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小田嶋 隆の価格ボム!  2005年3月15日号

イラスト・佐藤竹右衛門

小田嶋隆 PROFILE
1956年、東京・赤羽生まれ。早大卒。「噂の真相」の連載コラムを集めた最新刊『かくかく私価時価――無資本主義商品論1997-2003』(ビー・エヌ・ピー新社)好評発売中。

第11回

40億円

病院にプリペイドカード式テレビを
レンタルしている業界団体が支払い拒否を
宣言したNHK受信料の総額(同団体調べ)

 ずいぶん昔、大阪の豊中というところに半年ほど住民票を置いていて、住民税を払わずに帰郷したことがあったのだが、さすがに日本の戸籍管理システムは優秀で、どこで調べたのか、3カ月ほどすると東京の住所にハガキが届いた。
 文面は、ほとんど恫喝だった。
 「住民税と遅延金シメて××円、○日までに振り込まんとえらいことになるでぇ。それともあんさん、おカミ相手に裁判やるちゅんか? 受けて立つでぇ」
 べらぼうめ、と思って放置した。
 と、さらに3カ月ほどして、
 「おんどれ、なめさらしてると差し押さえじゃ。○○日までに入金がなかったら、ガッチリ行かしてもらうよってな」
 という感じの、さらに恫喝的な督促状が来た。まさにナニワ金融道。小さなことからコツコツと。かなわんわぁ。
 交通違反の反則金は、もう少し紳士的だ。小まめに振込用紙を送りつけ、その度に延滞金の額を引き上げていく。余計な脅し文句は言わない代わり、2~3回シカトを決め込んでいると、額面は倍になっている。取り立て能力に自信があるからこそのこの余裕。見事だ。
 NHKは、最近やり方を変えたようだ。
 「すみません、あのーすみません」
 いきなり謝っている。
 「はい?」
 「NHKの○○です。あのーお休みのところまことに申し訳ありません」
 「はあ?」
 「えーとあのまことに恐縮なんですが受信料の集金にうかがいました」
 恐縮するぐらいなら来るなよ、と、まあ私もそこまで鬼ではない。多少間を持たせたりはするが、結局払ってしまう。
 「ありがとうございます。ありがとうございます。またよろしくお願いします」
 と、先方は土下座せんばかりだ。
 そこまでしてもらわなくても……と思いつつ、私の中には「払ってやった」「恵んでやった」という感触が残る。つまりアレだ。受信料というのは、税金や契約料とは違って、義務ではないし対価でもないのだな。大道芸人にやる投げ銭みたいなもので、芸が気に入らなければ払わないという選択肢もアリなわけだ。
 ……うん。逆効果ですよ。NHKさん。
 ただでさえ受信料不払いには明確な罰則規定がないんだから、視聴者に「もしかして、これ、払わなくてもオッケー?」と気づかれるような態度はまずい。昔みたいに、けんか腰で、あくまでも無愛想に、高圧的な態度で集金した方が良いと思います。でないと、みんな気づくよ。今まで義務だと思って流れで払っていた善男善女が、「待てよ」と考え始めた瞬間、おたくの事業プランは崩壊ですぜ。
 ……と思っていたら、実際に、思わぬ角度から不払いの宣言が出てきている。
 《病院にプリペイドカード式テレビをレンタルしている業界団体「テレビシステム運営協会」(名古屋市、36社加盟)は3日、常任幹事会を開き、当面の間、NHKの受信料を支払わないとする宣言を決めた。「患者が自宅で受信料を払っていれば、二重取りになる」と主張、受信料制度の改正を求めている。加盟社で約25万件の受信契約があるとしており、約7割のシェアを持つ主要5社が出席して凍結を決めたことで、受信料収入の低迷にさらに拍車がかかる可能性が出てきた》(朝日新聞2月4日付)
 なるほど。自宅で受信料を払っていて、なおかつ病院のテレビの受信料を負担するとなると、こりゃ二重払いだ。
 っていうか、そもそも受信料は、受像機にかかっているのか、視聴者個々人に請求されるのか、それさえわからない。基準が曖昧なのだな。1世帯にテレビが複数あっても料金は変わらないし、独り者でも8人家族でも同じ料金、テレビ漬けのニート君も定額だし、不倫課長は愛人宅の分まで負担している……不公平というより、デタラメだよね、これは。
 よろしい、この際、受信料不払いを国民的運動として展開し、赤貧化したNHKの出方を見て、その上で判断しよう。
 紅白は廃止。大河ドラマは原点に戻って無名キャストで出直し。NHK特集も「北千住を行く」とかに縮小。ニュースは各地方局制作のローカルネタのみ。
 うん。良いかもしれない。
 気に入ったらデジタルテレビのリモコンについている「投げ銭ボタン」をクリックしてあげよう。ダメ出し用には、エビマークのアイコンをダブルクリック。後ずさりはダメ、と(笑)。