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「ろうそく集会」は
国民統合と民主主義
発展のための「陣痛」だ

李明博・韓国大統領側近、朴振国会議員インタビュー

朴振 国会議員

パク・ジン 1956年、ソウル市生まれ。ソウル大卒。米ハーバード大や英オックスフォード大などの大学院修了。延世大兼任教授、金泳三政権で大統領府の広報・政務秘書官、ハンナラ党スポークスマンなどを歴任し、李明博政権発足に当たっては政権引継委員会の外交統一国防分科会の幹事を務めた。

聞き手=

箱田哲也 朝日新聞ソウル支局長

薬師寺克行 本誌編集長


岡田晃房
——李明博氏が大統領に就任してわずかですが、支持率が急激に低下し、全土で100万人規模の反政府デモが起きるなど政権批判が高まっています。なぜ、こうした状況に陥ったのですか。

朴振 韓国の場合、新しい大統領が就任すると6カ月くらいはハネムーン期間で支持率が高かったのですが、李大統領の場合は例外的です。支持率低下やデモの直接の引き金は米国産牛肉の輸入再開問題です。米国産牛肉は国際獣疫事務局(OIE)の基準に基づき、国民の健康に問題ないと判断して輸入再開を決断したのですが、国民が否定的に受け止めたのです。
 その背景には幾つか問題があります。政権発足直後、女性相、環境相、統一相に内定していた3人が不動産投機疑惑などで入閣を辞退し、首席秘書官の1人も同じ問題で辞任した。それが国民の不人気の原因になったのです。また、李大統領自身が経営者出身で、閣僚はじめ政権幹部にも金持ちが多く、庶民のことが分かるのかという疑問もでた。こうした不満が「ろうそく集会」という形で現れているのです。

——政府の対応はいかがでしたか。

 この集会は、牛海綿状脳症(BSE)の脅威に対する一種の市民抵抗運動の様相をみせています。米国との牛肉交渉が妥結した直後の5月初めに始まりましたが、政府は積極的に対応しなかった。国民が何を求めているか十分に把握できないまま、集会を過小評価していたのです。いま米国との間で事実上の再協議といえる「追加交渉」を進めるとともに、内閣や大統領府の大々的な人事刷新に踏み切る。最初からこういう対処をしていれば良かったと思います。
 一方で私が憂慮しているのは、最近の「ろうそく集会」の変質です。牛肉問題とは直接関係ない問題を持ち出して大統領退陣まで主張している。市民が掲げるろうそくのあかりと、政治的目的をもつあかりは区別しなければならない。

——これほど多くの人々が集まると一種の社会現象に見えます。

「ろうそく集会」の特徴は、「広場民主主義の出現」「デジタル情報に基づいた市民の抵抗運動」「若いネット市民らの世論主導勢力化」などです。集会には10代の若者、特に中学生や高校生も参加しています。若い人たちの参加は、韓国社会に大きな変化が起きていることを示している。また、社会的イシューに対する意見の表明が、インターネットを通した「広場民主主義」という新しい社会現象で現れているのです。
 重要なことは、このような多様な意見の表現を否定的に見るだけではなく、韓国の民主主義の健全な発展の契機とすることです。つまり、これらの意見を選り分けつつ受け入れられるように国政の運用システムを改編しなければならない。学生や市民が、ろうそくを持ってソウル市庁前広場に現れる前に、彼らの意見を正しく把握して受け入れることができなかった政界の責任も大きいのです。「デジタル民主主義」が広がっているだけに、政界もこれらの多様な意見を受容できるコミュニケーション・システムを新しく構築しなければならないのです。
 大統領府はインターネットでの情報伝播が急速に拡大している点を考慮して、インターネット専門担当秘書官を置くことを検討している。今回の牛肉騒動でインターネットが相当な影響力を発揮したにもかかわらず、インターネットに対処できる組織や人材がほとんどなかったという問題を踏まえての対策です。また世論を主導する市民社会団体対策を強化するため、専門の秘書官の新設も検討する必要があります。

——大規模デモを受けて大統領府首席秘書官や閣僚がすべて辞意を表明したことは、政治的には衝撃ですね。

 大統領は最近、「国民の目線に合う人選をする」と表明しました。もともと、国民の最初の不満は新政権の人事にあった。政権の去就は、内閣や大統領府などの国政運用システムを改編して、国民の目線の高さに合わせられるかにかかっている。国民との意思疎通に積極的かつ謙虚な姿勢で取り組めば、むしろ禍を転じて福となすことが可能だと思います。

——しかし、短期間に支持率を回復することは可能でしょうか。

 牛肉問題だけを考えると難しいでしょう。米国との追加交渉が成功しても国民がそれを受け入れるかどうかは別問題です。政府は今後、国民をとにかく説得しようというのではなく、国民が政府の真剣さを受け入れてくれるように誠意を尽くさなければなりません。客観的な真実をありのまま国民に知らせるとともに、これまでの交渉で誤っていた点を明らかにして、時間をかけて国民の理解を得なければならない。

