ここから本文エリア

小田嶋 隆の価格ボム!  2005年4月15日号

イラスト・佐藤竹右衛門

小田嶋隆 PROFILE
1956年、東京・赤羽生まれ。早大卒。「噂の真相」の連載コラムを集めた最新刊『かくかく私価時価――無資本主義商品論1997-2003』(ビー・エヌ・ピー新社)好評発売中。

第13回

200万円

「かっとばせー、○○(選手名)」を繰り返すだけの歌詞を、
自分の著作物と詐称して登録した阪神タイガースの私設応援団員がせしめた不当利益

 阪神タイガースの私設応援団のひとつ(←「中虎連」と呼ばれる比較的新しい組織)が、選手応援用の歌を著作権登録して不当な利益をせしめていたのだそうだが、なるほど、昨今はああいうものでも、CD化されたり、携帯の着信メロディーとして有料配信されるケースが珍しくない。犯人たちはうまいところに目をつけたものだ。3月3日付の朝日新聞が伝えていたところによれば、中虎連が不正に得た著作権料は200万円にのぼるという。うん。みごと。
 とはいえ、応援歌は、ありゃ特定の誰かの「作品」なんだろうか?
 たまにでも野球を見る人は知っていると思うが、応援団の人々が歌ったり鳴らしたりしている応援用の歌は、一種の寄せ集めで、到底ひとまとまりのメロディーと呼べる代物ではない。今回問題になった「ヒッティング・マーチ」にしても、「80年ごろに当時の応援団が、米国映画の挿入曲や東京の私立大学の応援歌をもとに球場で歌い継ぐ中で作り上げた」(3月2日付朝日新聞)というふうに解説されるテのもので、つまりパクリです。
 いや、パクリがいけないと申し上げているのではない。観客席でファンが歌っている限りにおいては、パクリであれ剽窃であれノープロブレムだ。実際、どこの国のどのスポーツのチャント(応援歌)も、基本的には、様々な既存のメロディーの合成品であるのが通り相場だったりする。というよりも、歌の性質上、譜面を配って一から練習するようなものでない以上、不特定多数の観客があらかじめ「知っている」メロディーでないと困るのであって、チャントは、むしろパクリであるべきものなのだ。
 歌詞も然りだ。一見の客がその場で暗記するに足るシンプルさと陳腐さを備えていないと困る。
 ってことは、あんまりオリジナリティーがあってはいけないのだ。
 CDを発行していたコロムビアミュージックエンタテインメントに確認したところ、今回、中虎連によって著作権登録されていた応援歌の歌詞は、以下のごときものだ。
A.ヒッティング・マーチ1番(投手用)
「かっとばせ、○○(選手名)」を4回繰り返すだけ。
B.ヒッティング・マーチ2番(野手用)
「かっとばせ、○○(選手名)」を3回繰り返し、その後に選手名を2回繰り返すだけ。
 ……つまり、こういうことだ。
 200万円からの著作権収入を生み出していた応援歌の実態は、「早慶戦からほぼそのまんまパクってきたメロディーと、単なるかけ声レベルの歌詞」でできあがったものだった。
 で、こういうものが、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法第二条の著作物の定義)として、堂々、歌詞登録されていたのです。
 細かいところは、私にはわからない。
 でも、はっきりしているのは、少なくともJASRAC(日本音楽著作権協会)は、これをオリジナルの著作物であると認定したということだ。
 つまりアレか? JASRACとしては、自分のところに手数料が入ってくるのでさえあるなら、どんなメロディーであれ、歌詞であれ、そこに著作権があることを否定しない、と、そういう話なのか?
 JASRACの言い分では、「自分たちは審査機関ではない」ということらしいが、それにしたって物事には限度というものがあるんじゃないのか?
 やくざの世界の「みかじめ料」(←ショバ代、挨拶料、用心棒代。「おいおい、誰にことわってここで商売をしてるんや?」というアレ)だって、もう少しスジが通っていると思うぞ。
 本当かどうか、海外では
「うちの縄張りで勝手に日焼けしてもらっちゃ困る」
 と、海水浴客から日焼け料を徴収しようとした例があるらしい。
 うん。無茶な要求だよね。
 でも、この場合だって、マフィアは縄張り内の太陽の独占権を主張しているわけで、横車ではあるものの、それなりのスジは通っている。
「かっとばせ、井川」×4をオリジナルの歌詞と認定して、そういうものの著作権料を徴収することで手数料を稼ぎ出している団体よりはずっとカタギだと、あたしは思うな。