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バリアフリー  2005年3月1日号

渡辺さんの写真
2004年12月に京都で開催された、日本最大規模の障害者支援技術のコンベンション「ATACカンファレンス」(http://www.e-atac.jp/index.html)で、福祉機器の選び方などを案内する渡辺さん(中央)。
足でトラックボールを操作する写真

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足でトラックボールを操作するALSの男性。渡辺さんは、手でスイッチ操作しスキャン入力するより速い操作が可能なので、この方法を選択したという。既製の入力機器が適合しない場合は、しばしば改造や自作も行っている。

文 中和正彦
写真提供 渡辺崇史さん

利用者の5W1Hがわからなければ
障害者IT支援はできない

 「腕がしびれてキーボード操作がつらくなってきたわけですね。では、スキャン入力にしましょう」
 脳性麻痺で不自由な上肢をパソコン操作で酷使して二次障害を発症した郵便局員(40歳)は、福祉機器の相談員からそういわれて戸惑った。スキャン入力とは、ディスプレー上の文字盤を自動スキャンするカーソルが、選びたい文字の上に来たときにスイッチを押すという操作を繰り返す。これを利用すれば腕の負担は軽くなるが、入力に時間がかかって仕事にならない。
 全身の筋力が衰えていく進行性の難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う男性(50歳)は主治医から「最終的には目しか動かなくなります。目の動きでスイッチ操作してパソコンを使う方法があるので、今後はそれを使うようにしましょう」といわれた。手も足も不自由だが、まだパソコン操作はできたので、納得がいかなかった。
 なごや福祉用具プラザ(名古屋市)でこの2人の相談を受けたリハビリテーション工学技師の渡辺崇史さん(40歳)は、支援者側に問題があると指摘する。
「せっかくの障害者支援技術も、障害だけ見て人をよく見ないで処方すると、本当のニーズからズレてしまうので、有効に使われません」
 では、渡辺さんは2人の問題にどう対処したのか。脳性麻痺の郵便局員には、ひじ受けの利用で肩と腕の負担を減らし、単語予測ソフトの導入で効率的な入力を可能にするという方法を採った。
「この人はPCで仕事をしているのです。能率も考えなければ、本当の問題解決になりません」
 ALSの男性には、足で操作するスイッチを提案した。四肢の中で今一番思い通りに動くのが足で、本人も足での操作を望んだからだった。
「いずれ病気で動かなくなるとしても、いま動くところは使うのが人間の生活上、大事なことだと思うのです」
 渡辺さんは大卒後、業務用電気機器のメーカーに10年間勤務し、もっと個人の生活に役立つ仕事がしたいと思うようになった。1995年、障害者IT支援の先駆者で当時横浜市のリハビリセンターの職員だった畠山卓朗氏(現星城大学教授)の活動をテレビで見て、「これだ!」と転職を決意。97年開設の福祉用具プラザの技術スタッフになった。異分野への転身だが、仕事の本質は同じという。
「利用者がいつどこでどのように使うのか。なぜそれを必要としているのか。そこをしっかり理解しないと良い仕事ができない点は同じなんです」
 数々の失敗からそのことを学んだ。たとえば、ベッドに寝たままで使う難病患者に、指先のわずかな力で操作できるスイッチを処方したら、すぐに「使えない」と連絡が入った。夜一人でパソコンを使いたいのに、布団をかけてもらったらその重みでスイッチ操作ができなくなったという話だった。
「ベッドの上で過ごす人を支援するなら、実際に自分もその人のベッドに横になって、その人の24時間をシミュレーションする。そのくらいしないとこういうミスはなくなりません」
 そう語る渡辺さんは、プラザ開設時の計画になかった訪問支援を積極的に行って、ノウハウと人脈を蓄積。今では名古屋一円で障害者IT支援の現場にかかわる人びとのコーディネーター的存在にもなった。
 2003年度から都道府県・指定都市単位で「障害者ITサポートセンター」の設置が始まっている。求められるのはまさに渡辺さんのような人材。しかし、その数は不足している。
 渡辺さんは今年から日本福祉大学福祉テクノロジーセンターの助教授となり、4月から障害者IT支援の授業を受け持つ。「障害と技術の適合だけでなく、本人の生活に即した技術支援ができる人を育てたい」と抱負を語る。