Step ahead さらに輝く先へ

榮倉奈々


Nana Eikura 1988年、鹿児島県生まれ。雑誌「セブンティーン」の専属モデルとして活躍し、2004年、ドラマ『ジイジ~孫といた夏』で女優デビュー。09年に主演映画『余命1ヶ月の花嫁』(廣木隆一監督)で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。今年は映画『東京公園』(青山真治監督)に出演したほか、放送中の連続ドラマ『蜜の味~A Taste Of Honey~』(毎週木曜22時~、CX系)に主演。この先、映画『アントキノイノチ』(瀬々敬久監督、11月19日公開)、『のぼうの城』(犬童一心・樋口真嗣監督、2012年秋公開予定)が待機。また、最新写真集『NANA tremor』(集英社)が発売中。 http://www.ken-on.co.jp/eikura/

ミズカイケイコ=写真
森 鈴香(ジェイヌード)=インタビュー、文


榮倉奈々 インタビュー
風、音、光、温度。
感じていたい
ありのままに

いつまでも
笑って過ごせていられたらそれでいい。
それ以上に願うことも
こだわることもないかな。


あらゆることを想像して
挑みました


「本当は怠け者なんです。なにもしないのが、いちばん好き。ダメだなぁ……。これって、ゆとり世代だから!?」
 そんな冗談を言って、みんなを笑わせる榮倉奈々さん。いま日本を代表する映画監督たちからのラブコールが絶えない女優は、この屈託のない笑顔の裏で、つねに自分を厳しい場所に置いて闘いつづけている。
「撮影に入っているあいだは、すごくダークサイドに入るんです。その役のことだけしか見えなくなって、とにかく全身全霊をそこに捧げつづけることになる。毎回毎回こんなにも自分の身を削るお仕事って、いったいどういうことなんだろう……と思ったりすることもあります(笑)。私は全然器用じゃないから、与えられた役の人生に、いつも振り回されそうになるんですよね。どの役も、濃い人生を歩んでいますから」
 そして、最新作『アントキノイノチ』(瀬々敬久監督)で演じた主人公の女性もまた、濃い人生を歩んでいる女性。その女性、久保田ゆきはある出来事がきっかけで心に深い傷を負い、罪の意識にとらわれ自分を責めつづけて生きてきた。生きることに絶望していた彼女が、自分と同じように苦しみを抱えて生きる青年に出会い、ともに遺品整理の仕事を通じて失われた命が遺した営みの“しるし”を感じることで、みずからの生命にみずみずしさを取り戻していく姿が心を打つ。
「ゆきちゃんの置かれている境遇は、映画を観てくれる方々広く一般に、必ずしも共感されないところがあるかもしれません。そういう私自身も実際に彼女の本当の気持ちを理解できているかというと、正直、今でもよくわからない。でも、だからこそ、ありったけの想像力を使って、イメージしました。クランクインするまでに、ゆきちゃんの人生に起こりうる、あらゆることを想定する作業を重ねて。現場に入ってからは、ゆきちゃんとして、きちんと会話ができるようにということを意識していました」
 一つひとつのシーンで、どう話すか、どう動くかをイメージしていくのではなく、役の人物のベースの部分、生きていくなかで生じる心理的な状況を想像する。それは、どんな作品においても、撮影がはじまるまでにおこなっている作業なのだそう。
「台本に書かれていることについては、逆に想像しないようにしているんです。だから、クランクインの前に想像したことに関しては、現場に入っても、想定内のことも想定外のこともないんですよね。ただ、お芝居をしている最中は、見え方がどうだとか、こんなふうに演じなきゃとか、そういうことを考えている余裕はまったくないです。現場での一瞬一瞬を、ただ必死に過ごすしかないという感じだから……」


海外のお客さんに
ほめられた“瞳”


