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ジェームズ・ベーカー元国務長官とリー・ハミルトン元下院議員ら10人の超党派有識者で構成されるイラク研究グループ(ISG)の報告書が発表された。 2008年までにイラク駐留米軍を撤退させるべく、イラク政府の軍事・治安能力をつけさせ、自助努力を強化させることを眼目としている。イラクのイラク化のススメである(骨子参照)。 報告書は、大きく分けて現状分析編と政策提言編の二つだが、政策提言についてはこれまでもこのコラムでたびたび取り上げてきたし、報告書発表後、新聞・テレビの報道でも取り上げられているので割愛し、いったいイラクで何が起こっているのか、を報告書の記述に即して紹介したい。 ▼「イラクの人々の中には悲観論が蔓延している」 イラクでは毎月、3千人の非戦闘員がテロなどで殺されている。10月だけでも、一日平均、180件のテロなどの武装攻撃が発生している。 2600万のイラク人口のうち40%はきわめて不安定な治安環境の下に暮らしている。米軍占領後、160万人のイラク人がイラク国内で移住せざるをえなくなった。180万人が国外に逃れている。 報告書は、「内戦」という言葉こそ使っていないが、カオス(混沌)やアナーキー(無政府状態)という表現を用いている。 「イラクでの出来事は、米国の決定と行動によって起こされただけに、米国はイラクがアナーキーに陥らないように、できるだけのことをしなければならない。それが米国の責任であり、また利益でもある」 ▼「イラクの政府職員の一人はわれわれに言った。『アルカイダはいまイラクで、フランチャイズを展開中だ。まるでマクドナルドのチェーンのように』」 アルカイダのコアメンバーは1300人とされるが、アルカイダ方式がマニュアル化されつつある。アルカイダは負けなければ勝つ。米国のイラクでの失敗すなわちアルカイダの勝利だからである。 ▼「イラクの警察の状態は、イラクの軍隊よりひどい」 警察は犯罪を取り締まることができない。往々にして、不必要な拘束、拷問、スンニー派民間人の処刑などの宗派的暴力に関与している。警察は内務省の傘下にあるが、内務省は腐敗と民兵の浸透に直面し、地方の警察を十分に監督下に置いていない。 ▼「イラクの各省はそれぞれ施設保護費名目で、警備兵を国費で雇い、保衛、警備を行っているが、彼らが国家に忠誠心を誓っているかどうかは疑問である」 警備兵の数は全体で14万5千人に上る。保健省、農務省、運輸省などのサドル師にコントロールされているところでは、この費用と雇用はマフディ軍(注1)向けに使われている。米政府職員の一人は「彼らは無能で、機能せず、浸透的である」と形容している。 ▼「多くのイラク人は、宗派的アイデンティティーを受け入れつつある」 イラクをつくってきたシーア派とスンニー派とクルド人の三つのアイデンティティーが分解しつつある。 ▼「イラク国民の多数派であるシーア派は1300年の歴史の中で初めて権力を握った」 多くのシーア派集団は、ついに手にした権力を維持することに関心を持っているが、シーア派の連立母体である統一イラク連合(注2)に分裂が起こりつつある。その過程で、シーア派の指導者は「過激派の人質」になりつつあるとの見方がバグダッドでは聞かれる。 ▼「スンニー・アラブは、逆説に直面している。彼らはイラクにおける米軍のプレゼンスに反対してきた。しかし、シーア派の民兵から彼らを守るため米軍を必要としている」 彼らは、シーア派の多数支配を拒否し、分権の連邦制イラク構想も拒絶し、スンニー自治区にも反発する。 ▼「クルドの政治指導者はわれわれに対して、民主的な連邦イラク国家が望ましいと語った。独立したクルド国家は敵対的な近隣諸国に取り囲まれることになるからである。しかし、クルド人の大多数は独立を望んでいる」 ISG調査団がクルド地域を訪問した際、クルド地域の指導者はイラクの国旗を降ろし、クルドの旗を掲げるよう住民に指示した、と報告書は記している。 ▼「イラク政府は行政サービスを行う際、宗派的理由で差別することもある」 シーア派が支配しているバグダッドのスンニー派住民地域では、一日の電気供給は2時間しかない。ゴミもうずたかく積もったままだ。米国の政府職員の一人は「バグダッドはシーア派独裁地域のように統治されている」と語ったという。スンニー・アラブは2005年の選挙をボイコットし、地方政府に代表がいないためである。 ▼「一日15万バレルから20万バレル──あるいは50万バレル──の石油が盗まれている」 イラクは日産220万バレルの石油を生産する。そのうち150万バレルを輸出する。イラクのGDPの70%、政府歳入の95%が石油収入である。 米軍占領前は250万バレルの生産体制を維持していたが、その後、治安悪化や投資不足のため低迷している。テロ集団はパイプラインや積み出し港をねらっている。その上に腐敗がはびこっている。米政府高官は「テロより腐敗のほうが石油体制崩壊に影響している」と指摘した。クルドやシーア派の指導者はそれぞれの支配地域の油田鉱区の開発権を外国石油資本に勝手に売り渡そうとしている。 ▼「地域のどの国もイラクが混沌とすることを望んではいない。しかし、どの国もイラクを助けようとはしない。むしろ、安定を弱めているところもある」 「われわれはイラク政府高官に、どの隣国がいちばん、内政介入をしているのかと質した。彼は答えた。『どの国もすべて』」 「スンニー派の政治指導者の一人は言った。『イラクの石をひっくり返してごらんなさい。どこからもイランが出てくるでしょう』」 「イラク政府が誕生したとき、イランは大使を置いた。しかし、サウジアラビアは一片の手紙も寄越さなかった。サウジアラビアをはじめ湾岸諸国は米軍のイラク軍事作戦を援助したが、これらの国々の個人はイラクのスンニー派抵抗勢力に金を流している」 「トルコは、何千人というトルコ人を殺したクルドのテロリスト集団、PKKに対して深刻な懸念を抱いている。トルコは米国とイラクがPKKの掃討を真剣に行っていないことに不満を強めている。トルコはイラク国境を超えてPKKを追跡し始めている」 ISG報告書の骨子
注1 シーア派の急進的指導者ムクタダ・サドル師が率いる民兵組織。熱狂的な支持者による過激な行動が多いといわれる。 注2 シーア派によるイラク国民議会の最大会派。昨年12月の選挙で128議席を獲得したが、過半数には至らなかった。 |
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