今月のおすすめ記事  2006年9月号

表面的な現象だけで空騒ぎすべきではない

小沢一郎 民主党代表

聞き手= 薬師寺克行 本誌編集長


写真
おざわ・いちろう 1942年、岩手県生まれ。67年、慶応義塾大学経済学部卒業。69年に衆議院議員に初当選し、現在13期目。自治相、自民党幹事長などを歴任し、93年に自民党を離党。新生党代表幹事、自由党党首などを経て2006年4月から現職。著書に『日本改造計画』、インタビューをまとめた『小沢一郎 政権奪取論』など。
写真=松本敏之
――7月5日に北朝鮮が日本海に向けて3種類のミサイルを発射しました。この事件は日本社会に大きな衝撃を与えましたが、小沢さんはどのように受け止めていますか。
小沢 北朝鮮がミサイルを発射したからといって、現時点で北朝鮮が日本に対して戦争をしようとしているわけではない。もしも、北朝鮮が本気でそんなことを考えているならば、こんなやり方はしないだろう。そもそも、北朝鮮の技術は日本や他の国を本当に攻撃して破壊するだけの水準には達していないと思う。要するに、彼らは非常に危険な瀬戸際外交をやっているんです。もちろん、こうした火遊びのようなことをするのは、誠にけしからんことだ。
 そういう前提に立った上で言うと、ミサイル発射という現象面だけにとらわれている日本国内の騒ぎ方はおかしいと思う。日本では国民もマスコミも国会議員も、何か起きると一時的に大騒ぎし、しばらくすると何事もなかったかのように忘れてしまう。先日のW杯サッカーもしかり。朝から晩まで大騒ぎしたが、あっという間に静かになった。
 しかし、ミサイル発射のように、政治や外交が複雑に絡む重大な問題は、表面的な現象だけを追って空騒ぎすべきではないと思う。この種の問題の場合、特に政治家は、あらゆる情報を集めて冷静に判断し落ち着いて対応しなければならない。
――しかし、北朝鮮のミサイルが日本にとって大きな脅威であることは否定できないでしょう。
小沢 今回の問題の本質はミサイルそのものではないでしょう。あの程度のミサイルやロケットを持っている国は世界にいっぱいあるし、中国やロシア、そして米国もしばしば実験をしている。日本だって、北朝鮮のミサイルよりもっと大きなロケットを持っているし、実際に打ち上げてもいる。だから、技術面に限って言えば、日本はいつでも弾道ミサイルをつくることができるのです。ということはつまり、今回の本質的問題はミサイルそのものではなくて、北朝鮮の金正日総書記という神懸かり的な独裁政権、恐怖政治の下で発射されたということだ。そのことを忘れてはいけないと思う。
――そうしたやっかいな国を相手に、日本政府はどう対応すべきだと考えますか。
小沢 日本国内では、「北朝鮮がミサイルを発射した。これは大変だ。だから、日本も北朝鮮のミサイル基地を攻撃できる能力を持つべきだ」という議論に簡単に発展してしまうが、そうではない。
 大切なのは、あの独裁国家を暴発させないで、いかにしてソフトランディングさせ、まともな国にするかということです。そのために最も重要なことは、日米で協調して取り組むとともに、北朝鮮に対して最も影響力を持っている中国とも協力し合うことだ。ところが、その中国と首脳同士が直接話ができないわけでしょ。これじゃあどうにもならない。米国は中国の重要さが十分わかっているから、今回も中国と頻繁に接触して話し合っていたでしょう。
 アフガン戦争やイラク戦争を仕掛けたブッシュ政権のこれまでの論理からいうと、「核兵器なんか持っていない」と言っていたイラクやアフガニスタンよりも先に、「核兵器を持っている」と公言している北朝鮮に対して武力行使しなければおかしい。しかしもちろん、米国にはそんなことできないわけでしょ。北朝鮮に対する武力行使はできない。だから米国は、「話し合いだ。話し合い解決だ」と言っていたんですよ。
 ところが、日本政府だけが「経済制裁を実施すべきだ」と言って先頭を走り出した。しかし、気がついてみたら、後ろに誰もいなかった。今回の一連の経過を見ると、そういう感じです。
 僕はいまの小泉政権には何も期待していないが、北朝鮮問題を解決するために何をすべきかと聞かれれば、一刻も早く中国や米国と対等に話し合うことができるように自立することだと思う。

