしまうぐらいにおふたりの感情がとまらなかったと聞きました。そういう努力の結晶のなかに放りこまれたら、がんばらざるをえないんです! そこにいられることが役者の本望でありこのうえなく幸せです」
この日、広末さんは「役者として幸せ」という言葉を何度口にしたことでしょう。
「今年は仕事や未来のこと、自分の本質的な部分にもあらためて向き合いました。まとまったお休みをいただけて、故郷でゆっくりできたからかな。ホームグラウンドに戻ると原点に返ることができるし、いまの立ち位置も再認識できるものですよね。『30代を目前にしてどうですか?』って聞かれることもよくあるけれど、じつはあまり年齢にはこだわっていなくて……。でも今年の自分をふりかえると29歳はもしかしたらひとつの節目だったのかもしれません!」
そう言って広末さんは軽やかに笑いました。
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