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バリアフリー  2006年2月15日号

杉崎誠さんの写真
点字ラベルの写真
点字テプラで、墨字併記の点字ラベル(下)を作った杉崎誠さん。「点字表記は複雑で、この製品の自動点訳で100%正確というわけにはいきません。公共の表示や法令などに基づく表示に使う場合は、日本点字図書館などの専門施設の監修を受けてください」とのこと。
ホームページの画面
キングジムのサイト(http://www.kingjim.co.jp/index.html)の中の点字テプラのページ。画面読み上げソフトに対応したラベル作成支援ソフトは、ここからダウンロードできる。

文・写真 中和正彦

点字の知識がない人でも
簡単に作れる点字ラベル

 さかっく・せかっも─。ポストの投入口にそう書かれていたら、何のことと思うだろうか。実は、「てがみ・はがき」と表記した点字ラベルの上下を間違えて張ると、こんな意味不明の表記になってしまう。
 点字表記を頼りにする視覚障害者は、しばしばこのような上下逆に貼付した例に出合うという。3階に「5階」のラベルといった、張る場所の間違いも多いそうだ。晴眼者には張ってあるだけで視覚障害者への配慮を感じさせる点字ラベルだが、実は点字を読めない晴眼者が張るためにかなり間違いが多いという現実がある。
 昨年5月、このような間違いを防ぐ工夫が施された点字ラベルの製作機が発売されて、評判を呼んでいる。キングジムの「テプラ」PRO SR6700D、通称「点字テプラ」だ(メーカー希望小売価格・4万5150円)。
「テプラ」シリーズは1988年の発売以来、累計500万台以上を売り上げる電子ラベルライターで、職場で使っている人も多いはず。点字テプラは、従来の墨字(晴眼者が読み書きする文字)ラベル作成機能に加えて、点字ラベルと墨字・点字併記のラベルも作れるようにしたものだ。
 文字入力して「点訳」ボタンを押すだけで、自動的に点字に変換するソフトを搭載しているので、点字の知識がない一般の人でも簡単に点字表記を作ることができる。
 墨字・点字併記のラベルなら、1枚のラベルで晴眼者と視覚障害者の両方に同じメッセージを伝えることができるうえ、晴眼者が張る場所を間違える心配がなくなる。また、点字のみのラベルも、余白部分にラベルの上下を示すマークが印刷されるので、上下を間違えて張る心配がない。
 このような性能から、「バリアフリー推進のために点字表記をしたいが、点字のわかる人がいない」という職場を中心に、売れ行きを伸ばしている。

思わぬ反響に驚くメーカー
視覚障害者自身の利用も

 点字テプラさえあれば、外注することなく必要なときにすぐにラベルが作れる。このため、点字表記のサービスができるとは考えていなかったところにも、利用が広がっているという。キングジム広報室の杉崎誠さんは、次のような利用事例を紹介する。
「たとえば調剤薬局。どの薬をいつどれだけ飲めばいいか、その場で点字ラベルを作って薬袋に張って、渡しているそうです」。
 杉崎さんらスタッフが一番驚いたのは、視覚障害の当事者から「私たちにも使えるようにしてほしい」という声が寄せられたことだったという。 「私たちは、点字の知識がない晴眼者のために、これを開発しました。視覚障害者自身の利用は想定外でした」
 本体での対応が難しいと考えた開発スタッフは、声を寄せた視覚障害者を訪ねた。するとすでに本人が、いくつかの点で晴眼者の助けを得ながらも、パソコン接続機能を使って点字テプラを利用していた。画面読み上げソフトを常駐させたパソコンで入力と編集を行って、点字テプラ本体でラベルを打ち出すのである。
「パソコンでマウス操作が必要な部分を、キー操作でできるようにしてもらえないか」。そう要請されたスタッフは、急遽、画面読み上げソフト対応のラベル作成支援ソフトを開発し、9月にサイトからのダウンロードという形で提供した。
 視覚障害者のIT利用のための情報を積極的に発信して、視覚障害者の間でよく知られる杉田正幸さん(34・全盲)は、点字テプラにこう期待を寄せる。
「働く視覚障害者自らが、職場で使えるようになったのは大きい。晴眼者の利用ともども、これによって点字表記が広まるとうれしい」