船橋洋一の世界ブリーフィング

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No.822 [ 週刊朝日2007年2月9日号 ]

ロシアのエネルギー強権外交には
日米中、日中韓の消費者協力で対抗を

 今年のダボス会議(世界経済フォーラム)は、世界のエネルギー不安が大きなテーマとなった。

 なかでも、ロシアと中国のそれぞれの石油・ガス外交に焦点が当たった。

 ダボス会議開催の前の週、ロシアの独占ガス企業、ガスプロムのアレクサンドル・メドベージェフ副会長、ヴィクトル・フリステンコ産業エネルギー相がアルジェリアを訪問した。

 インタファクスによれば、ロシア側は、ガスプロムとソナトラック(アルジェリアのガス公社)が欧州市場においてガスの共同販売体制を敷くことを提案した。その際、ロシア側は、ロシアとアルジェリアをはじめとするガス輸出国機構(GPEC)の形成への意欲を伝えたという。

 ロシアとアルジェリアはそれぞれ欧州のガス需要の25%、10%を満たしている。この両国がカルテルを結べば、価格を相当程度、支配できる。

 こうした動きに対して、EU(欧州連合)のアンドリス・ペバルグズ・エネルギー委員は、「われわれが求めているのは公正な価格である。それも商業的利益だけでなく、透明性が確保できるかどうかに注目している」と述べ、懸念を表明している(インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙、1月25日付)。

 ロシアは、旧ソ連圏の国々が、エネルギー面でロシアのくびきから離れることを警戒している。

 アゼルバイジャンのカスピ海の石油をグルジア経由でトルコの地中海沿岸まで運ぶパイプライン建設に対しては、ロシアは裏でさまざまに妨害した。

 プーチン政権2期目からは、ガスプロムがガス供給を外交の武器とした強面の姿勢を際だたせている。ウクライナやベラルーシに価格の大幅引き上げを要求し、のまないと供給を停止する強硬策に打って出る。

 ダボス会議では、「石油政治の新時代」パネルの司会役を務めたトマス・フリードマンが、パネリストの一人として出席したメドベージェフに「みんなガスプロムを怖がっています。ガスプロムのどこがいけないんですか」とズバリ質問した。

 ところが、聴衆からは「ガスプロムは上場企業。外国の株主も多い。ガスプロムが旧ソ連圏の国々に対し、補助金に支えられた政治価格から自由な市場価格に切り替えたこと、さらにはガス価格の上昇そのものも、株主にとってはプラス」とガスプロムへのヨイショ発言が出た。

 ロシアは石油・ガスの価格高騰によって、再び世界で恐れられる大国にのし上がった。しかし、ロシアが注意しなければならないのは、他の多くの産油国同様、「石油の呪い」である。なまじ石油があるために、権力は腐敗し、貧富の差は拡大し、対外冒険主義に傾斜するおそれがある。

 ダボス会議開催の翌週、胡錦濤中国国家主席がスーダン、南アフリカ、モザンビーク、ザンビア、カメルーンなどへのアフリカ訪問に向かう。

 中国は石油輸入の3分の1をアフリカに依存している。中国の最大の輸入国はアンゴラである。スーダン、ナイジェリアからも多い。アフリカに進出する中国の企業は800社、この大陸で働く中国人は7万8千人もいる。この中には、スーダンの石油利権の保安、治安を担当する4千人の軍服を着用しない武装部隊も含まれている。

 中国は高成長を維持するため大量の石油・ガスをがぶ飲みし続けなければならない。現在、560万bd(注1)の石油の需要は2030年には1500万bdに増加する。この間、ガスの需要は1・2兆立方フィートから7兆立方フィートに増加する。

 このため、中国はスーダン、アンゴラ、イラン、ベネズエラ、ミャンマーのような米国が嫌う“ならず者”や“準ならず者”の国々に投資し、石油・ガス開発を進めてきた。スーダンは90年代半ばまでは石油の純輸入国だった。アフリカ有数の石油輸出国になったのは中国の開発のおかげである。

 こうしたことから、米国などには口では「平和的台頭」を唱えるものの、中国は実際は世界の平和と安定を攪乱しているとの不満が出ている。スーダン政府のダルフール虐殺(注2)に見て見ぬふりをし、国連安保理の常任理事国として同国への制裁案を抑え、同政権をかばう中国のやり方への批判が高まっている。

 産油国と消費国と立場が違うが、ロシアと中国が同時に、世界の石油地政学の台風の目となってきたのが、今回の石油国際政治の特徴である。

 ただ、日本では1980年代以降、石油・ガスはカネで買えばよいという市場解決論が主流となった。円高による交易条件の向上で石油価格上昇を吸収できたこともある。その中で、石油・ガス資源外交は時代遅れのように言われるようになった。

 しかし、今後、二、三十年を見渡すと、石油・ガスの供給は、市場解決だけでは不十分である。

▲中ロとももともと資源ナショナリズムが強く、また政治体制もあり、資源関連の貿易・投資が政治化しやすい。

▲中ロとも日本とは地政学的、歴史的に対立、緊張関係に立ちやすい。

 日本は石油・ガス資源外交を改めて作り直す必要がある。

 その際、中国が、エネルギー戦略面でユーラシア戦略を取るのか、それとも海洋戦略に向かうのかを凝視することだ。

 もし、中国がロシアやカザフスタンなどとの間でパイプラインを張り巡らしてエネルギー特殊関係を築くようだと、エネルギーを巡るユーラシアブロックの中ロと、海洋ブロックの日米の緊張は高まることになるだろう。

 そうではなく、中国がインド洋、マラッカ海峡、東シナ海、さらには日本海も含む海上の道で主に石油・ガスを輸入する体制に向かうのであれば、中国とともに海洋消費国連合を形成する可能性も開けてくる。

 その場合でも海、とくに東シナ海をめぐる日中、米中の緊張はありうるが、同時に、同じステークホルダー(共通利害者)として協調することもできる。

 ダボス会議の「日中韓」パネルでは、中国の外交官OBが「日中韓の北東アジアは、中東産油国から1バレル1ドルのアジア・プレミアムを課されている。日中韓はいがみ合わずにお互い石油消費国として協力するべきだ」と発言した。

 結論を言えば、日本の石油・ガス資源外交は、以下のような点を眼目とするべきである。

▼中国を海洋戦略志向に向かわせ、同じ消費国としての協調路線を確立する。そのため、中国を先進工業国石油消費国クラブであるIEA(国際エネルギー機関)に加盟するよう一肌脱ぐ。

▼日米中や日米アジア、さらには日中韓の石油・ガス消費者連合を形成する。それによって、ロシアの資源ナショナリズムを抑制し、交渉力を強める。

▼インドとも第三国(例えば、ロシア、イラン、アフリカなど)での石油・ガスの炭鉱・開発協力を進める。また、インド洋などでの航海の自由や対テロ面で協力する。


注1 1日あたりバレル。1バレルは約159リットル。

注2 スーダン西部ダルフール地方で03年、アラブ系中心の政府を不満とする黒人住民が蜂起。アラブ系民兵による攻撃などで20万人以上が死亡した模様。