Step ahead 日本女性としてさらに輝く先へ

堤 真一

Shinichi Tsutsumi 1964年、兵庫県生まれ。2010年は現在公開中の主演映画『孤高のメス』(成島出監督)につづき、6月17日~7月19日、舞台『アット・ホーム・アット・ザ・ズー』(エドワード・オルビー作、千葉哲也演出、シアタートラム)に出演するほか、映画『SP THE Motion Picture 野望編』(波多野貴文監督、10月30日公開)、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(山崎貴監督、12月公開予定)が待機。11年春には『SP 革命編』(波多野貴文監督)の公開も予定されている。

森 鈴香(ジェイヌード)=インタビュー、文
ミズカイケイコ=写真


堤 真一 インタビュー
囲いを飛びだした獅子のゆくえ

舞台に立つとある空気が
押し寄せてくる。
そして身体が
身構えて硬くなるのを感じる。
初日までにはその押し寄せるものを
スーッと通過させられるような
身体にもっていかなければと
思っています


初日ぎりぎりまで
無防備でいたいんです


「今はまだ、千本ノックですよ。とにかくたくさん撮らないことには見えてこないものだよって知り合いのカメラマンにも言われてね」
 表紙の写真撮影がはじまる前、堤真一さんがドイツにあるライカの工場を見学したときに衝動買いしたというカメラの話からはじまった写真談議。堤さんの瞳は、幼いころに出合ったような懐かしいきらめきにあふれています。でも芝居の話になると、まさに眼光というにふさわしい光を瞳にたたえ、ときおり「ふふ」と笑うやわらかい笑顔にも鋭さが宿る。そしてまるで自身の内面を、別の自分が見透かしているように語ります。
「今回の作品では、もしかしたらセリフを忘れてしまうかもしれないけど、そんなときでも『これもええやん』って笑っていられたらいいな。あたふたするのもいいかなと思っているんです」
 小紙が発行される6月17日に初日を迎える舞台『アット・ホーム・アット・ザ・ズー』の稽古中の堤さん。この作品は20世紀半ばに劇作家エドワード・オルビーによって書かれた『動物園物語』に、21世紀になって『ホームライフ(家庭生活)』という第1幕が本人によって書きくわえられたという2部構成の2人芝居です。堤さんが演じるのはピーターという男。第1幕では小泉今日子さん演じる妻のアンとのなにげない会話が、いつしか妻の挑発にのってエキセントリックな方向へ……。そんな夫婦の会話が一段落したところで、ピーターがセントラル・パークへ読書に出かけて第2幕がはじまる。公園でピーターは大森南朋さん演じる見知らぬ男ジェリーにいきなり「動物園で起こったことを話そう」と執拗に話しかけられる。そしてまくしたてるジェリーの勢いにのまれ巻き込まれていく。
「一見たいしたことを言ってないようなセリフにも、稽古をしながらくりかえし読みこんでいくと、ざわざわと揺さぶられるものがある。読むほどに見えてくるものがあるんです。だから『これが芝居のテーマです』と提示するような芝居はせず、今回はお客さんにゆだねてみようと思っています。人と人とがかかわることやつながりを、ぼくたちが実際舞台のうえで感じているままに見せていくことで、お客さんがいろんなかたちで解釈してくださればいいのかな、と」
 感情は表面には出さずに抑えこむ。でも隠そうとするほどお客さんには露呈されてしまう。そういう表現の方法がおもしろいと堤さん。
「怒りを感じているはずなのに顔は笑っている。でも第三者が見れば『あの人、怒ってはるで。当然、怒るやろ』って。でもぼくら当人は自分の怒りにまったく気づいていないように見えてるんです。演じる側が答えを選別していくのではなく、解釈の余地は広げたままでいくんじゃないかな」
 すでに稽古がはじまって3週間。1幕と2幕を別々に稽古してきて、この日から3人での稽古がはじまることになっていました。