北朝鮮問題解決には
中国との協調が不可欠
――お話を伺っていると、小沢さんは国連安保理が全会一致で決定した北朝鮮に対する非難決議には反対のようにも聞こえますが、いかがですか。
小沢 それは違う。国際社会が一致結束して北朝鮮を非難したことは非常にいいことだと思う。問題解決のための第一歩であることは間違いない。北朝鮮の火遊びのような瀬戸際外交を非難する国際社会のコンセンサスができたことは大いに結構だ。
 僕は、そういうことを踏まえた上で、北朝鮮問題を解決するためには日本が自前の戦略を確立して、日米中が対等に話し合っていかなければならない、ということを言っているんです。
――日本政府はいち早く、北朝鮮に対する経済制裁を含む強制行動の根拠となる国連憲章第7章を安保理決議に盛り込むよう主張して、安保理で活発に動きました。
小沢 日本政府は米国などと共同歩調をとって、国連憲章第7章を盛り込むことにこだわっていた。首相官邸がそれを主張したと報じられている。いつもは強硬姿勢をとることに慎重な外務官僚が、いままでになく積極的に動いたのだから、きっとそういうことなんでしょう。
 ところが現実は、まず英仏が降りて、土壇場で米国も降りた。でも、安保理という場を舞台にすれば、いろんな駆け引きの末にこういう展開になるであろうことは最初から分かっていたはずだ。だから、もしも日本政府が安保理での各国間の駆け引きのために技術的に強気の姿勢を打ち出したというのなら理解できるが、そうではなくてむやみやたらに動いたのであればそれはもうピエロでしかない。
 そして、もしも米国が日本に歩調を合わせて、第7章を盛り込むことに反対していた中国やロシアとの決裂を本気で覚悟していたならば、これは逆に米国の瀬戸際外交ということになる。もちろん米国はそんなことをするわけがない。だから、結果的に日本政府は米国から本音を聞かされていなかったのではないかと思うしかない。
 行け行けドンドンと威勢のよかった日本政府の対応は、日本国民から一時的に評価されたかもしれないが、一皮めくればその結果は評価できるものではなかったと言わざるを得ない。
――ということは、小沢さんはそもそも北朝鮮に対する経済制裁に慎重なんですか。
小沢 僕は「慎重」というわけではない。最初から、経済制裁というものは国際社会が一致結束しない限りできっこないと言っているんです。全世界が一緒になってやらなければ効果はない。それを有志連合でやって何の意味があるというの。ましてや、日本が単独でやっても全く意味がない。
 それから、もしも国連決議で「非軍事的な措置をとることができる」としている憲章第7章第41条に基づいて経済制裁を盛り込んだとしても、それがうまくいかなければ、次のステップとして第7章第42条による軍事行動ということになる。しかし、日本政府に軍事行動をとる覚悟が本当にあるのか。さらに、もしも現実にそんな事態になったら、日本国内がまとまりっこない。そういう覚悟のないまま騒ぐのは子どもの火遊びでしかない。政治家はそんな上っ調子でものを言ってはいけないのですよ。
 為政者というものはいろいろなことを考えあわせて、何が最良の対応かを判断すべきです。小泉首相がいままでやってきたようなパフォーマンスだけで国民の人気を得ようというやり方では、北朝鮮のミサイル問題のように深刻な問題には対応できない。そして、為政者が間違った判断や対応をしたとき、その国家がどうなるかは歴史を振り返ってみるとよく分かるでしょう。日本がそういう間違いを犯してからまだ100年もたっていないんですよ。
敵基地攻撃論は暴論
――国連決議をめぐる議論の過程で、額賀福志郎防衛庁長官や安倍晋三官房長官が、日本も敵基地を攻撃する能力を持つべきであるという主張をしました。自民党内にも同調する意見があります。それに対して小沢さんは厳しく批判していますね。
小沢 あれはむちゃくちゃな暴論だ。もしも北朝鮮が日本に向けてミサイルを発射したならば、これはもう戦争そのものなんだから、現行法でも自衛権を発動できる。しかし、彼らが当初言っていた敵基地攻撃論は、そういう段階に至っていないのに、日本が特定の国を敵であると認定して先制攻撃するということだ。それはブッシュ政権がやっていることと同じで、政府が判断すればどこの国でも攻撃できることになってしまう。これでは際限がなくなりますよ。
 そういう批判を受けたからなのか、政府は途中から先制攻撃と敵基地攻撃は違うと言い出した。そういう調子で、閣僚らがそのときそのときで場当たり的に適当に発言していることが問題だ。全く思慮分別のない対応だと思う。
――ミサイル発射から国連決議までの一連の過程で、日本政府は中国政府とあまり接触できませんでした。一方で、小沢さんはたまたまミサイルが発射されたときに中国を訪問していて、胡錦涛国家主席はじめ中国政府要人と会談を重ねました。まず、中国訪問の成果はいかがでしたか。
小沢 訪問してわかったのは、中国の指導者層にも一般国民の間にも、日本に対する信頼感がほとんどないということです。つまり、日中関係は非常に危険な分かれ道にさしかかっているのではないかと思う。9月に小泉首相が退陣して新しい首相が誕生すれば、日中関係が変わるのではないかという期待感があるが、首相交代による表面的な関係改善は、本質的な信頼回復とは異なる。
