◆「子どもの安全」を考える
携帯、ICタグ、監視カメラ、街角ロボット…
IT技術は小学生を守るか
文=大内悟史(編集部)
子どもが犠牲となる事件がメディア上をにぎわせている。登下校の安全を守る取り組みも盛んだ。小学校の実態を紹介し、安全目的の情報技術が社会に与える影響を考える。
東京都品川区内、午後3時ごろ。小学生たちの下校時間。ランドセルを背負った子どもたちが、黄緑色の蛍光ストラップを首からぶら下げている。形状はおもちゃの「たまごっち」に近いが、単なる携帯電話ではない。愛称は「まもるっち」。品川区が2005年秋に実用化した「近隣セキュリティシステム」の専用端末だ。PHSと防犯ブザーの機能をもち、区内の小学校40校に通う児童およそ1万2千人に配布されている。
仕組みはこうだ。登下校中に何らかの危険を感じた児童が「まもるっち」のストラップを引っ張る。すると、防犯ブザーのピンが抜け甲高い警報音が鳴り出すと同時に、品川区役所内に設置されたセンターシステムと音声がつながる。スタッフが子どもと会話したり音声を聞き取ったりして状況を確認し、必要があれば、センターで把握した位置情報をもとに教師、保護者、「駆けつけ協力者」、警察官OBによる「生活安全サポート隊」(生活安全パトロールカー5台)などが現場に向かう。平日と土曜の朝7時半から夜8時がセンターの稼働時間。それ以外の時間帯には保護者にのみ通報される。
03年秋、地場産業の振興を目的とするNPO「ものづくり品川宿」(東京都品川区)から区に対し、通信端末を用いたセキュリティーシステムについての提案があった。その後の検討で「子どもの登下校の安全を守る」ことに利用したらどうかという案が生まれ、携帯端末とPHS通信網を用いて10~数十メートル単位で位置を割り出す仕組みが固まった。05年6月に実験、9~12月に全児童に順次配布された。「すべてが一からの立ち上げでした」と「品川宿」の里見泰啓事務局長は当時を振り返る。
特色は、通報場所に駆けつける「協力者」を一般住民から集めたことだ。「駆けつけて状況を確認する」「深刻な事件なら110番」というのが「協力者」の仕事で、PTA連合会や町内会・商工会などの協力を得て、およそ1万2千人(06年2月末現在)になった。とはいえ、協力者はあくまで素人だ。荷が重いと感じる女性や高齢者もいるのではないか。金子正博・区産業振興課長は「現場に駆けつけるだけでも抑止力になる」と説明する。
課題もある。多いのは、子ども同士でじゃれあったり、何かにストラップを引っ掛けたりといった操作ミスによる誤報だ。導入当初は、最寄りの協力者20人に自動的に連絡が届く設定だったため、協力者からも不満の声があがったという。「1日平均20件と想定以上に多かった」(金子勇二・区生活安全担当課長、警視庁から出向)。そのため現在は自動通報はしていない。
また、個人情報保護を理由に、協力者の名簿が作られていない。さらに、今後は講習会やボランティア保険などの制度的充実が必要だという。
一方、緊急を要すると思われる通報は、今年4月末時点で6件。そのうち、連れ去り未遂が1件含まれるという。「厳密な比較は難しいのですが、導入後、区内の不審者情報は減りました」と金子課長は語る。
地域の「防犯力」刺激策
「品川区の子は『まもるっち』を持っている、というアナウンスによる抑止効果もある」と指摘するのは市川一夫・区教委参事だ。市川さんは「まもるっち」を、地域コミュニティに培われてきた「防犯力」回復のための刺激策ととらえている。品川区は、住宅地と商店街、事業所などの商工業地域が混在し、昼間人口の多い土地柄。だからこそ、協力も得やすい。
今年4月、新1年生約2千人も「まもるっち」を手にした。区立芳水小学校(全校児童約330人)周辺は、JR大崎駅や東急池上線から離れた閑静な住宅地で、一戸建てが多く昼間も人影が少ない。芳水小で新1年生を担任する藤村千菜子教諭は、「まもるっち」を「自分の身を守るために必要なもの」と児童や保護者に説明している。「いざというときにピンを抜けなかったら困ります。異変を感じたら通報をためらわないよう指導しています」
子どもたちからは、「はじめて見たときはかっこいいと思った」(小5男子)、「もう慣れた」(同)との声があがった。「間違って鳴らしてしまったときは驚いた」(小4男子)との体験も聞かれる一方で、「家に帰ってからまた出かけるときは、あまり持っていかない」(小6女子)、「目立つようにぶら下げないこともある」(同)という声もあった。塾通いなどで夜遅くまで外出する子にも役立つ機器だが、高学年になるにつれて不自由に思う子もいるのだろう。
所持や充電を忘れた子への指導が先生たちの日課だが、「相手先限定の通話機能などオプションも便利なので、防犯ブザーより所持率は高い」と八重樫憲一校長はいう。各家庭の負担も紛失・破損したときの実費負担ぐらいで済む。
