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小田嶋 隆の価格ボム!  2005年12月1日号

イラスト・佐藤竹右衛門

小田嶋隆 PROFILE
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第27回

約25円

第3のビール(350ml)の税額

 最初に新聞記事の要約。
《政府税調は、昨年の議論で積み残しとなった酒税の改革案も取り上げる見通しだ。「税率格差を埋める」との理由でビールを減税する一方、第3のビールを増税する財務省案がたたき台となるが、「大衆課税」との批判は必至。》(朝日新聞 10月26日付)
 酒税、とりわけビール類(←こんな名称が存在していること自体、ビール党にとっては恥辱なわけだが)に関する税金は、この20年間、一本調子で上昇してきた。そのくせ名目上は、決して「値上げ」とは呼ばれず、いつもグラスの底をひっかくようなささいな値下げとの抱き合わせで「見直し」と呼ばれてきた。欺瞞。「公平性」「公共性」と、お題目を唱えつつ、結局、お国が問題にしていたのは、いつもカネだったわけだ。
 その、酒税の網の目をくぐるべく、業界は、戦ってきた。
 で、「ビール」の定義の裏をかいて、麦芽以外の原料も使用できる「発泡酒」という手品みたいな酒を開発した。そう、業界にとっては、品質や味もさることながら、正直、カネが生命線だった。
 と、酒飲みは、これに走った。コクだのキレだの能書きを垂れてはいても、その実、彼らが一番重要視したのは、カネだった、と。うん。悲しいよな。
 で、ビールが衰退し、発泡酒の販売額が伸びると、お国は、今度は、発泡酒の税率を「見直し」た。
 と、業界は、「第3のビール」と呼ばれる、麦芽をまったく含まない魔法みたいな醸造酒(←って、これ、牛肉0%のハンバーガーみたいなものでしょうか?)を開発した。
 私は、この酒ができた時、「ビール業界の最後っ屁」と名付けて一人笑ったものだ。だって、麦芽もないくせにぶくぶく泡が出てるわけなんだから、これはもう、屁以外のナニモノでもないでしょうが。
 で、意地汚い酒飲みは、今度は、発泡酒を見捨てて、この「第3のビール」に走った。カネ、カネ、カネ……酒飲みは、誰もが守銭奴になる。というのも、酩酊のもたらす主たる作用は、ポケットの中のカネをすべてアルコールに変換することだからだ。
 さらに、酒は、カネのない人間から理性を奪い、何もない人間からは生命を奪う。うん。ムゴい。
 で、このたび、税調は、その「第3のビール」の税率を「見直す」案を出してきているわけだ。
 いたちごっこ。
 そして、最後っ屁への徴税。
 酒飲みのイタチ野郎たちはどうすればいいのだろう?
 まず、税負担に押されて飲酒量を減らしたり、飲む酒のグレードを落としたりするのは、典型的な負け犬反応なのでパス。
 といって、いままでどおりに酒を飲んで、経済的に逼迫するのは愚の骨頂。さらにやけになって酒を飲んで体を壊したりするのは、問題外だ。
 というわけで、税調に勝つ方法は、完全な禁酒しかない。ちなみに私は、ライターになって以来、さまざまな雑誌上で酒税値上げ反対の一人キャンペーンを展開してきたのだが、そうこうするうちに、10年前に「アルコール依存症」の診断を得た。で、以来断酒して、ついでに値上げ反対運動からも撤退した。
 うん。負けるが勝ち。(笑)
 本当は、禁酒法を制定してアルコールを禁止薬物に指定するのが一番いいのだが、そうはならない。
 お国は税金が欲しいし、業界は売り上げが欲しいし、酒飲みは酒が欲しいからだ。それに、禁酒法が施行されたところで、どうせヤクザが非合法の酒でもうけるだけの話だからだ。
 そう、ヤクザは、国でもないくせに国家権力と同じことをする。まあ、ある意味私的な国家なわけだ。
 麻薬の販売、ナワバリ料の徴収、暴力による支配、賭博の主催、管理売春……と、これらは、お国がやれば、全部オッケー。というよりも、これらはいずれも、お国の主要な仕事といってもいいものだ。
 ん? とすると、ヤクザが私的な国家であると考えるよりは、お国が、公営のヤクザだと考えた方がわかりやすいということなのだろうか。
 ううむ。とにかく、酒はやばい。
 売人のセリフなんか信じるなよ。