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潮流07

「ツイスト」する権力

吉田 徹 北海道大学公共政策大学院准教授

よしだ・とおる 1975年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒、パリ政治学院を経て、東京大学大学院総合文化研究科修了。日本貿易振興会、日本学術振興会特別研究員などを経て、2006年から現職。共著に『先進デモクラシーの再構築』など。

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写真=青木 彩
 先の参議院選挙で、自民党が過半数を失った。もっとも6月末から党内ではすでに「38±2」という獲得議席の予測メモが出回っていたというから、負けは織り込み済みだったはずだ。いまや自民、民主両党とも、どう国会を運営していったらよいかに知恵を絞っていることだろう。
 いずれにしても、これで日本は1989年以来の「衆参ねじれ現象」を経験することになった。ただこの時は依然として自民が第一会派だったから、前代未聞の状況に突入することになる。指摘されているように、前回は小沢自民党が予算案を人質に、参議院野党に対して法案否決と統治上の責任を負わせることで、政府・与党は状況を乗り切ることができた。今回は、小沢民主党が正念場を迎える。
 イギリスのように非民主的な上院を持つ場合を除けば、二院制をとる国で立法府が二つの政治権力によって分有される状況は珍しくない。アメリカ政治の文脈では、大統領と議会が異なる党派で占められている状態を「デバイデッド・ガバメント(分割政府)」と呼ぶ。これがフランス政治では「コアビタシオン」と呼ばれることになる。「保革共存」と訳されることが多いが、もともとは、70年代に、時の野党たる社会党が議会多数派となる可能性を示唆したジスカール=デスタン大統領の言葉に由来する。国民に直接選出される大統領の任期(7年、現在は5年)と、首相を指名する下院の任期(5年)が異なっていたことから生まれるわけだが、「コアビタシオン」の本来の語義は「男女間の同棲」という意味だから、言いえて妙である。日本的にいえば「野合」ということになるだろうか。ちなみに、この時の首相はシラク前大統領で、ジスカール=デスタン大統領とも異なる政党に属していたのだから、政治とは男女関係と同じように複雑である。
 こうした「権力のコアビタシオン」は、アメリカでは60年代以降むしろ常態化していると言ってもよいし、カナダも上院と下院のねじれ現象を経験している。ドイツでも、上院たる連邦参議院は各州(ラント)政府の代表によって構成されることから、上下院のねじれは珍しいことではない。最近のメルケル「大連立政権」が誕生するまでの過去15年間で、野党は上院の過半数を実に約8年間も占めていた。ことほどさように「ねじれ現象」は実は国際標準だったりする。「ビリーズブートキャンプ」の流行とは無関係に、先進デモクラシー国は権力をめぐり、頑張って「ツイスト、ツイスト」しているのである。

「デバイデッド・ガバメント」か?
「コアビタシオン」か?

 コアビタシオンに対するフランス国民の評価は両義的なものだった。世論調査では、民主的な制度的均衡をもたらす点を評価する意見(モンテスキューを生んだ国である)と、政策の非効率性をもたらすとの否定的な意見(ドゴールを生んだ国でもある)が交互に生じる。
 二大政党制に接近しつつある日本でも、今後の政局運営によっては、国民世論はこの二つの評価の間を行き来することになるだろう。
 その方程式はといえば、これもまたなかなかに複雑である。安倍自民の政策が世論の趨勢から遠ざかれば、ねじれ状況を肯定的に評価する意見は増えるだろうし、逆に民主党が期待に応えることができなければ、否定的意見が多くなるだろう。また、消費税の議論が棚上げされてしまったように、自民党が世論に配慮して日和ることになれば、あるいは民主党も負けじと人気取り作戦に出れば、否定的意見へと傾き、ねじれ解消の機運、すなわち衆議院解散の可能性が高まることにもなりうる。それぞれの党首や国対委員の腕の見せどころである。「デバイデッド・ガバメント」、すなわち無責任な統治を招くか、「コアビタシオン」、すなわち政府権力の相互抑止につながるかは、参議院不要論といった制度設計上の問題ではなく、そのシステムがどのように運用されるかにかかっているのである。
 二大政党制は決して万能ではない。しかし当初目指されたような、二つの政党の間の政権交代によってだけではなく、本来持つべき緊張関係が権力の分有によっても生まれるというのは想定外のことだとしても、決して唾棄すべきことではないだろう。
 アメリカの有名なイラストレーター、ノーマン・ロックウェルの作品に、「デモクラシー」と題されたものがある。夫が共和党支持の新聞を、妻が民主党支持の新聞を、背中合わせに椅子に座って読んでいるという絵柄だ。この二人は政治的意見を異にしながらも、単体として民主政治を実践している。それは「ねじれ」、ましてや「権力の空白」などでは決してない。
 今回の参院選の結果、どんどんツイストされた魅惑的なデモクラシーが日本でも誕生するならば、皮肉なことではあってもそれは安倍自民党がもたらした最大の功績として記憶されることになるだろう。そんな「戦後レジームからの脱却」ならば、歓迎すべきことである。

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