PTA会長の森田義巳さんは、保護者や子ども、地域向けの説明会を導入前に開いたが、「位置特定機能はプライバシー侵害ではないか」「仕事が忙しく、昼間の駆けつけ協力は無理」という意見が出たという。森田さんは、「位置を特定するのは緊急時に限っている。駆けつけ協力も、在宅のときだけで構わないのでPTAで率先して協力したい」と答えて理解を求めた。まったく新しい、よく分からないシステムに対する不安感や疑問が大半だったと見ている。
保護者の感想はどうだろう。ある小学校の校門前で話を聞いたところ、やはり、子どもの安全に大きな不安を感じている声が多い。
「事件報道が多くて不安なので一人きりにはできません。下校時には毎日必ず迎えに来ています。周囲にもそういうお母さんが多いですね」(小2女児の母親)
八重樫さんは、「品川区は学校選択制のため、学区を越えて通学してくる児童が多い。学校単位よりも区全体で考えたほうが合理的では」との見方だ。
2学期には新たに、区立小学校全校に監視カメラが設置される。芳水小では、見通しの悪い交差点に交通指導員が立つ。まもるっちが狙いを定める「登下校時の連れ去り」だけが危険な場面ではないということだ。現に、品川区PTA連合会では「83(ルビ=はちさん)運動」も提唱している。登下校時間帯の朝8時と午後3時に、地域の大人が家の外に出て、花に水をやったり散歩したりしながら子どもたちを見守ろうという取り組みだ。
親子間のプライバシーは?
子どもたち一人ひとりが身につけることのできる携帯端末はほかにもある。この数年で盛んになった、民間企業のセキュリティサービスを見てみよう。
セコム(東京都渋谷区)が01年4月から提供している「ココセコム」は、東京のオペレーションセンターが全国をカバーする。GPSとau(KDDI)の通信網から得られる位置情報を利用して、子どもが身につけた専用端末の位置を割り出す。さらに依頼に応じて最寄りの拠点から緊急要員を急行させる。位置情報提供と緊急通報サービスは対人向けの機能で、車両、ペット、金庫用などを合わせた全端末のユーザー数は、今年3月末で26万9千件を数え、子ども(保護者)と高齢者が半数を占めるという。
「防犯ブザーを兼用したり、通話機能をつけると機器の存在に気づかれ、壊されたり捨てられたりする可能性もある。また、端末が大型化して使い勝手も悪くなる。警備会社の経験を生かして、端末の基本性能を絞り込みました」と同社開発センターの松本憲一さんは語る。
対人サービスは、1件当たり5千円の加入料金、月額800円の基本料金のほか(端末はレンタル)、位置情報確認はインターネットの場合1回100円(毎月2回まで無料)、「現場急行」1件1時間あたり1万円(以上税別)がかかる。また、家庭と子どもの間だけで安否確認が可能な「しらせてコール」(月額100円)などオプション機能もある。同様のサービスには他社も参入している。
また、今年に入って、子ども向け携帯電話も発売された。NTTドコモが3月に発売した「キッズケータイ FOMA SA800i」がその代表例だ。
「子どもが大人用の携帯電話を使う光景を目にしたのがきっかけ」と同社マーケティング担当の岡野令さん。保護者などと簡単な操作で通話できる「直(ルビ=ちょく)デンボタン」、漢字表記をひらがなに切り替える「キッズモード」のほか、防犯ブザーなどオリジナル機能をつけた。発売2カ月で契約が12万台に達し、うち9割が新規契約で、低学年の利用も多いという。
また、「イマドコサーチ」(月額200円=税別)を併用すれば、親が子どもの居場所を検索できる。キッズケータイでは、防犯ブザーを鳴らした場所や電源を切った時点での位置情報を自動的にメールで送信することも可能だ。最初の設定時、またはそのつど位置情報を検索される側の許可が必要になっている。「持っているだけ、持たせているだけではなく、親子間でよく話し合って、よく理解したうえで使っていただくことが重要」と岡野さんは言う。
だが、学校側や保護者の一部は子どもが携帯電話を持つことを望んでいない。トラブルや使いすぎを心配するからだ。この点、岡野さんもこう言う。「確かに子ども全員が携帯電話を持つわけではない。しかし、必要とされる場面が増えていることも確かです。ただ、安全を目的とした製品だけに、何か事件が起きれば批判を受ける可能性もある。その意味ではチャレンジです」。ドコモは、学校への訪問授業「ケータイ安全教室」などで、授業中に使わない、見せびらかさない、といった使い方を教えている。
auも「ジュニアケータイ A5520SA」を2月に発売。位置情報を確認できる「安心ナビ」も申し込める。6月には、バンダイが「キッズケータイpapipo!」を発売した。「安全・安心」をニーズとした携帯電話の新しい市場が次々に開拓されつつある。
ICタグは万能か?
