今月のおすすめ記事  2007年3月号

人類文化が進歩をとげてきたのは何故か

価格往来【第11回】

1万円……財政再建団体・夕張市の成人式予算として

小田嶋 隆 コラムニスト

おだじま・たかし 1956年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、食品メーカー勤務などを経て、文筆業の道へ。著書に『イン・ヒズ・オウン・サイト』『かくかく私価時価』『テレビ標本箱』、最新刊に『サッカーの上の雲』など。

 夕張市関連の話題について、当初、テレビの扱いは、かなり控えめだった。というのも、特定の地方自治体の財政状態が良くないというお話は、ありふれた話題だからだ。この話題がプライムタイムにふさわしいニュースバリューを獲得するためには、単なる財政の悪化とはレベルの違う、もう一段デカい花火が必要になる。
 で、夕張は、「財政再建団体に転落」という見出しを身にまとって画面に登場したわけなのだが、残念ながら、その肩書はたいしたインパクトを持っていなかった。
 ん? ざいせいさいけんだんたい? なんだそりゃ?
 いや、告白すれば、私が「財政再建団体」という言葉を知らなかったということだ。単語そのものは承知していた。ただ、意味を誤解していたのだ。具体的に言うと、「再建」という言葉の印象から、むしろポジティブな受け止め方をしていたわけです。
 「財政を再建していこうという明確な意思を表明しているわけだから、きょーびの自治体としては上出来なんじゃないのか」
 と。ひどいね、どうも。門外漢の認識であるにしてもあんまりだ。結局、法律や政治みたいな事柄については、字面からイメージできる範囲の認識で間に合わせているわけですね、あたしは。ええ、プレゆとり教育世代を蝕む「ゆとり脳」の恐怖。困ったことです。
 というわけで、昨年暮れの夕張関連報道では、「財政再建団体」というタームについて、ていねいな解説が付加されているケースが目立った。
 「財政再建団体」について、解説のおじさんは、「企業で言えば倒産」という筋立てで解説を展開しつつ、「しかし、企業の倒産や個人の破産とは違って、借金が棒引きにならない分だけさらに悪い」と、補足したりして、視聴者の理解を促していた。なるほど、わかりやすいです。ありがとう。
 が、これでもまだ足りない。地方財政の破綻ということが、現実としてどういうことであるのかについての、「人間の顔」が見える映像がないと、きょーびのニュースは一人前とは見なされない。

写真
 で、出てきたのが成人式だ。
 夕張では成人式のための予算が、たったの1万円しか出ません。1人あたり1万円じゃありませんよ、奥さん。市内の新成人全員に対して支給される市からの全予算が、たったの1万円なんです。一人頭何百円もなく、牛丼も食えません……と、こういう形で、夕張の悲劇は、お涙頂戴の人間ドラマとしてBGMつきで配信され、さらに「財政難に泣く若者たち」のサイドストーリーは、一躍ゴールデンに進出し、連続上映されたのである。
 いや、バカにしているのではない。事実、市の無策に一念発起した新成人の若者たちが企画・立案・実行・開催した手作りの成人式と、その成人式の最後の挨拶で泣き出してしまう晴れ着の女の子の絵姿は、近来にない感動的なドキュメンタリー映像に仕上がっていた。おかげで、この成人式に向けては、日本中から寄付が集まり(←夕張困窮譚をネタにした募金詐欺も現れた)、結局、年が明けてからこっちの夕張報道は、ニュースとドラマとバラエティーを統合化した、一大泣き笑い憤激ワイドスペシャルの様相を呈するに至ったのである。
 かくして、夕張は、一流のネタになった。その証拠に、最後にはみのもんたが現れている。この男の登場は、テレビの本腰を意味している。紅白、亀田、ミリオネア。みのを現場に送り込んだ以上、彼らとしても半端なことはできない。
 《政治家、公務員による税金、年金の無駄遣いを検証するTBS特番「みのもんたの激ズバッYほっとけないSP」(24日午後6時55分放送)のメーンキャスターとして、市民へのしわ寄せが象徴的な夕張に足を運んだ。12万人いた市民が10分の1になった雪深い町にショックを受けたみのは、80歳を超えて1人で住む市民の姿に「涙が出た」》(日刊スポーツ・1月18日付)  ……ご覧の通り。記事の見出しは「みの夕張で男泣き」。「夕張の問題は他人事ではない。明日はわが身だ」と、みのが言うならその通りなのだろう。私ごときが付け加える言葉はひとつもない。
 さて、最終的に、夕張の問題は、意外な方向に飛び火した。こじつけだと思うかもしれないが、私は、このたびの宮崎県知事選におけるそのまんま東の当選に、夕張での一連の騒動が少なからぬ影響を及ぼしたのだと考えている。
 もちろん、第一義的には、東の当選は、「談合知事の後継者にまたしても役人出身者を担ぎ出してきた自民党の厚顔と、千載一遇の機会に独自候補を擁立できなかった民主党の無力に向けた、宮崎県民の悲鳴」というふうに解釈すべき問題なのであろう。
 しかし、「中央のパイプ」に不審を抱き、「お国の無慈悲」を思い知った遠国の人々が、「官よりメディア」「行政手腕よりも知名度」「予算を持ってきてくれる人より、テレビカメラを連れてきてくれる人」を選んだのだとすれば、その捨て鉢な決断の背景には、夕張メディアスクラムへの羨望の視線があった、と、そう思っても良いはずだ。
 というわけで、挿絵には、夕張のおかげで当選した東さんを起用しました。どうせがボタ山。芸能廃棄物。観光資源として再利用したら、使用済み消火器と一緒に燃えないゴミに出してください。

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