書籍
文学
私の盲端
朝比奈 秋 著
ISBN:9784022518071
定価:1760円(税込)
発売日:2022年2月7日
四六判上製  224ページ 

現役医師の著者によるデビュー作。大学生になった涼子は飲食店のアルバイトや学校生活を謳歌していたがある日、不幸が襲う。不自由な生活を強いられる中で、その意識と身体の変容を執拗に描く表題作に加え、第7回林芙美子文学賞受賞作「塩の道」も併録。

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書店員の方々から感想を頂きました!


ジュンク堂書店名古屋店 二村有香さん

最初の数行を読んでから、ずっと鳥肌が立ちっぱなしでした。見たくないのに目を逸らせなくて、気がついたらすべて読み終わっている…。まさに衝撃作だ、と思います。すごかったです。語彙が足りません。本当にすごかった。

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紀伊國屋書店浦和パルコ店 竹田さん

不謹慎と言われようが、私は人が本来持つ不思議な生態と、その有り様が失われてゆくことにこそ、文学の描き得る可能性を感じていたー
臓器の一部が欠損する。それによって日々の営みが困難になることが、どれほどの苦痛と不安を孕んでいるのか、その現実を決して軽んじてはならない。ただ、その隔たりは、知ること、想像することによって、渓谷のような断崖なのか、雨上がりの水溜まり程度なのか、見るものの景色を大きく変える。人と人を分かつのは多くの場合、わからないという一点に他ならない。
もしこの作品がもっと医学的な事実の羅列であったなら、私は躊躇し、逡巡した挙句、頁を閉じたのかもしれない。それでもそうはならず、どこか分かち難い引力で、私を涼子に歩み寄らせたものの正体は、おそらく文学の可能性なのだと確信する。肛門を失い、腹から排泄する。それがもう永久に続く苦痛だとしても、私にも人として欠損している何かがあり、文学という喪失の地平線において、それは等価で並んでいる。
同じオストメイト同士のチャットに参加しても、居心地の悪さを拭えず、だからといってバイト先や大学が本来の居場所とも思えない。継ぎ接ぎだらけの景色と排泄。華子への思いとどこにも繋がらない腸。それらはリンクするように物語を運び、決して感情の起伏が大きいとは言えない涼子の内面を鮮明に描き出していく。
一方でオストメイトであることを受容し、涼子に積極的に干渉する京平。涼子と京平の特別な形での体温の交換、或いはラストに見られるひとつの邂逅をどのように読み解くべきなのか、未だ明確な答えを見つけられずにいるものの、文学が描き得る希望の臨界が拡がっていたのではないかと夢想してしまうのだ。

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ブックジャーナリスト 内田剛さん

朝比奈秋さんのデビュー作に完璧に打ちのめされました。
この著者にしか辿りつかない領域ですね・・・
冒頭から身体丸ごとグイッと持っていかれて、
身にまとうものすべてを剥ぎ取った切実さだけでなく、
いのちの息吹やむき出しの生命力が伝わってきますね。
人体の不思議や生物としての人間まで見えてきて、
常識がガラガラと音を立てて崩壊した思いです。
良さを伝えにくい手強い作品ですが直視して欲しい!
説明するよりもこの作品を体感してもらいたいです。

なんと生々しい物語なのだろう。
全般から曝け出されるのは内臓だけではない、
いのちの鼓動と生かされている人間の真実!
手触りや匂いなど五感の描写も容赦なく突き刺さり、
禁断の領域を突破する唯一無二の物語体験ができる一冊だ。
理性を吹き飛ばし感性を揺さぶるとんでもない才能が現れた。
恐るべし、朝比奈秋・・・・タダ者ではない。

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三洋堂書店新開橋店 山口智子さん

「食べる」事を描いた小説は数多く存在するが「出す」事について書かれた小説は初めて読みました。
人工肛門という言葉は知っていたものの、どういうものかも全く知らなかった。大学生活を謳歌していた女子大生が突然の病でオストメイトになる。緊急手術後目覚めたらお腹に人工肛門が付いていているという衝撃。体の変化や日常生活、飲食店でのバイトでの苦労が繊細に生々しく描かれる。心の揺れが迫りストーマだけに限らず障害に対しての理解がぐっと深まった。よく行くスーパーの身障者用トイレにちゃんと「オストメイトの方もご使用いただけます」と書いてある事に気付き、この本を読んで視界が少し開けたような気がした。器官の場所が変わるだけで、食べて出すというシンプルな生の営みだけでなく人との関わりも見え方ががらりと変わる。でも結局同じ事だと気づいた涼子のたくましさが嬉しかった。

近くにいるかもしれない、そして明日の自分かもしれない「目に見えない障害者」を想像する力をもらえる絶対読んだ方がいい小説です!