一方、携帯端末以外の新技術を利用したセキュリティーも広がっている。大きなトレンドは、無線ICタグ(RFIDタグ)を用いた登下校管理だ。バーコードの次世代版と言えるICタグは、商品管理や食品のトレーサビリティ(生産・流通履歴)などの分野で期待されるIT技術で、ID番号などを記憶させた超小型ICチップが埋め込まれている。「物流や家畜用に開発されたICタグを人間に使うのか」との批判もあるゆえんだ。
立教小学校(東京都豊島区=約720人)の「登下校管理システム」は、ICタグを用いたセキュリティーシステムの草分けだ。校門にICタグのリーダー(読み取り機)を取り付け、児童一人ひとりの登下校時間を記録。保護者やクラス担任が、子どもの登下校時間のデータを専用ウェブサイトで閲覧できる。さらに、両親の携帯電話や自宅PCなど最大三つの登録メールアドレスにも、登下校ごとにメールが送られてくるという仕組みだ。
導入を進めた石井輝義教諭(情報科主任)は「動機は、どちらかというとセキュリティーよりも利便性にありました」と語る。導入当時、問題となっていたのは、02年度スタートの「異年齢交流」での出欠確認だった。各学年3クラスを1~6年の「縦割り」にして、朝礼や給食などの時間に3グループで行動するのだが、担任の目だけでは、どうしても見落としが出る。その頃、富士通が開発した侵入者検知システムを知って、この技術を出欠管理に応用できることに気がついたという。
そこで、04年1月から富士通の技術者も交えた会議を重ね、9月から実験を開始。05年4月には正式にシステムが稼働した。保護者の新たな費用負担はなく、学校の経費も児童1人あたり年間数千円で済むという。保護者への説明段階から「待ちかねている」という声があったほどで、保護者アンケートでもおおむね好評だ。ただし、自宅が学校と近い、毎日送迎している、などの理由で未使用の家庭もある。
運用上の課題は遅延メール。携帯電話会社やインターネット・プロバイダーの通信事情で、メールがすぐに届かないことがある。そのため、「うちの子は学校に着いたのか」「きちんと下校したのか」といった保護者による問い合わせがある。だが、石井さんは、保護者の危機意識も高まったし、学校を出る時間が分かるので、自宅の最寄り駅までの出迎えも便利になったと見る。
だが、児童の登校時間は最長で片道1時間半。校門の出入りを分単位で把握しても、それだけで子どもが安全になるわけではない。石井さんもこうしたシステムの限界は認める。「確かに、どんな技術もその裏をかく犯人がいればお手上げです。携帯電話は犯罪者にとって有用な個人情報のかたまりだし、子どもの手から奪って電源を切ってしまえば連絡は途切れます」
しかし、「教師の仕事の一部を肩代わりしてもらうことで、生身の子どもと接することに集中できる」。今後はさらに、記録を時間順にソート(並べ替え)して仲良しグループを割り出す、長期欠席児童を把握するといった可能性を考えている。昨年5月の遠足では、バスに児童が乗り込んだかどうかタグで確認する実験も行った。無線LAN機能と専用ソフトを備えたモバイルPCをリーダーとして用いたという。
さらに、技術開発やシステム導入時の「議論」の重要性も強調する。校門を出たり入ったりして遊ぶ子、ランドセルを放り投げる子……。開発当初、参考に登下校風景のビデオを見た富士通の技術者たちは、子どもたちの「予想外の動き」に驚いたという。文系出身の石井さんたちが開発段階から加わることで、現場のニーズや社会的倫理までふまえた議論をした。「何度も手直ししました。ごく一部の技術者が専門知識を専有して突っ走られたら困りますからね」と石井さんは言う。
新たな実験が続々と
実際に、子どもに大きな被害が出た学校は、どういう対策をとっているのだろうか。01年6月の児童殺傷事件から丸5年が経過した大阪府池田市の大阪教育大学附属池田小学校(約700人)では、数多くの安全対策が試みられてきた。
