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2007年。新年おめでとうございます。 そのような言祝(ことほ)ぎを述べた後で、昨年のことを言うと鬼が泣く(?)かもしれないが、 去年(こぞ)今年貫く棒の如きもの と高浜虚子は詠んだ。年が改まったからといって世界が変わったわけではない。そこで、昨年末のニュースを取り上げたいと思う。 米週刊誌、タイムが2006年の年男・年女(Person of the Year)に、「あなた」を選んだ。 「あなた」 「そう、あなた」 「あなたが情報時代を支配しているのです。あなたの世界にようこそ」 タイムによれば、「世界の歴史は偉人の伝記にすぎない」と喝破したスコットランドの歴史家、トマス・カーライルが真っ青になったのが2006年だという。 ウィキペディア、ユーチューブ(注1)、マイスペース(注2)、フェースブック(注3)などの爆発を見よ。ブログいよいよ全盛時代である。市民の誰もが、取材し、発信し、編集することができるネットの、いわば宗教革命が起こっている。 タイムは「あなた」の代表たちを何人か、紹介している。 例えば、ウィキペディアのボランティア執筆者のサイモン・パルシファー。カナダ人、25歳。 ウィキペディアは、インターネット上の無料百科事典だ。世界中から無料奉仕のボランティアが新たな情報を付け加え、執筆し、編集する永久編集運動を繰り広げている。すでにエンサイクロペディア・ブリタニカを凌駕するほどの影響力を持ちつつある。 彼は、ウィキペディアの項目のうち2千から3千を執筆した。編集した項目は9万2千に上る。執筆ランキング1位である。現在、無職。 なぜ、これほど献身的にボランティアをするの?「ただただ、はまっている。やみつき」と彼は答えている。 次は、レイン・ハドソン。 11月の米中間選挙前、フロリダ州選出の共和党下院議員、マーク・フォーリーが議会の若い男性インターンをモノにしようとして出した求愛電子メールを自分のブログ「性の略奪者を止めろ」に添付した。ハドソンもゲイだが、10年ほど前、ワシントンのバーでフォーリーに卑猥に迫られた不快な経験がある。たちまちのうちにリンクがリンクを呼び、ワシントンは騒然となった。5日後、フォーリーは議員を辞職した。フォーリーのセックス・スキャンダルはイラクと並んで中間選挙での共和党の敗因となった。 「政治家は、最初からありのままの自分をさらけ出すことだ。カッコをつけてもどのみち虫眼鏡で子細に見られ、見破られるのだから」とハドソンは言う。 大衆は、ブログという虫眼鏡を手にしつつあるのだ。 リー・ケリーはイラクに派遣された米陸軍の兵士である。危険いっぱいの任地からその日の出来事をブログに書き込む。イラクから現地報告するケリーのような兵隊ブロガーが1200人近くいる。ケリーのブログはなかでも人気がある。ベトナム戦争がテレビ戦争だったとすれば、イラク戦争はブログ戦争である。 ティラ・テキーラは、マイスペースという名のSNS(注4)が生んだスターである。彼女の職業は、ラッパー、歌手、モデル、ブロガー、女優。 マイスペースには150万の彼女のファンが控えている。同じようにネットに出没する裸の女の子とどこが違うの? 彼女は答える。「あの子たちは、私と違ってけっして、あなたに口答えはしないでしょ」 ブログは大衆が「口答え」する拡声機なのである。 45歳になる韓国の主婦、キム・ヒウォンも取り上げられている。 彼女は、韓国のネット新聞、オーマイニューズの市民記者である。盧武鉉革命とともに出現し、3大紙(朝鮮日報、中央日報、東亜日報)に挑戦している。3年前から読むだけでなく、記事を書き始めた。記事はすでに60本も掲載された。 キムは言っている。 「韓国では、女性は誰々の奥さんとか誰チャンのお母さんでしかない。私は、オーマイニューズで自分の名前を発見した」 ブログは「専門家はいらない、使用者が専門家」といった新たなアンガージュマン(参画)運動である。ネットワーク効果から自己表現効果への進化である。 タイムの記事に、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、フランク・リッチがかみついた。リッチはかつてタイムで働いていた。 「タイムは、必死になって、自分たちは時代遅れではない、時代の先端を行っているんだということをひけらかそうとしている。みっともない。それに悲しい」 「タイムは、ライフがたどった道をたどるのではないかとの思いにとらわれる。1960年代末の文化革命の中で、ライフは自らの中道路線に自信をなくし、アイデンティティー危機に見舞われ、1972年、廃刊に追い込まれた。タイムがそうならないことを望む」 「もっとも、タイムは年男・年女についてそれほど間違った選択をしたわけではない。しかし、理由が間違っている」 そう述べた後、リッチは、ユーチューブの「ブリトニー・スピアーズ(注5)の浜辺のヌード」のクリックが104万1776回だったのに対して「イラク」は2万2783回だったと指摘する。 「それが悪いと言っているのではない。ただ、あなたも私も、ベッドルームで隠れてそれを見ているティーンエージャーの男の子も、情報時代を支配しているとはけっして言えないということなのだ」(同紙、12月24日付) ブロガーたちが、それぞれのたこつぼに入り込んで、青空を見上げ、世界に目を向ける関心とゆとりを失いつつあるのではないかと、リッチは憂えるのである。 メディアは、たこつぼ化、つまりはiTunes(注6)モデルにシフトしつつあるのかもしれない。 これは、買いたい曲1曲ごとに数ドルSを支払うビジネスモデルである。アルバムという言葉はいずれ死語になるかもしれない。 ネットとブログを手にした大衆は、情報時代を支配はしていないが、ブログの仲間同士のたこつぼではみなひとかどの存在になれると思っている。 ただ、当のブロガーは冷めている。 「あなたが年男です、と言われても、それって、オレのレジュメ(履歴書)に付け加えることのできるシロモノ?」 そんな皮肉がブログには載った。 タイムのような既存の支配的メディアと新興の現状破壊的ブログとの「対話」と「交流」は、なかなか難しいようである。 注1 米国の投稿動画サイト。芸能人の無断録画映像なども掲載され、著作権問題に発展。米検索サイト最大手のグーグルが約2千億円で買収すると発表。 注2 世界最大の米SNS(注4参照)。日本にも上陸した。 注3 米大手SNS。米検索サイト大手のヤフーが買収を検討中と報じられた。 注4 ソーシャル・ネットワーキング・サービス。会員同士でのみ日記を公開したり、情報交換したりできるのが特徴。 注5 米国人女性歌手。25歳。昨年11月に離婚後も、外出中の「ノーパン」姿を撮られ話題に。 注6 アップル社の音楽管理・再生ソフト。携帯用音楽再生機iPodやネット配信に対応。 |
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