今月のおすすめ記事  2007年7月号

「現代の貧困」の現場

小林よしのり×雨宮処凛
新宿・マンガ喫茶探訪


写真

写真=品田裕美

  東京・新宿アルタ裏。
 5月中旬の午後、「笑っていいとも!」出演者の「出待ち」をする若者の間を縫うようにして、小林よしのりさんがやってきた。生成り色に紺のピンストライプが入ったスーツ、シルバーのスニーカー、手には高級ブランドのブロンズ色のブリーフケース。フリーターや生活困窮者の宿泊所と化しつつあると言われている、24時間営業のマンガ喫茶の「取材」だ。入り口をくぐると、水先案内人を買って出てくれた雨宮処凛さんと、この店のアルバイト店員さんが待ってくれていた。
 両脇が本棚で埋め尽くされた狭い通路。安っぽい蛍光灯の揺らめき。配管、配線が剥き出しになったコンクリート打ちっ放しの天井は、ジャンプすれば手が届きそうなほど、低い。それらを見回しながら、小林さんはつぶやいた。
「展望がないなあ」

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 さっそく、小さなソファーが置かれたカップル用のブースで店員さんや雨宮さんから話を聞く。店員さんの本業はバンドのベーシスト。5年ほど前から週3回程度、この店でアルバイトしているという。
小林 いくらなの、ここ?
店員 基本料金は最初の1時間が180円。夜間は時間に応じたパック料金制になっていて、一晩泊まるとだいたい1600円くらいです。
小林 毎日泊まる人がいるんだ。
店員 5年間住んでいる人もいます。
小林 家族はどうなってるの?
店員 親だと死んでいたり病気だったり、配偶者だと逃げられていたり……。どうしてわかるかというと、最終的に支払いができなくなった人には、家族の連絡先を教えてくれって言うんですよ。すると「家族はいない」って。あとは路上で雑誌を売って生活している方も数人いて、最後、支払いが全部「百円玉」ということも。
小林 若い人が多いわけ?
店員 いや、けっこう年配の人もいます。
小林 以前は、マンガ喫茶って本当にマンガ読むためだけのとこだったじゃない? いつからこんなふうに、ベニヤ板でスペースを仕切ったり、カーテンをしたりするようになったの?
店員 4、5年くらい前でしたね、仕切りがついたのは。寝る人が増えたのと、新しくできる店は個室化が進んでいて、やっぱりそっちにお客を持っていかれるので。
小林 でもここじゃ寝ころべないじゃない。
店員 雨露しのげるだけマシなんじゃないですか。ドリンクもタダで飲み放題ですし。
雨宮 コーンポタージュスープもあるので、それが生命線、みたいな。それか100円ショップでカップラーメンやカップ焼きそばを買って持ち込む。お湯もタダですから。
小林 そんな、毎日カップラーメンじゃ、まともに働けないよねえ。
店員 実際にあったのは、30代くらいの、おそらく日雇いの派遣労働者だった人が、最初は個室で普通に座っていたんですけど、だんだんうつぶせになって、大いびきをかきだしたんです。ヤバイと思って救急車を呼んだんですけど、救急隊員の人が「ああ、もうだめだな」って。あとは1週間、ほとんどコーンポタージュしか口にしていない60代ぐらいの女性がいて、「このままじゃ餓死する」と思って、警察に保護してもらいました。お金がないのに、警察に突き出されることを織り込み済みで、無銭飲食する人もいます。
雨宮 警察だと、一応布団で寝られますからね。このままだと、マンガ喫茶内での餓死っていうのが起きると思いますよ。それに去年ぐらいから、マンガ喫茶やネットカフェで結核がはやっているそうです。
小林 見えないホームレスがいるってことだね。ここがなければ、ホームレス。
店員 マンガ喫茶、サウナ、路上を渡り歩いている人も多いですよ。ホームレスの人が、ちょっとお金ができたら泊まる、という。なので今、ホームレスをどう定義するかといったら、けっこう難しいと思います。
小林 だけど世間では、景気が上向いてきて人手不足だ、働き口はいくらでもあるって言われている。そこはどうなの?
雨宮 安定した仕事はないんですよ。使い捨てされるような仕事は山ほどあるけど。
小林 奥谷禮子とかさ、「働く意欲がない、ぶらぶらしている連中を助ける必要はない」とか言うじゃない?
雨宮 私、この前、奥谷さんと対談したんですよ。奥谷さんが「フリーターが『9時5時』の仕事に耐えられるんだろうか」って言うから、「フリーターのほうが正社員より大変な生活をしている。朝7時集合とかざらにあるし、勤務時間も長かったりする。フリーターがだらしがないというのは間違っている」って反論しました。奥谷さんは「そうかしら?」って。
小林 あの人、人材派遣会社の社長でしょ。“ピンハネ業者"だからね。安く使える労働者がいないと商売が成り立たない。
雨宮「フリーターがつらいなら、私のように起業しなさい」って言ってましたよ。

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 潔癖性であることを公言されている小林さん。誰かがこぼしたドリンクでベタつく床や、妙にテカッている個室のリクライニングシートには嫌悪感を抑えきれない様子だった。
 取材を終えての、小林さんの感想。
 「不潔そうだなー。病気が蔓延しないかが、一番気になります。あと、ああいうところに寝泊まりしているのは若い人だけかと思っていたけど、年配の人もいるんですね。予想外でした」 (編集部・高橋純子)

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