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バリアフリー  2005年5月1日号

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日本点字図書館の「びぶりおネット」のページ(http://www.nittento.or.jp/ROKUON/haisin.htm)。利用にあたっては、再生ソフト購入代金8000円と再生ソフト年間サポート料金1000円が必要。パソコンを音声ソフトで使えることが前提のサービスであり、まだ操作が苦手だったりPC環境を整えられない視覚障害者も多いことは大きな課題。
二人の写真

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日本点字図書館長の岩上さん(手前)と利用サービス部長の小野俊己さん。「ネットでは直には注文しにくいポルノ小説などの利用も多いですね」。ちなみに、サービス開始後1年間の利用数ベスト3は、桐生操『恋は夜つくられる―世界史のLOVE & SEX』、坂村健『痛快!コンピュータ学』、夏目漱石『坊っちゃん』。

文・写真 中和正彦

録音図書のネット配信開始1年
視覚障害者の読書より簡便になる

 「自宅の本棚から引っぱり出すような手軽さで読みたい本を読めるんです。視覚障害者の読書がこんなに便利になるなんて、夢にも思いませんでした」
 東京都八王子市で鍼灸院を営む菅野洋子さん(55)を喜ばせたのは、朗読ボランティアが音読した録音図書のネットワーク配信サービス「びぶりおネット」だ。昨年4月から日本点字図書館(東京都新宿区)と日本ライトハウス盲人情報文化センター(大阪市西区)が共同で提供している。
 びぶりおネットは視覚障害者が利用登録し、専用の再生ソフトを購入してIDとパスワードを取得すると、自宅のパソコンで読みたい本を探してストリーミング再生で聴ける。本の途中でログアウトしても、サーバーに読書記録が残り、次回アクセスした時に読みかけのところから聴けるようになっている。
 図書はDAISY(Digital Accessible Information SYstem)というデジタル録音図書の国際標準規格で作成され、目次項目や指定ページへの移動、再生速度の選択、キーワードによる拾い読みなどの機能もあり、従来のテープによる録音図書よりも格段に便利になっている。
「私は1971年に21歳で視力を失いましたが、当時、録音図書はまだオープンリールテープでした」と菅野さんは述懐する。再生機器は高価で取り扱いも難しく、手がのびなかった。また、点字図書も成人後に失明した菅野さんには大変で、結局、菅野さんは娯楽としての読書から遠ざかってしまった。
 70年代後半からはカセットテープの録音図書を聴けるようになった。しかし、読み間違いの修正の難しさなどから製作に時間がかかる上、貸し出しでは返却待ちがあるため、話題になった本を読めるのはブームが去った後だった。
 1994年、点字図書のネットワーク配信サービス「てんやく広場」(現「ないーぶネット」)が始まり、そんな状況を大きく変えた。なにより点訳作業の修正が容易で、点訳者の分担作業も可能となり、点字図書作製の効率がアップした。このおかげで利用者は新刊からあまり時を経ず、またネットが利用できる環境ならば、自宅からでも好きなときにアクセスして、点字ディスプレーや音声ソフトで読書ができるようになった。菅野さんも苦手な点字を音声化することによって、読書を楽しむようになった。
 菅野さんは「早く情報を得たいときはコンピューターの読み上げでいいんですけど、味わって読みたいときは、やはり人間の声のほうがよくて」と、カセットテープの録音図書も利用し続けてきたが、昨春からはびぶりおネットを活用するようになった。いまは読みたい本をまず「びぶりおネット」で探し、見つからなければ「ないーぶネット」で探す。前者の収録数は、文学作品を中心に約1800タイトル、後者は約5万タイトルをそろえる。
 著作権法上、点字図書はネットで配信(公衆送信)することまで認められているが、録音図書は視覚障害者施設が貸し出し用に作ることまでしか認められていない。「びぶりおネット」は、貸し出し用に作った図書のうち、著作権者から公衆送信の許諾を得られたものだけを配信している。
 日本点字図書館の岩上義則館長は、録音図書製作の効率化に取り組む一方、それを公衆送信することへの理解を求めて奔走している。全盲で点字に親しんできた岩上さんは、点字図書と録音図書への思いをこう語る。
「中途失明者など点字の習得が難しい人も増えているので、録音図書のニーズにもきちんとこたえる必要があるのです。ただ人の思考力は読み書きという能動的な行為によって磨かれるので、墨字を使えない視覚障害者は、点字の読み書きも大事にしてほしい」
 点字図書を主に利用する岩上さんだが、実は床に就いてからの読書は、「びぶりおネット」を愛用していると笑う。