 そうして演じきったこの作品は、モントリオール世界映画祭コンペティション部門に出品され、イノベーションアワード(出品作品のなかでもっともインパクトを与え、革新的で質の高い作品に与えられる賞)を受賞した。映画祭では、海外の人々と一緒に自分が出演している作品を観るという体験をして、映画を愛するさまざまな国籍の人たちから感想を聞いたそう。
「目線のお芝居がとても多くて、そういうところが好きだとたくさんの方から言っていただきました。幅広い世代の方から同じ感想をいただいたので、言葉も文化もちがうし、笑いの沸点が日本とはずれていて『あれっ!?』と思うところはあったんですけれど、そういう琴線にふれる感情は人種を超えて共通するものなのかなと思いました。今回、瀬々監督の作品に参加することになって、監督の『ヘヴンズストーリー』を観たんですけれど、ドキュメンタリータッチで、台本がないんじゃないかって思うようなお芝居に圧倒されたんですよね。それは登場人物たちが本当に会話をしているから。人がいて、感情が生まれる、そういうあたりまえのことが、そこにはありました。だからこそ、私も演じるときに、現場にある空気や、相手の役の方がそこにいるからこそ存在しているものを感じ取っていかなきゃ、と。撮影中は、やっぱり緊張するから、思い描いたとおりにはなかなかできないけれど、空気や風や気温や相手の体温や、そういうものを自然に感じとっていきたいと思っていました」
『アントキノイノチ』では共演の岡田将生さんのつくる空気のなかに入りこもうとしていた、と榮倉さんは言う。
「いつも映画やドラマを観るとき、子役の子の演技にばかり目が行くんですよね。自由に笑ったりしゃべったりしているのが、すごくいいなと思って。岡田くんにも、そういう無邪気さを感じました。心の自由さ、柔軟さがあるんですよね。すごくまっすぐで。そんな岡田くんがつくりだす流れみたいなものに乗っかっていきたいなと思っていて、そこに気持ちをゆだねてみたら、自分に無理することなく自然に居ることができました」
 そして、もちろん、瀬々監督の現場づくりが、なにより自分を自分のままで居させてくれたという。
「瀬々監督は、スタッフも役者もみんなが応援したくなるし、みんなが一緒にがんばりたいと思わせてくれる方でした。監督自身が“一生懸命”以外の言葉がみつからないようなお人柄だったから、みんなが本当に一生懸命になれた。全員が全力の現場だったから、気持ちよかったです。監督がつくってくださった空気を、とてもありがたく思っていました。後から聞いたことなんですが、たとえばもし、私が彼氏にふられて落ち込んでる、というような状態にあったとしても、そのままその気分でお芝居してくださいっておっしゃるつもりだったようです。役者にもスタッフにもとても気をつかわれるし、一人ひとりのもつ空気を大切にしながら接する。『ヘヴンズストーリー』のなまなましいお芝居の理由は、監督のそういうところにあるんじゃないかって、わかったような気がしました」  瀬々監督に出会えたことは自分の人生にとってとても大きなことでした、と榮倉さんはかみしめるように、ゆっくりとつぶやいた。
「ひととの接し方、映画の作り方……。今回の撮影ですべてを見られたわけではないけれど、瀬々監督に出会えて、そのお仕事をされる姿を見て、あらためて、女優という仕事の楽しさはここかなと思いました。新しい作品と出合うたび、それぞれのプロが集う場所でたくさんの人と出会い、いろいろなやり方を体験する。そして、撮りおえたとき、その出会いに深く感謝するんです。とくに監督からは、毎回新しい課題をいただいているように感じています。そうして経験を重ねるほど自分のなかで感情の選択肢が増えて、悩みも増えるんだけど……(笑)」
 スクリーンで見る榮倉さんの笑顔は、類いまれなるしさを放ち、榮倉さんの流す涙の粒は、とても大きくて澄んでいるように見える。それは演じる役の心から生まれ出るどんな小さな感情の響きも、そして自身の胸の内にある世界の“音”も、落とすところなく聴くすべをもっているからなのかもしれない。