外部からの侵入者を防ぐため、04年に校舎を全面改築し、校舎全体の見通しを確保。日常的に使用する門はひとつにして、警備員が常駐する。監視カメラも設置され、4月には、そのモニタリング用として画像解析・警報システム「ナイス・ビジョン」(アイティフォー社=東京都千代田区)を導入した。イスラエルの会社が開発した技術で、リアルタイムで画像データを分析して、侵入者の動きをモニター上の赤い丸と警報ランプで示すことができるという。さらに同社は、「お守りキッズ」と名づけたGPS防犯システムの実証実験を池田小を含む大学附属の3校で7月に開始する。
また、信和エンジニアリング(東京都板橋区、小川清志社長)と大教大の学校危機メンタルサポートセンターが、「登下校時の連れ去り防止」を目的に「児童登下校通学路安全管理システム」を共同試験中だ。
学校と最寄りの阪急池田駅の間は子どもの足で約20分。児童の登下校経路と所要時間を登録しておき、児童が身につけたICタグ(電波バッジ)を校門や通学路のカメラ付き管理ポイントで検知。異変を検知すると学校へ警報が届く。2月に実験を開始して、任意・有料で年度内の実用化を目指している。「地元小学校との共同運用も視野に入れています」と津田一司副校長は言う。
信和エンジニアリングは、マラソン大会や二輪車レースでの着順測定などICタグ関連商品で約20年の販売実績があり、今年、病院向けに「赤ちゃん連れ去り防止システム」も開発した。ベテラン技術者、小川社長の目には「今はみんなが(ICタグ技術の)宝の山を目指す時代」と映る。しかし、「コスト面でも技術面でも、まだ実験段階というのが正直なところ。1個数千円のICタグと1台数十万円のリーダを設置できる場所は限られる」と言う。運用費用は電池代(年間100円程度)と安価だが、初期投資は百万円単位になる。それでも、携帯電話を全児童に持たせた場合に比べれば破格の安さだろう。
「うちにはできないよね」。附属池田小の視察に来た学校関係者がもらすことがある。だが津田副校長は、国立大学の附属校だから安全対策が可能だとは思っていない。職員室からの見通し確保、樹木の剪定、窓ガラスを透明なものに替える……。侵入者対策だけでもいろいろある。各学校で何ができるか、どんな対策が有効か。「技術は100%ではない。新しい技術を導入するだけで安心しすぎてしまう危険もあります。最終的にはマンパワー、つまり大人の目と手で子どもを守るしかないんです」
大阪市南部の閑静な住宅地にある私学、帝塚山学院小学校(大阪市住吉区=約750人)も同様のシステムを導入している。附属池田小と同様、帝塚山学院小も遠くから通う児童が多い。昨年9月にNAJ(大阪市中央区)の登下校管理システム「見まもメール」を導入したきっかけは、PTA役員の提案だった。校舎出入り口に4カ所のセンサーが設置され、児童手帳に入れたICタグ内蔵のICカードをかざすとその児童の登下校時間を記録し、保護者にメールが届く。「最寄り駅や乗換駅の公衆電話に列をつくって『今から電車に乗る』と親に電話する光景がなくなりました」と山本卓校長。児童の9割以上が加入しているという。
さらに二つの最寄り駅(南海電鉄・帝塚山駅、阪堺電気軌道・帝塚山三丁目駅)周辺に監視カメラを設置した。こちらは、NAJを含む企業・自治体・学識者などで構成される「大阪安全・安心まちづくり支援ICT活用協議会」(大安協)の実験だ。会の了承を得れば記録映像を見ることができるが、何もなければ一定期間を経て消去される。「電車通学者も、駅までの安全が確認できれば少なくとも自宅の最寄り駅までは安心でしょう」(山本校長)。関西では、今年4月に開校したばかりの立命館小学校なども、登下校管理システムを導入している。
NAJの宮野渉社長によれば、登下校管理システムの導入は、学習塾が早かった。「警備員を登下校に付き添わせれば安全で安心かもしれないが、全国800万人の小学生にそれは無理」。児童全体を対象とし、コストと目的を両立させた現実的なサービスは携帯電話ではなくICタグだと考え、「PiTaPaやSuicaのような爆発的普及もありうる」と機会をうかがう。
