2007年には母を、秋には叔母をみおくった著者は、新聞の訃報欄がとても身近になり、そんなに遠くない日に自分の番がやってくるのだと思う。老眼鏡探し、池波正太郎のエッセイにふれての「やわらかな縁」、友人との会話での「あれ、の多用」、絵本「ルピナスさん」に泣けてしまう日、カレーづくり、なにより大好きな園芸……。人生後半に大切にしたい、かけがえのないその日その日を大事に生きる姿が好感をよぶ。
「小春日和の午後だった」という一編では、子どものころに母に教わった花の名を、認知症になった母に教えようとすると、母は並べた球根をつかんで食べようとするという話――娘と母の濃密な生活が目に浮かぶ。老いをむかえてこそ味わえる人間関係、食事、本や歌についてのちょっとセンチメントな随筆集。
《解説・長谷川義史》