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小田嶋 隆の価格ボム!  2005年7月1日号

イラスト・佐藤竹右衛門

小田嶋隆 PROFILE
1956年、東京・赤羽生まれ。早大卒。「噂の真相」の連載コラムを集めた最新刊『かくかく私価時価――無資本主義商品論1997-2003』(ビー・エヌ・ピー新社)好評発売中。

第18回

1000億ドル

アメリカで無駄に捨てられる食料の
経済損失推定額

「アメリカで出回る食料のうち収穫から流通、食卓を通じて40~50%が無駄に捨てられ、経済損失は約1000億ドル(10兆7000億円)に及ぶ。アリゾナ大学応用人類学研究所のティモシー・ジョーンズ博士がこんな調査・推計結果を公表した」(朝日新聞5月15日付朝刊) うーん。半分がゴミですか……と、そう言っている一方で、全国民の半数以上がデブ《2000年のアメリカ国立衛生研究所(NIH)の発表によると、アメリカの人口の61%が過体重(BMIが25以上)で、27%が肥満(BMIが30以上)である》だったりするのだからして、つまりアレですね、あしき資本主義の行き着く先はハリボテの帝国だ、と、そういうふうなお話ですよね、キム将軍。
 こういうデータを見せられると、つい反米に傾く。
 っていうか、こんな数字が世界中の新聞に載っている事態は合衆国の安全保障上、はなはだマズいんではないのか? ペンタゴンは、きちんと仕事してるのか?
 調べてみると、世界人口の約4.9%が住んでいるアメリカ合衆国は、全世界の60%の富を独占し、25%のエネルギーを消費している。でもって、20%の二酸化炭素を排出し、50%以上の軍備(アメリカの軍事予算は約6000億ドル、全世界191カ国合計の軍事予算を上回っている)を独占している。
 これは、犯罪じゃないのか?
 でなくても、いつだったかサンディエゴ・シーワールドで見たセイウチ(←毎日アワビやウニを何十キロも食って、寝てばっかりいる)みたいな、無駄な生き物という感じがするぞ。
 高級スシネタ消費マシン。ちょっとうらやましいけど。
 別の見方をしてみよう。
 この1000億ドルをアメリカの総人口(2億9000万人)で割ると、1人アタマ年間で約344ドル分の食料を捨てている計算になる。
 で、この344ドルを日本円に換算してみると約3万6120円。さらに、これを365日で割ってみると、1日あたり98円だ。
 ……うん。たいしてびっくりする金額じゃないな。
 っていうか、98円が食費の半分なんだとすると、じゃあアメリカ人の1日あたりの食費は、1人アタマたったの196円なのか?……むしろそっちの計算結果にびっくりするぞ。だって、きょうび196円じゃチーズバーガーぐらいしか食えないぞ。
 ということは、アメリカでは一人前の男がチーズバーガー1つで、きちんとしたデブに育つことができる、つまりあそこの国の人たちは地球に優しい体質だ、ということなのか?
 落ち着け。
 ここで言っている1000億ドルは、「生産、流通、食卓」の各段階で生じたロスを、ひとからげに合計した金額だ。とすればそれを単純に割り算して、チーズバーガーの小売価格(←しかも日本の)に当てはめていいものではないのだ。たとえばの話、コロラドの牧場での牛1頭の値段を六本木のレストランのステーキの単価で割り算すると、われわれは3日に1頭の頻度で牛1頭をたいらげていることになってしまうが、もちろんそんな計算は間違っている。むしろ牛の舌1枚のために、平均的なサラリーマンが半月働かねばならないといったあたりが、本当のところだ。
 ちなみに、冒頭で引用した記事は、以下の一文で締めくくられている。
「農水省が1月に発表した04年食品ロス統計調査によると、日本国内の食堂とレストランで食事の3.3%が食べ残しになっている。家庭を含めると約11兆円分の食べ残しがあるとの政府試算もある」
 さらりと書いてあるが、おい、比べてみると、オレらの国の方が食べ残しの金額がデカいぞ。しかも、人口は半分にも満たないのに、だ。なぜだろう。
1. 日本の方が豊かなのだよ。
2. 単に食料品が割高なだけ。
3. むしろ、食品衛生狂だな。
 それより、アメリカを笑っていたこの原稿をどう締めくくったらいいんだ?
 ん? 残飯ミサイル? 北に、か? うん、ノーコメント。(笑)