「この時期にはすでにある程度役のキャラクターをかためて、さらにプラスしたり省く作業をしている段階なんですが、今回は演出家の千葉哲也さんと共演のお二人に完全に頼ってますね。いままでのぼくだったら、これでいいのか!?ってあたふたしてたでしょうけど、今回は本当に甘えてます(笑)。もちろん不安もありますよ。ぼくの役はどちらかというと受ける芝居。だから相手の芝居によってはガラッと変わってしまうこともある。そのときにあせらないために、本当は明確な方向性をもっておきたいところなんですけど、もうすこしの我慢ですかね(笑)。今日から3人が芝居全体を見ることになる。そうするとガラリと変わってしまう可能性もあると思います。でもどうなるかは前もって考えずに、経験してからのお楽しみかな。劇場でお客さんという要素がくわわればまた環境が変わり芝居も変わってくる。それを恐れずにいたいんです。最近、考えすぎないこともある意味必要だなぁと感じています。ぼくは自分の意識がどうしても中へ中へ入りすぎるところがあって、そうすると受けられるものも受けられなくなってしまう。だからもう少しルーズでいてもいいかなって」
 そして「それにしても、いいタイミングでこういう作品に出合うもんだなぁ……」とつぶやく。「人間はみんな何かしらと関わっていかなきゃいけない」というジェリーのセリフが胸に響いた。人間はひとりでいても、頭のなかで対話する。だから強い負の感情が芽生えたときも、自分のなかだけで増幅してしまう。
「だれかとしゃべっていれば、問題が解決しなくてもすっきりするし、かならずなにか得るものがある。人であれ物であれ、対象とちゃんと関わろうとすると、そのことにまっすぐに向き合うから、ひとりで堂々めぐりになることはあまりないですよね。このセリフ、ぼくに言われてるんだなって思いました。そういうセリフとポッ、ポッといい時期に出合えるんです」
 役者という仕事は出合いがすべて。堤さんはそう言います。『アット・ホーム・アット・ザ・ズー』と出合って感じているのは、自分と作品が対等の立場にいるということ。判断したり評価したりするのではなく、いっしょにつくっている感覚。
「作家が意図した正解を探す旅ではなく、もしかしたら作家の意図とはまったくちがうものを、ぼくらはやろうとしているのかもしれない。でもいまぼくたちが感じる感覚で演じればいい、背伸びする必要はないと思える作品です。稽古では台本に書かれているセリフを自分が無理なく言える状態をつくっています。違和感を感じても打ち消さずに、それさえ感じたまま言ってみる。いまぼくの目に映っているものが真実で、表現としてお客さんを意識したパフォーマンスは一切ないんですよね。ある意味、裸でいるようなものです。初日には『お客さんがいるのに、すっぽんぽんやぞ。どうしよう!?』って相当焦ってるかもしれないですけれど(笑)」


東京ドームもライヴハウスも。
それと同じ感覚かな


 役者をはじめたころ、「THEATRE PROJECT TOKYO(TPT)」という小劇場を中心に活動していた堤さん。小さい空間で演じることは、とても高い緊張感を強いられるそうです。
「当時はお客さんが近いとぎゅうっと身体が締めつけられるような感覚をおぼえて、こころまでが閉じていってしまうことがありました。だから役者を20年以上やってきた今、また小さな空間に立って“裸”でいるというむずかしさに、あえて対峙してみたいと思ったんです」
 なにかをやりたいと自分から踏み出して現実になったのは、今回がはじめてと堤さんは話してくれました。
「役者って、じつは自分発信はほとんどないにひとしいんです。もともとぼくは役者をめざしていたわけでもなかったから、『いつかはコレがやりたい!』という強い願望もなかったですし……。いただいた台本に向き合って、監督や演出家の要求にこたえるのが基本作業で、そこに自分の意図や思いを重ねていき、いっしょにつくりあげたという自負を感じてきました。それが、今回ははじめてみずから動きだした。これって動物園のライオンさんがときには檻を出て、お客さんたちに『こっちのぼくも見て!』って言ってみたくなった、そんな感じかな(笑)」