今月のおすすめ記事  2007年6月号

潮流06

若者の「政治的無関心」は
時代の空気の反映だ

森 千香子 南山大学外国語学部講師

もり・ちかこ 1972年生まれ。パリ社会科学高等研究院(EHESS)博士課程修了。専門は社会学。共著に『市民のアソシエーション』。

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写真=品田裕美

 4月は選挙が相次いだが、近ごろ選挙のたびに投票率の低さが話題になる。4月8日の13都道県知事選でも9県が前回より低下、44道府県議選でも27県が過去最低の投票率を記録した。「明るい選挙推進協会」のサイト(http://www.akaruisenkyo.or.jp/)にある投票率の推移をみれば、1970年代以降右肩下がりなのが一目瞭然だ。
 全体的な投票率低下のなかで特に問題にされるのが「若者」の投票率だ。前述のサイトによれば、90年代前半から20代の投票率は衆議院選で50%を切り、参議院選では20~30%台が続いている。これは最も投票に行く60代のおよそ半分以下だ。
そして低投票率とともに指摘されるのが「若者の政治への無関心」である。「若者は街頭演説に目もくれずに通り過ぎていく」という政党幹部の嘆きや、「若者が投票しないのは、安易に得られる情報だけを基に投票の必要がないと判断しているから」との学者の分析など、様々な論者が低投票率を「問題」とみなし、「無関心」を憂慮する声が聞こえてくる。
 こうした論調に、私はどうも違和感を覚えてしまう。若者の政治不参加を難しい表情で憂える人たちが、「低投票率」のいったい何を「問題」だと考えているのか、どうもよくわからないからだ。
 言わずもがなだが「投票」=政治的関心の有無ではない。丸楠恭一らの『若者たちの《政治革命》』(中公新書ラクレ、2004年)にもあるように、現状への不満を棄権によって訴える「積極的棄権者」も存在する。また、80歳を超える私の祖父母はいまだ投票を「サボった」ことはないが、彼らが棄権する若者より政治に関心があるかといえば、必ずしもそうではない。「組織票」や縁故で投票する人も同じだ。つまり投票に行く人の中にも、政治にあまり関心のない人は相当数いる。だから「政治への無関心」が問題だと言うのなら、「投票に行かない若者」だけでなく「投票に行く人」も含めた、より広い観点から議論する必要がある。
 では、この「無関心」はどこからやってくるのか。「自分が投票しても何も変わらない」「誰が選ばれても同じ」という諦めや不信感、「豊かな先進国における個人主義の発達」などが理由として指摘されるが、ここではもうひとつ別の要因に光をあてたい。
 鎌田慧がトヨタの工場で働く季節工の様子を描いた『自動車絶望工場』(講談社文庫、83年)には、72年、著者が別の若者と青森の職業安定所で面接を受けるくだりで、若者に面接官が「政治に関心ありますか」と尋ねる場面が出てくる。
 面接官がこのような質問をしたのはなぜか。政治への関心の有無が採用の判断に関係するからだろう。ただ実直に黙々と働くことが求められる工場の現場に、政治への関心が強く信念を持つ若者は「好ましくない」からだろう。そして会社が「政治に関心を持つ若者をよく思わない」ことを、若者も内面化していったに違いない。
 これは70年代の工場労働に限定された話ではもちろんない。近年、大学に入学したばかりの学生に「一番関心のあること」を尋ねると「就職」という答えが返ってくることが多い。そんな彼らが参照する一連の「就職面接マニュアル」に目を通してみると、「政治の話題は避け、政治より社会・経済の動きをとりあげるのがよい」「政治に関しては中立的な立場をとるように」などの文章が散見される。時事ニュースとして政界の動きを押さえるのは大事だが、政治について意見など持たないほうがいい、ということである。こうした忠告が「政治的な意見や関心など持たないほうが無難」という若者の意識形成に影響を及ぼしていることは否定できないだろう。

最低投票率を規定しない意味
 つまり現代の若者たちが政治に「無関心」だとすれば、それは彼らが時代の雰囲気を読み取り、うまく順応しているからにすぎない。激化する競争社会で勝ち残り、うまく世を渡っていく上で、政治に関心を持つなんて(時間や労力の)コストも(職業的)リスクもあまりに高すぎるのだ。
 そもそも「政治に関心など持たないほうが無難」な空気が蔓延するなかで、若者の「政治的無関心」を嘆くのもおかしな話ではないか。この空気と構造を変えない限り「無関心」「低投票率」は決して変わらないだろう。そしてこうした風潮のなかで、79%が望んでいる(4月17日付朝日新聞朝刊)にもかかわらず、与党が国民投票法案の「最低投票率」を頑強に規定しようとしないことの意味も、改めて考えるべきだろう。「無関心」は困ると言いながら、実は関心を持たれたら困るのでは、と疑いたくもなる。
 ちなみに、国民投票法に最低投票率を規定しているのは14カ国だけと言われているが、実は日本のような形で規定せずに国民投票を行う国がきわめてまれであることが、次のサイトの07年3月19日付記事に詳しく示されているので、ぜひ参照していただきたい。(http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005)

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