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精文館書店中島新町店 久田かおりさん

「内臓器官で一方の端が閉じている管(盲管)において、その閉じた端のこと」 盲端、というその言葉を初めて目にし、すぐに調べてみました。自然な状態においてそれは「盲腸」にのみ見られるらしい。主人公にとって「盲端」とは…
就活中の大学生涼子。飲食店でバイト中に倒れ気付いたときには人工肛門の身体になっていた、って、それは信じられないほどの衝撃だったのではないか。食べてものを今まで当たり前のように肛門から排出していたのが、今後はおへその横に作った人工肛門からストーマパウチのなかに出すことになるのだ。しかも便意はない。いつ出るかわからないのだ。若い女性にとってこれは耐え難いことだろう。口と腸が一直線で繋がっていること。口から洩れる便臭。授業中でも食事中でもバイト中でも、勝手に出てくるのだ。そしてその出た後の処置もまた大変だし処置のできるトイレはどこにでもあるわけじゃない。
オストメイト対応の多目的トイレというのは人工肛門の人たちにとって必要不可欠な場所なのだ。
ネット上匿名で繋がるオストメイトたち。悩みを吐き出したり情報を交換したり。でも涼子はリアルで繋がろうとはしない。そこに一本の線がある。踏み込ませない、踏み込まない一本の線。手術で直腸をつなぎ再び肛門から排便できるようになれば彼らはそのグループから抜けていく。あくまでリアルオストメイトたちだけの場。
その線を超えて近づいてきた一人の男。排便を完全にコントロールしストーマパウチをつけていない彼との出会いで涼子は一つの線を超えていく。
この先の人生を障がい者として生きていくこと。一生ストーマパウチを身体にぶら下げて暮らすこと。それを受け入れること。
社会は健常者と障がい者に分けられている。健康であることと病気を持っていること。高さや大きさはいろいろあるけれど、その間にある壁。知らないということがその壁を厚く高くしていく。
いつ自分が壁の向こう側の人になるか誰もわからない。その時が来る前に一つでも知らないことを減らしておこう。多目的トイレにある白抜き十字のある黒い人型マークも覚えておこう。
ここまで書いてきて思い出した。健常か障がい者か、だけではない。学歴や職種、そのほかにもたくさんの壁が私たちの中にある。知らずに積み上げた壁。そのことを読み終わって痛感しました。

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ジュンク堂書店西宮店 水口真佐美さん

生きているだけで幸せ~という考えもあるけれど、何不自由なくすごしていたのに急に、不自由になる…その現実と自分の思い、社会での生活…社会での目
その人にしかわからない気持ちがある。と気づかされた。

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ジュンク堂書店滋賀草津店 山中真理さん

当然なので忘れていて何ら疑いもしなかった欲。不自由な生活(病気による)で欲を感じられない切実な喪失は、その文章、描写から叫びのように繰り返しはなたれ、心の中をつきさした。自分の身体の負目を隠そうとする気持ちとつき合っていこうという気持ちが葛藤する。自分の身体は汚い、恥ずかしいから、温かさへ導かれていく心の移ろいを感じ、人間として救われた。人間ならすべての人が共感してほしい大作だと思った。

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文真堂書店ビバモール本庄店 山本智子さん

「生きる」という事の力強さから目が離せない作品!!
食べたら出る。当たり前の行為が当たり前でなくなった時、どういう心境になるのか想像は難しい。
それでも、生きるという事と切っても切れないその行為が尊くも感じる。

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未来屋書店大日店 石坂華月さん

ある日突然、人工肛門をつけての身体と付き合う!?あの若さという時代に。悲観に暮れるよりも、日常の戸惑いに重きが置かれていて私も一瞬道端で立ち止まってずっしりとした便の生温かい便の重みを腹に感じた。すごい!!
ある意味、排便は快感のひとつと言っていい。失われた穴の機能、新たな肛門への羞恥心から性への好奇心へと変化していく様は驚きでした。
いろんな葛藤を抑え込み、あるがままを受け入れている涼子の姿は、何とも言えない気持ちにさせられた。「これからもずっと」人は思うにならぬ事を抱えて生きているものだ。

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文真堂書店長岡店 實山美穂さん

リアルでいて、文学作品。
人口肛門や便の処理など体の変化やその周辺に起きることをこまかく書かれているのに、バイト先、大学などの人間関係や涼子の心情も生々しくて、面白かったです。

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福岡金文堂志摩店 伊賀理江子さん

知らないことが沢山ありました。人工肛門がどういうものか、どんな気持ちになる人がいるか。なにも知らずに過ごしてきた私は無意識にだれかを不安な気持ちにさせていたのかもしれない。
当たり前のように、食べて、排泄することを、こんなに考えたことはありませんでした。
普通に生活することがとても当たり前のことではないと大袈裟でもなくそう感じる物語でした。

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くまざわ書店新潟亀田店 今井美樹さん

冒頭から引き込まれる作品でした。私も、TVや薬局のトイレでオストメイトを知るようになったのはここ数年ですが、詳しくは知りませんでした。Google等で何でも検索すればいろいろ出てくるとは思うけれど、もし自分がそうなってしまったら怖いと思うのもあり、避けていたのもあります。
知らない世界を知ることができてよかったろいうのが読み終わってすぐの感想でした。
自分の周りにたまたまいなかったというのもありますが、これから人生の後半にさしかかるにあたり、体の変化から隠したい悩みを抱える友人がいたら、そっと手を差し伸べてあげたいと思いました。

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ジュンク堂書店名古屋栄店 西田有里さん

「…階段の途中で涼子は大便を漏らしてしまい…」衝撃的な冒頭に何か怖ろしいものを読まされるぞ、と思いながら最後まで一気に読んでしまった…あぁ…すごい。なんだなんなんだ!頭を殴られたような破壊力!飲食店で食事を提供しながら排泄する嫌悪感。
京平との人工肛門から飲酒する背徳感。どこにも繋がらない冷えた肛門。人工肛門と性欲が混ざり合う危険なエロス。障がい者という言葉とかけ離れた展開にクラクラする。華子への思いと京平との関係は、歪な形でも続いていくと良いなと思いました。人工肛門と向き合って生きていく涼子を応援しながら読みました。強く生きて欲しい。

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