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小田嶋 隆の価格ボム!  2005年8月15日号

イラスト・佐藤竹右衛門

小田嶋隆 PROFILE
ホームページ、ブログに掲載中の日記をまとめた単行本『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)が好評発売中。http://takoashi.air-nifty.com/diary/

第24回

1680円(税込)

『イン・ヒズ・オウン・サイト』

 最初に告知です。オダジマのブログ(および旧ホームページ)が本になります……いや、すでになってます。発売は9月15日。もしかしたら、もう書店から消えているかも。その場合、本屋さんを脅迫してください。
 発売1カ月後の新刊本の場合、著しく売れていれば、当然、店頭に並んでいる。巨大な追加発注に対しては、出版社ならびに取り次ぎの対応が俊敏になるからだ。
 他方、著しく売れていない書籍もまた、「最初の入荷分がハケていない」という意味で、書棚に残っている。
 が、半端に売れた(あるいは半端に売れていない)本は、初回配本分がハケるとそれっきりだったりする。
 うん。ひどいよな。
 一般に、書店員は発売初日に売り切れるとか、しつこい客が脅迫的に注文しない限り、在庫切れ書籍の追加注文はしない。というのも、「きょうび新刊本は、発売1カ月を経たら賞味期限切れ」(A氏談)だからだ。って、おい、8年もかけて書いた本がナマモノ扱いかよ。
 しかしまあ、こんなことでいきり立っても仕方がない。元来が無料のウェブ日記がまがりなりにも値段付きの書籍に化けただけでも万々歳……と、それぐらいに考えるのが、21世紀の常識で、武士は食わねど高楊枝というのか、ブスは食わねど高脂肪というのか……いずれにしても、鷹揚に構えておくのが吉なのだな。
 じっさい、ウェブコンテンツにおける最大の美点は「無料」というところにある。逆に言えば、どんなに素晴らしい作品でも、有料である時点で、21世紀の表現としては失格なわけだ。著作権だとかキャラクター使用権だとかいった、ネット以前の寡占マスコミがナワバリ争いをしていた時代の換金システムは、おしまいだよ、と。
 じゃあ、制作者はどうやって作品からのアガリを手にするのかって?
 うむ。難しい問題だ。なんとなれば、インターネットの基本姿勢は「オープン」「無制限」「匿名」というところにあって、一方、著作権(およびその周辺の諸事情)は「クローズド」で「制限付き」の「非匿名」な空間でしか生存不能な概念だからだ。
 ブログを書籍化するというのも、ひとつの方法ではあるが、あくまでも横道にすぎない。かといって、いきなりレジに手を突っ込むみたいな方法は、長続きしない。結局、換金方法については、この先誰かが素敵な発明をするまで、待つしかないのだろう。
 ところで、「のまネコ」をご存じだろうか? no money? 違うな。むしろこいつはbig moneyの関係者だ。 「のまネコ」は、エイベックスから発売されているヒット曲「恋のマイアヒ」の宣伝ムービーに登場するキャラクターだ。で、これが、われらが「モナー」にそっくりなわけだ。
 盗作? 剽窃? パクリ?
 いや、そう言い切るのは……。
 じゃあ、パロディーとかカバーバージョンとかトリビュートとか?
 違うな。ちなみに言えばリスペクトでもオマージュでもフィーチャーでもサンプリングでもない。
 それに、なにより、エイベックスは「のまネコ」を商標登録(←商標登録はZENという有限会社。ZENとエイベックスが商品化契約)している。
 ってことはオリジナル?
 わからない。参考までに以下、ZENのホームページに掲載された「のまネコ著作権について」をコピペ(笑)しておく。熟読してほしい。
―「のまネコ」は、「のまネコ」の著作を管理する有限会社ゼンとエイベックスネットワーク株式会社が商品化契約を締結しております。
「のまネコ」は、インターネット掲示板において親しまれてきた「モナー」等のアスキーアートにインスパイヤされて映像化され、当社とエイベックスネットワーク株式会社が今回の商品化にあたって新たなオリジナリティを加えてキャラクター化したものですが、皆様において「モナー」等の既存のアスキーアート・キャラクターを使用されることを何ら制限するものではございません。何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします。―
 ははは。インスパイヤだってさ。
 ま、事態を注視しよう。著作権、およびモナーの将来が見えるかもしれない。オレの将来も。(笑)