船橋洋一の世界ブリーフィング

船橋洋一顔写真

No.814 [ 週刊朝日2006年12月8日号 ]

アル・ジャジーラ・イングリッシュ発足。
4強となる英語グローバル・メディア

 アラブ世界のCNNの異名を持つアル・ジャジーラ(本社、カタール・ドーハ)がこのほど世界に向けて英語のニュース報道(Al Jazeera English)を開始した。

 放映はドーハに始まり、ロンドン、ワシントン、クアラルンプールとバトンタッチ。この四つの中継基地をつないで24時間、ぶっ続けの英語ニュースをテレビで流す。

 報道を開始した日(11月15日)の最初のトップニュースは、ガザ、ダルフール(注1)、イラン、ジンバブエだった。

 次のような図表も映し出された。

 英国 400

 イスラエル 150

 北朝鮮 1?

 イラン 0?

 米国 10250

 それぞれが持っていると見られる核兵器の数である。

 核拡散問題も、米国の反核拡散・反テロアジェンダだけでなく、世界の核軍縮はどうするのか、核保有国の責任はどうなのか、にも光を当てようとしている。

 私はこの秋、アル・ジャジーラ・インターナショナルが主催したアル・ジャジーラ・イングリッシュ放映開始に向けての内輪のセミナーに招かれた。

 アル・ジャジーラ・イングリッシュには、かつてBBCで働いたことのあるプロのジャーナリストが多い。エジプト、スーダン、パレスチナ、カタールと、国籍はさまざまである。それに英国人も加わっている。その席で、アル・ジャジーラ・インターナショナルの幹部は次のような点を強調した。

▼アル・ジャジーラ・イングリッシュは、BBCやCNNと張り合うために始めるのではない。

 アラブをはじめ開発途上国の人々の視点からニュースを発掘し、世界に伝えることを目指す。

 視聴者もムスリム社会を中心にした開発途上国の人々を想定している。アラブだけでなく世界のムスリムを視界に入れている。当面の目標は4千万世帯である。

 なかでも、マレーシア、インドネシア、パキスタン、インド、バングラデシュ、トルコにまたがる広大なムスリム地域は将来、有望市場になりうる。この地域一帯には英語人口が7億もある。

▼一部には欧米の著名なジャーナリスト、キャスター、アンカーを起用するが、ほとんどはそれぞれの土地の出身者を記者として使う。

 アル・ジャジーラ・イングリッシュ総編集長のナイジェル・パーソンズ氏は「ローカルのニーズにはローカルの視点を入れて、報道する。アジアではアジアの記者を、アフリカではアフリカの記者をなるべく配する」と言う。

▼戦争報道と戦場報道は「現場からのあるがままの報道」を心がける。

 もちろん、死体の撮影や放映には報道の品位を保つよう気をつけるが、「米国のCNNやフォックス・ニューズなどのように戦争や戦場を美化し、清浄化することはしない」とパーソンズ氏は明快だ。

 アル・ジャジーラに対しては、米国やイスラエルからは厳しい批判が絶えない。

 オサマ・ビン・ラディンのテープを放映したのはテロリストの片棒を担ぐようなものだ、まともなジャーナリズムではない、という声が強い。

 アル・ジャジーラ・イングリッシュは、米国では放映できない。どのケーブルテレビ局もそれを放映したがらないからである。

「あれってテロリストのテレビでしょう。キャスターのデスクの後ろに、ビン・ラディンが座っているのじゃないの」

 これはジャクソン・ミシシッピのある新聞に載った投書である。

 コラムニストのシナモン・スティルウェルは、「アル・ジャジーラ・インターナショナルは敵のメディアだ。そんなのがつくる番組を米国で放映させるのは米国を危険に陥れることになる」と攻撃している。

 もっとも、米国民の中にもCNNとフォックス・ニューズの24時間ニュースにはいい加減うんざりという層も多い。CNNも湾岸戦争報道やボスニア報道のころの切れ味はなくなった。

 9・11テロ後、米国のジャーナリズムは活字、映像を問わず、とりわけ国際報道が紋切り型になったように感じるが、その前にもCNNのO・J・シンプソン裁判報道などあまりに愚劣で、すっかり嫌気がさしてしまったことを思い出す。

 英米メディアの向こう側や背後からの異なった視点を伝えることは、世界のニュースとメディアの多様化を促す上で重要なことである。アル・ジャジーラ・イングリッシュの挑戦はその点で、歓迎したい。

 これによって世界の24時間英語ニュース・テレビチャンネルは、CNN(米国)、BBC(英国)、アル・ジャジーラ・イングリッシュの三つどもえの戦いとなった。

 これに加えて、香港を拠点とする中国語放送のフェニックス・テレビも来年、24時間英語放送を始めることを計画している。それが実現すれば、世界は米、英、アラブ、中国の四つの英語グローバル・メディアがせめぎ合う時代へと突入する。

 不思議でならないのは、この渦の中にインドが入っていないことである。

 あれほどの民主主義国であり、英語大国なのに、これはどうしたことか。

 アル・ジャジーラ・イングリッシュに関する英ガーディアン・オンラインの投稿欄をのぞいていたら、こんな声が載っていた。

「インド大陸は、英国に支配されるまで700年間、ペルシャの影響を受けてきた。ペルシャ語は宮廷の言葉だった。それがインドもパキスタンもいまではイランに関する報道はほとんどすべて英米のメディアに頼っている。情けないことだ」

 筆者は、イラン系かインド系の英国人なのだろうか。

 インドの新聞もテレビも規模は小さく、特派員網もか細い。ただ、ここでも20年もたてば、インド発の英語グローバル・メディアが生まれるかもしれない。

 中国、インドが続くかどうかは、アル・ジャジーラ・イングリッシュが成功するかどうかによるだろう。

 アル・ジャジーラの強みは、世界中でその名前が知られていることである。アップル、Google、イケア(注2)、スターバックスに次いで世界でもっともよく知られたブランドの第5位である。

 ただ、ニュース・ビジネスはブランドだけではやっていけない。

 ニュースが速いかどうか、正確かどうか、公正かどうか、信頼に足るかどうか。で決まってくる。それに不合格なら、ブランド力はあっという間に崩壊する。

 アル・ジャジーラ本社ビルの壁に、マハトマ・ガンディーの言葉が彫ってあった

「最初、彼らは無視する。そして、嘲り笑う。それから、闘いを挑んでくる。そうしてわれわれは勝つのだ」

 ところで、日本発の英語グローバル・メディアは考えなくていいのだろうか。世界を見て、知る仕事は、英米、アラブ、中国、インドに任せておけばいいということなのか。


注1 スーダン西部の紛争地帯。アラブ系民兵と非アラブ系住民が衝突、死者多数を出している。

注2 スウェーデンの大型家具店。欧州、米国などで格安の組み立て式家具を販売、日本にも今年、再進出を果たした。