「大安協」が関係する実験には、こんな例もある。大阪市立中央小学校(同市中央区=約600人)周辺では今年2~3月、「街角見守りロボット」を用いた「街角防犯システム」を実験した。児童100人とその保護者、さらに地元の駆けつけ協力者60人強を組織。実験に用いた自動販売機には、緊急押しボタンとICタグのリーダー、タグに連動して撮影する監視カメラといったスーパー防犯灯的な機能を取り付け、緊急時には管理センターや協力者などに通報が届くようにした。10台のうち3台は防犯情報を提供する表示パネル付きだ。自販機でカバーできないエリアには、小型PCを流用した無線基地局をボランティア家庭に配置した。
課題は、協力者の効率的な行動が難しかったことと、子どもの通過時だけの撮影でも第三者のプライバシーが侵害される懸念があることだ。「大安協」は現在、監視カメラの設置・運用基準を検討中だという。「ハード的でも運用面でも、なんとか実験できたというレベル」と実験メンバーの西尾信彦・立命館大学教授は苦笑する。西尾教授の専門はユビキタス・コンピューティング。家庭やオフィス、街中における多数の小型端末を結ぶ「ユビキタス化」を考えている。神戸で防災、京都で観光、大阪で防犯にかんする街頭での情報提供を目指すとともに、ゴルフ好き、20代女性などといった個々人の嗜好や属性にあわせて、情報端末や街頭広告などに個人別の広告を表示させることなども目標だという。「広告や情報提供サービスのような利便性が加われば、地域IT化も進むでしょう」
「安全」と「便利」の両立
しかし、屋外向け情報端末の設置には諸手続きと初期費用が必要となる。これは「自販機王国」のポテンシャルを生かさない手はないと西尾教授は考えた。メーカー側からは「高付加価値化と社会貢献」という理由から協力を得られた。
一方、大阪府・市の狙いはITによる防犯コミュニティ作りにもあった。「地域の住民同士を結ぶ一助としたい」と大阪市の寺岡信太郎・情報化施策担当課長は説明する。中央小周辺は寺町、商店街などの古い町並みと新しいマンションやオフィスビルが混在するエリアだ。実験によって新旧住民が融合するきっかけになるという。
西尾教授は説明する。「公立小学校やPTAがコミュニティー再建の核です。上意下達型の組織ではなく、横のつながりを促進する必要性を感じています。今後は、送迎の分担を保護者同士で相談するなどといった日常の近所付き合いを支援する地域SNSやブログが有効かもしれません」
ただし、こうした技術や実験が、地域コミュニティーにマイナスに影響することもあるだろう。極端にいえば、犯罪抑止に熱心になるあまり、地域内が「相互監視」に陥る危険性もないわけではない。
ところで行政や学校が考えるのは、おもに通学路の安全確保だ。夏休みや下校後の外遊び、塾へ通う時などに子どもの安全を守りたければ、すべてを保護者自身の努力や民間のセキュリティーサービスに頼るしかないのだろうか。
「子ども自身が身を守る」ことの有効性を強調するのは、立正大学の小宮信夫教授(犯罪社会学)だ。小宮教授は、実践的な安全教育のためのツールとして「地域安全マップ」作りを提唱している。ハード面での安易な対応には批判的で、「技術まかせで子どもの判断力が育たないとしたら問題です」。防犯ブザーも携帯電話も、子ども自身が自分の危険を察知できなければ意味がない。一方、一部で広まる犯罪発生マップや不審者マップは、知的障害者や外国人など地域共同体内部の異質な存在を排除してしまう恐れもある。子どもたち自身が地域を歩いて危険な場所を体感・判断する地図作り体験こそが、子ども自身の危機対応能力を磨く、と小宮教授は考えている。
しかし、こうしたさまざまな対策によっても、子どもが犠牲になる犯罪はゼロにならないだろう。そして事件が起きるたびに、親は子どもの身を案じ、学校や行政も何らかの対応を迫られる。民間のセキュリティーサービスも花盛りだ。子どもの安全をめぐる不安とそれに対応した新技術の発展は、今後ますますエスカレートするのかもしれない。
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