——それにしても、こんな状況で李大統領は苦しいでしょうね。

 大統領も事態の深刻さを十分に認識しています。私を含め、与党ハンナラ党は議員総会などを通して党指導部に民意を伝え、それが大統領に届いたようです。6月10日に最大規模の集会がありましたが、その際、大統領は「いろいろ多くのことを考えた」と漏らしました。それは我々の声が届いた証拠だと思います。

——韓国では社会の「和合」と「統合」の重要性が議論されていると聞きます。国民の爆発的なエネルギーとこれをコントロールできない権力との対立的関係は韓国特有のことでしょうか。

 韓国の民主主義は近年、非常に発展してきました。1945年の光復(日本植民地支配からの解放)と国家樹立以後、民主主義を受け入れ、六十余年ぶりに先進国水準の民主主義が定着した珍しい国です。短い歴史の中に軍事独裁と経済発展、民主化闘争など多くの経験を積んできました。その節目ごとに市民社会が大きな役割を果たしてきました。代表例が「4・19革命」(1960年に李承晩大統領を倒した学生革命)と「5・18光州民主化運動」(80年に民主化を求める学生・市民に軍が発砲した事件)、「6・10抗争」(大統領の直接選挙を求める87年の民主憲法制定要求運動)などです。韓国の市民社会が政界を導いて今日の民主体制を作ってきたともいえるのです。もちろん、その過程では葛藤や分裂が社会を支配したこともありました。逆説的にいえば、葛藤と分裂が表出してはじめて真の和合と発展が可能だともいえる。最近の韓国の事態にもそういう側面がある。「ろうそく集会」は新しい国民統合と民主主義発展のための、いわば「陣痛」だと考えます。

——そうした変化の中で、李政権は具体的に何を掲げているのでしょうか。

 韓国では過去2代、いわゆる進歩的な大統領が続き、社会の中に葛藤やアイデンティティーの混乱が生まれました。実用的な中道保守派の李大統領に政権が代わり、新政権は理念にとらわれない実用主義と未来志向を打ち出しています。それに伴って韓国社会は、システムやアイデンティティーの調整過程、つまり過渡期にあります。これは前政権の進歩的な理念追求から、新政権の実用的な国益追求への変化です。

——もう少しわかりやすく説明していただけますか。

 理念の問題は西欧的な「保守」対「革新」という対立ではなく、「親北」対「反北」という二元論的対立です。南北は同じ民族でありながら、銃口を向け合っている。私は21世紀の脱冷戦、多元化の時代に「親北」か「反北」かを論じ合うことは非生産的だと思っています。そして、李政権はこうした非生産的で理念的な葛藤を乗り越えて、あくまでも実用的な政策を実施しようとしているのです。

——李政権の対北朝鮮政策は、前政権とは大きく異なっているようですね。

 金大中大統領と盧武鉉大統領の過去2代の政権は北朝鮮に対して「太陽政策」を続けてきた。北朝鮮の変化を導くために経済的な援助をするという政策で、一定の意義はありました。しかし、北朝鮮はまったく変化していない。北朝鮮が一方的に恩恵を受けて、相互主義に基づく改革や開放は行われなかったのです。そればかりか太陽政策がもたらした「日差し」が本当に北朝鮮の住民に届いたかどうかも分からないのです。
 李政権は北朝鮮に人道主義的な観点から援助すべきことはするが、改革を実現させるための努力も怠らない。そのため「非核・開放3000」という政策を打ち出した。これは北朝鮮の非核化を前提に、北朝鮮の1人あたり国民所得を3千ドルまで引き上げるという構想です。ところが、北朝鮮はこの政策を拒否した。韓国に対しては経済援助を要請せず、米国との対話から突破口を見いだすつもりでいるようです。北朝鮮のこうした反応にどう対応していくかが李政権の課題です。

——対米関係も、前政権とは大きく変わりつつあるようですね。

 米国との間ではまず信頼関係の回復が大事だ。米国は韓国の安全保障問題で力になってくれる唯一の同盟国です。韓米関係は未来につながるビジョンを持つ戦略的な同盟関係に発展させなければならない。4月の李大統領とブッシュ大統領の会談では、共同の利益を拡大するグローバルなレベルでの同盟関係の構築が目標だった。外交、安全保障、経済の分野だけではなく、人権、環境などあらゆる分野での協力拡大です。7月にブッシュ大統領が韓国を訪問する予定ですから、そのときにマスタープラン(韓米未来同盟ビジョン)が作られ公表されるでしょう。韓米戦略同盟の発展とともに自由民主主義と市場経済を共有する韓米日の協力の枠組みを新たに強化するものです。

——日本の教科書の解説書に新しく「竹島(韓国名は独島)は我が国固有の領土」という記述が掲載されるのではないかという問題が出ていますね。

 李大統領は日本との関係について「過去に束縛されることも、小さいことにとらわれることもない」と述べた。4月の韓日首脳会談を通じて両国間の未来志向的関係を作ることで合意しました。独島問題については、韓国の国民感情を刺激しないよう日本側には慎重な対応をしていただきたい。日本側がこの問題に執着するなら、真の未来志向的関係の成立が難しくなる可能性があります。それは日本にとっても実益がないでしょう。だから、両国が知恵を出さなければならないのです。それは韓日関係の改善のみならず、東北アジアの平和、繁栄にも寄与することでしょう。


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