旅の前、司馬さんは信濃の地図を眺めて、信濃には更級や蓼科など「科(級)」のつく地名が多いことに気付き、その意味を考える。また桜井や海野などという地名から、桜井氏や海野氏など、中世信濃武士団の興亡を思う。旅の起点はJR長野駅。最初の宿泊地・別所温泉に行く途中、上田市の商店街の街灯に真田六文銭のマークがあるのを見て、上田が「真田氏の町」であることを実感する。別所温泉では、この地を訪れた捨聖・一遍の、すべてを捨てて求道をつらぬいた生を考える。翌朝、常楽寺、安楽寺を訪ね、午後は臼田の佐久総合病院に入院中の知人(詩人のぬやま・ひろし)を見舞う。南軽井沢に泊まった翌日、旧中山道沿いの望月宿をめざした。その途中、昼食を食べるために立ち寄った岩村田の蕎麦屋のテレビで田中角栄前首相の逮捕を知る。望月は平安朝の御牧のあった所。信州の騎馬が木曾義仲の軍事の要だったこと、清少納言『枕草子』の望月宿の記述へ思いをはせ、旅を終える。