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小田嶋 隆の価格ボム!  2005年8月15日号

イラスト・佐藤竹右衛門

小田嶋隆 PROFILE
ホームページ、ブログに掲載中の日記をまとめた単行本『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)が9月15日発売予定。http://takoashi.air-nifty.com/diary/

第22回

1000円以上1万円未満

未成年者と知りつつ酒を飲ませた
監督者に科せられる罰金(科料)

 「NEWS」が英語の「東西南北」(順序としては「北東西南」だけど)に由来するというお話は、根拠のない風説だった……という、この情報を、私は、「トリビアの泉」というテレビ番組(のいちコーナーである「ガセビアの沼」)で知ってびっくりしたのであるが、思い出してみれば、そもそも「東西南北を並べ替えるとNEWSになるぞ」というお話自体、ずいぶん昔にテレビを通じて得た知識なわけで、ってことは、おい、テレビというのは、ウソばっかりなのか?  うん。かなりの割合でウソを含んでいる。沼。メタンガスぶくぶく。しかもいいぐあいに濁ってやがる。
 NEWSも然りだ。こいつらも濁っている。
 結局、「NEWS」は、「新しい」を意味する「NEW」に由来する単語だということになるわけだが、当然のことながら、常に新しいわけではない。
 それどころか、むしろ、ニュースの享受者であるテレビ視聴者および新聞購読者は、耳慣れない新情報より耳タコな常套句を喜ぶ傾向にある。
 というわけで、NEWSの未成年メンバーが飲酒で補導された事件は、ニュースにならなかった。
 なぜだろう。
 ニュースバリューが低かったから?
 違うな。
 微罪とはいえ、巨大な社会的影響力を持つアイドルタレントが犯した脱法行為だ。報道価値がないはずはない。っていうか、芸能マスコミ的には、よだれダラダラの大事件だ。
 ではなぜテレビメディアはこの事件をスルーしたのだろうか?
 答えは、簡単。“お得意様”の不祥事だったからだ。つまり遠慮したのだよ。えへへ的に。
 もう少し具体的に言うと、事件の一方の当事者であるフジテレビにとって、当該タレントの所属プロダクションであるジャニーズ事務所は、神聖不可侵な相手だったわけだ。相互利権供与体制。ズブズブ。沼と蛭みたいな共生関係。ガセビアの夜。
 しかも、この事件の場合、未成年「メンバー」(←対ジャニーズタレント専用の容疑者呼称。犯人「様」みたいな一種の犯罪者敬称)を酒席に誘い出したのが、フジテレビの女性アナウンサーであった(←「違う。電話をかけてきたのはメンバーの方だ」という説もある)と言われている。
 とすると、未成年タレントの素行を管理監督する立場であるはずのテレビ局社員が、ほかならぬその未成年に対して酒食の供応をしていたわけだからして、これは非常にまずい。責任はむしろアナウンサーおよび局の側にあるという話になる。
 なるほど。
 ってことは、フジテレビが報道を自粛した理由は、「お得意様の不祥事だったから」ではなくて、「身内の不始末だったから」なんだろうか?
 いずれにしても不透明な話だ。沼。
 他局は報じたのだろうか?
 ははは。もちろんスルー。完全な黙秘黙殺モードです。ご意見番のアッコも、一言も触れず。スポーツ新聞紹介コーナーで、メンバーの記事が映った瞬間、ちょっと気まずそうな顔をしただけ。まったく。底なし。
 じゃあ、新聞は報じたのだろうか?
 うん、スポーツ新聞が小さい記事にした。でも、あくまでも火消し報道。「あらあらキクマちゃん、ジャニーさんにあやまらないとダメじゃない」的なニュアンスに終始。ある意味、黙殺したテレビ以上の御用報道。
 真相はどうなんだろう。
 わからない。
 結局、このニュース(っていうかニュースの不在)から伝わってくるのは、事件の真相ではない。
 NEWSがわれわれに教えてくれているのは、事件報道の枠組みが、情報を媒介とした弱い者イジメに堕してしまっているメディアの現状と、ニュースなんて広告プロモーションのおまけにすぎないという、現場の絶望。
 勉強になるなあ。 
「すべての若き野郎どもは、ニュースを運んでくる」(←All the young dudes carry the news.)と歌っていたのは、デビッド・ボウイだったが、違うぞ、デイビー、NEWSを運んでいるのは、カネだ。若さは、ジャニーさんの燃料。(笑)