論座編集部から  2007年12月号

編集長から

編集長

「小沢流民主主義」

「論座」編集長 薬師寺克行


 10月末からしばらく、永田町は民主党の小沢一郎代表に振り回された感があります。福田首相との党首会談を受けて自民党との「大連立」話を党の役員会に諮り、拒否されると代表辞任を表明、ところが党幹部らに慰留されるとあっさりと受け入れました。
 小沢氏ほどその行動が不透明でかつ、何を考えているのか分からない政治家も珍しいです。新聞記者との会話はほとんどないし、地方遊説を含めた日程もはっきりしない。民主党幹部でさえ小沢氏の居場所が分からないとこぼし、連絡が取れないこともしばしばだというのです。民主党の会議や国会の本会議も欠席がちです。どこで何をしているのか分からないことを「売り」にでもしているかのような行動様式は、その昔自民党にいたころからまったく変わっていません。
 今回の「辞任騒動」のきっかけの1つが、11月1日に期限が切れたテロ特措法にあることは間違いないでしょう。政府はテロ特措法に変わる新法を提案しましたが、臨時国会で成立する見通しはまったく立っていません。一方、小沢氏はインド洋での自衛隊の活動は憲法違反だと主張し、同時に国連決議があれば自衛隊はいかなる活動にも参加できるという趣旨の論考を月刊誌に掲載して話題になりました。自衛隊を海外に派遣することに反対しているようで、実はそうでもないという小沢氏の論理は、ちょっと分かりにくいです。


 2年余り前、「論座」の企画「90年代の証言」シリーズの第一弾として小沢氏に合計6時間余り、じっくりと話を伺う機会がありました。その時の発言を振り返ると、小沢氏の論理がよく分かります。少し紹介します。
 まず、第一のポイントは小沢氏がアメリカに対して強い不信感を持っているということです。小沢氏は1988年、竹下政権で内閣官房副長官を務めているころ日米建設摩擦を解決するため米国に乗り込んだ経験があります。その数年後には日米電機通信協議で再びアメリカと交渉しました。この2度の交渉をへて小沢氏のアメリカ観が作られていったようです。
小沢氏はアメリカについて次のように言っています。
「アメリカの支配層の連中は、日本人を本気では相手にしていない。だからきちんと自分の主張を言わなければならない。できることはできる、できないことはできない。そして約束したことはちゃんと実行することが大事だ」
「アメリカの政権中枢や議会の人たちの日本に対する不信感は通商交渉の担当者の不信感よりも強い。安全保障問題の関係者なんて、腹の中では何を考えているかわかったもんじゃあない」
 交渉でどんなやり取りが合ったのかは、もちろんつまびらかにしてはくれませんでしたが、一連の交渉で小沢氏がアメリカに対して相当の不快感や不信感を持ったことは間違いなさそうで、それは今でも変わらないようです。


 二つ目は、1990年の湾岸危機の体験が小沢氏の安全保障問題についての考えの原点にあるということです。湾岸危機当時、小沢氏は自民党幹事長でした。そして、イラクを撃退するためにつくられた多国籍軍を支援するため、自衛隊を派遣しようとしました。ところが国会に提出した「国連平和協力法案」はあっさりと廃案となってしまいました。このときのことについて小沢氏は次のように語ってくれました。
 「海外における自衛隊の活動を集団的自衛権の行使の延長線上と捉え、したがって武力の行使は憲法9条に違反するという内閣法制局のような解釈とおりにやったらいつまでたっても何もできないです」
 「多国籍軍への参加は憲法上問題ないというのが僕の考えです。それだと、新しい法律なんかいらない。だから僕は自衛隊派遣の具体的な準備までしたんです。米軍が戦闘活動をやっている背後で、例えば野戦病院での医療活動のようなことをやれないかと考えた」
 当時、小沢氏は医療活動のほかにも自衛隊機を派遣した物資の輸送なども具体的に準備を進めていましたが、結果的には何もできませんでした。
 小沢氏の論理だと、国連決議があればなんでも自衛隊を派遣できるということになってしまいます。それほど国連は信頼に足る組織なのか。そんな質問に対して小沢氏は「国連がたとえ間違っていても、多数で決めたことはしょうがないんです。少数の側にいて、こっちが正義だといったってしょうがないでしょう。民主主義は多数が正義なんです。それ以外に方法がない」と答えてくれました。
 ここにきて初めて明らかになるのは、よく言われるように小沢氏が「国連万能主義」というのではなく、多数によって決められたことに従う、それこそが民主主義だという小沢流の民主主義観です。
 「数は力なり」と自民党内で最大派閥を作り権力を握った田中角栄元首相の秘蔵っ子は、「多数こそ民主主義」という考え方をしているようです。
 参院選で自民党に圧勝したばかりの小沢氏が、なぜ、自民党との大連立に食指を動かしたのか、一度辞意を表明した代表というポストになぜこだわったのか、などという疑問は、こうした小沢氏独特の民主主義観で、少しなぞが解けるような気がします。



ご意見・ご感想をお寄せ下さい。メールのあて先は、ronza@asahi.comです。