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終了のホイッスルが鳴った。 4対1。 「ブラジルらしい試合運びがようやく出てきましたね。日本はブラジルのエンジンを温めてあげた形でした」 テレビの米国人解説者が言うのを聞きながら、虚脱感が体中に広がっていった。 ワシントンのNPB(ナショナル・プレス・ビルディング)にある朝日新聞アメリカ総局におじゃましてテレビ観戦となったが、その後、向かいのウィラード・ホテルに行き、駐車場に入れた車を待っている間、ドアマンと立ち話をした。彼も仕事の合間にテレビで試合を見たと言う。 「さすがにブラジル。日本、よくやったじゃないですか。4年後は楽しみですね」 「それに、日本は、WBCで世界一になったばかりだし、いいアスリートがたくさんいるじゃないですか」 「日本が敗れても、韓国もオーストラリアもがんばっている。アジアはどんどん強くなっていきますね」 グアテマラからの移民だという彼は、そんな言い方で、慰めてくれた。 前半ギリギリまで、私は夢を見ていた。 1-0で締めれば、後半ひょっとして……。 それをうち砕いたのがロナウドの一発だった。 体は象のように膨らんでいるが、ゴール前になると、いるところにいる。中澤がどっちつかずでうろうろしている。誰もマークしていない。難なく頭で合わせた。この一発は痛かった。心理的には一気に3対1に逆転されたような恐怖感を私は覚えた。 それでも、前半は、攻め込まれながらも日本らしいサッカーができた。 川口はよく反応した。 中田は起点となった。 加地は切り開いた。 三都主はこじ開けた。 巻は体で絡んだ。 玉田が左で振りぬいた。 後半、その日本らしさを維持できなかった。 「日本は、もっとガマンしなければいけない。球をあんなに惜しげもなく相手に渡してはダメ。そんな余裕はないはず」 解説者もだんだん辛口になってきた。 足も動かなくなってきた。 それに比べて、ブラジルは何とよく走るのだろう。 昔は、選手1人1試合4キロといわれたものだ。いまはその倍、走らなければならない。 なによりも敗因は、走り負けたことにあったと思う。 それに日本は、縦パスがブラジルに比べて半分もなかったのではないか。 しかし、結局は、シュートを打てないことに尽きる。枠の中にはまるシュートだ。ブラジルが怖いのは、どんな体勢からの、どんなシュートも枠をとらえてくることだ。 日本はといえば、オーストラリア戦に敗れた後、1時間以上もシュート練習の特訓をせざるをえなかった。こんな泥縄ってある? 最後は〝シュートレス日本〟症候群に負けたのだ。 それでも日本は、川口と中田を生み出した。世界に立派に通用する不動のGKとMFを持つことができた。 しかし、不動のフォワードを持つことができなかった。 なぜ、日本には名フォワードが出ないのか。 そこをとことん分析し、その弱点を直さなければならない。 おそらく、それは、日本の社会、日本の教育、日本の組織のあり方と深くかかわっているのではないか。 たとえば―― ▼最後は、個人の質と突破力とスタイルの違いで差がつき、勝負が決まること、頼もしい、独立した個人が、豊かで、たくましい社会をつくること、を率直に認めたがらない。 ▼個人が単独で、状況を切り開くことを奨励しないし、それを可能にする環境をつくろうとしない。それにふさわしい待遇、報酬を用意しない。 ▼個人の業績、リスクと個人の報酬、待遇が正比例すべきだということを是認したがらない。したがって、リスクを取る人間が少ない。 ▼外に出て稼ぐ外部攻撃型より内で管理する内部管理型が組織では偉くなる。攻めより守りが組織防衛上、優先される。 ▼人事考課や組織評価が、減点主義であるため、一度、「失敗」するとまず主流に入れない。それが「失敗」に対する過度の恐怖感を植え付けることになる。したがって、挑戦に臆病になるし、あえて挑戦すると、緊張しすぎて「失敗」する。 私は、ジーコがこの4年間、日本チームに教えようとしたのは、“シュートレス日本”の克服だったと思う。 シュートはゴールに向かってぶっ放すのではない。ゴールに向けてパスをするのだ、と口を酸っぱくして言ったのも、緊張しすぎの日本のフォワードの欠点を知り抜いていたからにほかならない。 昨年新春、私は本誌でジーコとの対談を行った。話が日本チームのフォワードの課題に移ったところで、ジーコは久保(横浜F・マリノス)を高く評価した。久保はゴール前で邪心がない、落ち着いている、そこを特筆した。ただ、その後で、けがが心配だ、と顔を曇らせた。私はそれ以後、そのことが引っかかっていたのだが、結局、久保の出番はなかった。 サッカーの戦略ということで言えば、これからもトータル・サッカー、つまり全員攻撃、全員防御、以外はないのだろう。 しかし、国民病とも言うべき〝シュートレス日本〟の現状では、これを金科玉条に続けていては、全員防御、散発攻撃、で終わり続けることになるだろう。 そこから脱却するには、戦略、戦術よりもっと根本的な意識と精神の革命を必要とするだろう。 それは一言で言うと、 「全員“フォワード”」 社会、学校、企業、スポーツクラブ、いずれも、次のような課題に応えるべきである。 ▽確かな個がたくましい公をつくる。 ▽リスクに見合った報酬、待遇を与える。 ▽個人が生き生きと活躍できる環境をつくる。 ▽可愛い子には旅をさせる。 ▽失敗は成功の母。 なかでも、失敗を恐れずに挑戦する風土をつくりたい。社会にどれだけたくさんの「敗者復活」の水脈をつくることができるか、それを促す風土をつくるか、そこから続々とヒーローを生み出せるか、がカギである。 格差とか格差社会とかを過大に言い立てることで、先駆的な、突破力のある個人を押しつぶし、引きこもらせる結果になりかねないことを、私は恐れる。 個人それぞれの特質と差を認め、それを上手に引き出し、それを最大限活用することをもっと考える。その上で、「失敗は成功のもと」「敗者復活」の回路をたくさん用意しておく。そうやって、全員“フォワード”社会を育てることだ。 「敗北を抱きしめて」(注)、出直すことにしたい。 ブラジルチーム、ありがとう。 ジーコ、オブリガード。 注 マサチューセッツ工科大のジョン・ダワー教授が、戦後の占領期の日本を描いた名著。00年にピュリツァー賞を受賞した。 |
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