 そもそも、しばしば日米中の関係は三角形に例えられるが、僕に言わせればこの3カ国の間では三角形が成り立っていない。日米中の関係は三角形にすらなっていないんですよ。米中関係は成り立っているけれども、日中関係、日米関係は本物ではない。日本だけが米中から遠いところで点のような格好で存在している。日米関係は形の上ではあるが、本当の意味での信頼関係とか日米同盟というものは存在していないと思う。日中関係に至っては、中身はもちろん形式さえ存在していない。だから、日米中は二等辺三角形だとか正三角形の関係だとかいうことはほとんど意味がない。
 僕は日本が3カ国の関係の中で要の位置にいて、利害調整などで力を発揮できるような存在になることが望ましいと思っています。
――残念ながら日中国交回復以後、現在の日中関係は最悪といわれています。
小沢 確かに日中関係は以前より悪くなっている。僕自身、日中関係については政治家としてこれまで20年以上、よくなるように努力を続けてきた。でも日中関係は以前もよくない時期があったが、最近はもっとひどくなっている。
 その背景には中国での反日教育の影響もあるだろう。抗日戦争で日本を倒して中国国民を解放したという歴史が、中国共産党の存在理由になっている。だから中国にしてみれば、日本のことを評価してばかりはいられないわけです。一方で、日本が中国に対して無謀な戦争をしたことも事実だ。だから、中国の対日感情が悪いのは、ある意味で当然のことだ。
 近年の日中関係悪化の原因として、小泉首相の靖国神社参拝があるという指摘は、その通りだろうと思います。僕が数年前に中国を訪問したとき、中国首脳は「日中関係が悪化した原因は、小泉首相のウソにある」と言っていた。彼らによると日中首脳会談で中国側が小泉首相に「とにかく靖国神社参拝をやめてほしい」と言ったら、小泉首相は「分かりました」というようなことを言った。ところが小泉首相は、その後、また靖国神社を参拝した。中国はこうした小泉首相の対応に不信感を持ったわけです。だから、唐家★(「王」へんに「旋」)国務委員は一昨年会ったときに「小泉首相は言っていることと、実際にやっていることとが全く違う人だ」と批判していた。
 こういう外交は絶対にしてはいけない。そんなことをすれば2国間関係は悪くなるばかりだ。対立している問題については、相手側が賛成するかどうかにかかわらず、きちんと自分の考えを説明し、理解を求めるべきです。そして約束したことは必ず守らなければならない。もし外交でウソをつくと、それは単に首脳間の問題にとどまらないで、国民全体の問題になってしまう。
――とはいっても、中国政府は日中関係を改善したいと思っているのではないですか。
小沢 もちろん中国は日本との関係をよくしたいと思っています。そうした動きが本当の意味での友好関係に発展するようにしなければいけない。それが私の持論だ。私はこれまで、江沢民総書記(当時)はじめ中国首脳に会ったとき、「日中関係は銭勘定だけではいけない。それでは必ず金の切れ目が縁の切れ目になってしまう。それでいいのか」と繰り返し説いてきた。人間関係同様、2国間関係もそんなものではないでしょう。信頼関係を構築するためには、自分の考えをきちんと相手に伝えることと、合意したことはちゃんと守ること、その二つが重要だ。
――今回の北朝鮮のミサイル発射問題について中国は武大偉外務次官が北朝鮮を訪問するなど活発に動いていました。しかし、北朝鮮から前向きな対応を引き出すことはできませんでした。中国はかなり苦しんでいるのではないですか。
小沢 中国政府は武大偉次官が北朝鮮の駐中国大使に、かなり前からミサイル実験をやめるように忠告していたそうです。また、中国政府関係者は、朝鮮半島を非核化することが重要だと言っていた。これは北朝鮮だけでなく韓国も非核化すべきだということを意味しているのだが、私もその点については賛成です。同時に中国の北朝鮮担当者は「北朝鮮はとにかく困ったものだ」と嘆いていた。中国がいろいろ言っても、なかなか言うことを聞かないようだね。
――そうしてみると北朝鮮問題は本当に解決が難しそうですね。
小沢 全くそうだと思う。おそらく、このまま放っておいても、北朝鮮が自然に崩壊するとか、体制が転換するということにはならないと思う。だからこそ、問題解決のためにもまず日本は、中国との良好な関係が必要なんです。私の会った中国政府要人は、もし6者協議が開かれても、それは形式でしかなく、実質的には米朝2国間協議を進めたいと言っていた。
 国連安保理が全会一致で非難決議をするなど国際社会が北朝鮮に厳しい目を向けているにもかかわらず、北朝鮮が強硬な姿勢を崩さず引き続き核やミサイルの開発を続けるようなことになれば、今のままでは日本政府ができることはほとんどないだろうと思う。
A級戦犯合祀は間違いだから、
取り消すべきだ
――ところで、先日、昭和天皇が靖国神社へのA級戦犯合祀を快く思っておらず、1978年の合祀が原因で参拝をやめたという発言をしていたことが、元宮内庁長官のメモで明らかになりました。この問題をどうお考えですか。 小沢 僕はそもそも、A級戦犯を靖国神社に祭ったこと自体が間違いであると言っている。だから、それは取り消すべきなんです。そして、天皇が堂々と参拝できる靖国神社にすべきだと主張している。それに尽きますね。

ご意見・ご感想をお寄せ下さい。メールのあて先は、ronza@asahi.comです。