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バリアフリー 2005年5月15日号
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母親の千里さんと鉄琴で遊ぶソフトに興じる百葉ちゃん。今春から事情があって新宿区立新宿養護学校に入学したが、光明養護学校・支援技術センターの支援も必要に応じて得ながら、学校生活を充実させていきたいという。
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文・写真 中和正彦
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スイッチ一つから自発的生き方を開く 機器利用と支援
「娘にも何かできるのでは……」
就学のために、東京都立光明養護学校を事前に見学した昨年のこと。藤原百葉ちゃんの母・千里さんは、重い障害を持つ児童がパソコンを使って絵を描くのを目の当たりにして、そう思った。さらに重い障害を持つ百葉ちゃんも、機器を使うことによって開ける可能性があるのではないか……。
居合わせた教師に相談すると、同校の支援技術(アシスティブテクノロジー)センターの金森克浩先生を紹介された。アシスティブテクノロジー(AT)とは、障害がある人のための支援技術のこと。この出会いが、藤原さん母子の生活を大きく変えた。
百葉ちゃんは重度の脳性まひのために全身が不自由で、言葉を発することもできない。しかしATのおかげで、現在は「ねえねえ、お母さん」と千里さんを呼ぶことができる。車いすに取りつけられたスイッチを押し、VOCA(ボイス・アウトプット・コミュニケーション・エイド)と呼ばれる意思伝達装置に、音声を再生させるのだ。音声は千里さんが録音したものだ。
狙った場所になかなか伸びない百葉ちゃんの手でも当てやすいように作られた棒状のスイッチは、パソコンにも接続できる。マウスを改造して、このスイッチに接続すると、左クリックの操作ができるようにしている。百葉ちゃんはこれで簡単なゲームなどを自力で楽しめるようにもなった。
こうした小さな改善が持つ意味を、千里さんは表情を輝かせて語る。「金森先生が作ってくださったこのスイッチ(などの機器環境)のおかげで、百葉は自分が働きかけると反応が返ってくる楽しさを覚えました。また、自分で遊べる世界を広げていく楽しさも覚えました。私も、彼女の意思がよくわかるようになったうえ、付ききりでいる必要がなくなり、気持ちに余裕を持てるようになりました。生活の質が上がった気がします」。
個々のニーズに応じるためには
十分な情報交換が必要
以前は、百葉ちゃんがいま何を欲しているのかは、表情などから読み取るしかなかった。やがて、百葉ちゃんが手指のグーとパーの動作を比較的随意にできることがわかり、イエス・ノーで答えられる問いかけにグー・パーで応じてもらうというやりとりが成立した。この方法はいろいろな意思確認を可能にしたが、百葉ちゃんにできるのは、働きかけに応える受け身の生き方だけだった。
ATは、そんな百葉ちゃんに自分から働きかける自発的な生き方を開き、千里さんの生活をも変えたのである。
「適切な機器環境を整えるには、その子の生活をトータルに見る必要がある」
そう語る金森先生は、もう10年以上前からATに取り組んできた。そして2003年12月、国が推進する「特別支援教育」の流れを踏まえて、地域の障害がある子どもの教育ニーズにこたえるATセンターを、光明養護学校内に開設した。
特別支援教育とは、障害のある子どもを障害別に教育する「特殊教育」から、一人ひとりの教育ニーズに応じた支援へと転換すること。その中で盲・聾・養護学校は、普通校に通う子も含めた、その地域の障害を持つ子どもの教育を支援するセンターになることが求められている。金森先生と光明養護学校は、それをATの面でいち早く実践したといえる。
その支援を受けた百葉ちゃんは、今年からパソコンを使い始めて、わずかの間に障害児向けソフトに次々と挑戦して、パソコンが開く可能性の大きさを感じさせている。だが、具体的にどんな可能性をどう実現することが百葉ちゃんにとって適切かを判断することは、簡単ではない。金森先生はこのような子どもに対するATセンターの支援について、次のように語っている。
「担任の先生や保護者など、その子の教育や生活にかかわる人たちの間で十分に情報交換しながら解決策を出していくことが大切。こうした情報交換を支援のプロセスとして定着させたい」
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