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バリアフリー  2005年11月15日号

使用風景

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アンテナが内蔵された白杖でICタグが埋め込まれた点字ブロックに触れると、持っているPDAから音声でガイド情報が流れてくる。曲がり角や分かれ道、施設の近くにさしかかると、自動的に音声案内が流れてくるという感じだ。
PDAの写真

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車イスの利用者はPDAに表示される画像からも情報が得られるようになっている。ハードウェアは試作機を使っているので使い勝手の点では不十分だが、コンテンツが評価されれば、専用の車イスが開発されることも考えられる。

文・写真 野々下裕子

万博会場で検証するICタグを使った自律移動支援

 視覚や歩行に障害のある人たちが、ICタグから情報を得ながら、自由に歩き回る。そんな実験が、愛・地球博(愛知万博)の瀬戸会場全体を使って行われた。
 実験は国土交通省が進める「自律移動支援プロジェクト」の一環で、6月7日から3回に分けて、延べ42日間実施され、一般の人を含む305人のモニターが参加した。
 会場内の点字ブロックに約1000個のICタグを設置。そこから発信する信号を白杖に内蔵したアンテナなどでキャッチすると、専用のPDAから現在の位置や近くにある施設などを音声で知らせてくれる仕組みだ。利用できるエレベーターが近くにあると案内したり、展示物に近づくと「前方右手に○○があります」と知らせるなど、移動する先々で適切な情報が得られる。
 大きな特徴は、利用者が持つPDAのメモリーにガイド情報が入っていて、利用者の障害に合わせて内容を切り替えられる点にある。
 たとえば、視覚障害者の場合は、自分がどちらの方向を向いているかといった位置情報を含めた道案内が必要になるが、車イス利用者にも同じ情報を提供すると、かえってわかりにくい。そこで、車イス利用者には、音声による情報は最低限にして、タッチパネルで操作できる地図をPDAに表示し、合わせてガイド情報が流れるようになっている。事前に性別の登録もできるので、男性なら男子トイレへと自動的に案内してくれるのだ。

次の課題はハードウェア
神戸での次回実験につなぐ

 今回万博で行われた実験は、障害に合わせてどの情報をどのタイミングで流すかの検証を目的にしている。現場で指揮している国土技術研究センターの藤村万里子主任研究員は説明する。
「参加者には、ガイド情報を聞きながら会場内を自由に移動していただき、目的地(今回はトイレ)へのガイドがスムーズだったかを検証していただいています。3回に分けて実験したのですが、最初のモニタリングで寄せられた声をフィードバックしてコンテンツを修正し、それを次の実験で検証してもらうようにしました」
 試験が終わったあとなどに20分ほどかけて、「音声は聞き取りやすかったか」「解説の内容は十分だったか」などのヒアリングを行っていた。参加者の意見は好意的なものが多かったようだ。なかには「これだけ細かくガイドができるなら、トイレの流水レバーの位置まで案内できるのでは」といった意見もあった。
 実験には一般の人も参加し、目隠しをして白杖を使って会場を歩いた。昨年神戸市で行われた、同プロジェクトの事前実験に参加したことがあるという男性は、「前回よりも音声ガイドがわかりやすくなり、コンテンツの精度は上がっていると思う」とコメント。視覚障害の7歳の息子の代わりに参加したという女性は、「今はまだ情報が聞こえるタイミングがズレていたり、機械音声が聞き取りにくいところはありますが、将来的に技術が発達して、子どもが大きくなる頃には十分使えるようになるのではないかと期待しています」と感想を述べていた。
 今回の実験はコンテンツの検証が主。そのため、使われたアンテナ入りの白杖やPDAなどは試作段階で、完成品ではない。視覚障害者を例にとると、白杖以外に位置情報発信機かPDAを別途持ち歩かなければならないが、今後はそれらを携帯電話と一体化させるといったハードウェアも研究されている。
自律移動支援プロジェクトは現在、神戸市で本格的な実証実験の段階に入っている。モニターの募集は10月下旬以降も行われ、障害者だけでなく一般の人や外国人も参加できる予定だ(実験の募集サイトはhttp://www.jiritsu-project.jp/kobe/monitor/)。万博の検証結果も合わせて、今後どのようなユビキタスな情報コンテンツができあがるかが、楽しみだ。