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バリアフリー  2006年2月1日号

四人の写真

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「見える校内放送」は校内にある映像配信コンセントにPDPのケーブルを接続するだけで、どこででも見られる。PDPは直接PCやビデオをつなぐなど授業でも活用している。写真は左から林茂和校長、依田広太郎先生、伊藤守先生、森藤才副校長。
PDPの写真

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廊下に設置されたPDPからはチャイム代わりに始業までのカウントダウンが表示されたり、火災や緊急時を知らせる情報が動画で流れるようになっている。ほかにも子供たちがパソコンで作ったクイズを昼休みに放送するなどしている。(写真・葛飾ろう学校提供)

文・写真 野々下裕子

ろう学校で活躍する
「見える校内放送」

 「普通校ならチャイムを聞いて、教室に入るという時間感覚が身につくのですが、本校は聴力に障害がある子供たちが天井にあるランプの色だけで始業時間を判断するので、どうしても遅刻が多かったのです」と明かすのは、東京都立葛飾ろう学校の林茂和校長だ。
 2002年の開校時から、ITを使った情報教育や就労教育に力を入れてきた。03年には都の教育委員会から「ITを活用した教育推進校」の指定を受け、「見える校内放送」のシステム作りなどに取り組む。
「校内のさまざまな場所にプラズマディスプレーパネル(以下、PDP)を設置し、始業までのカウントダウンを画像で表示するようにしたとたん、遅刻は大幅に減りました。また、耳から入る情報が少ないことは、聴力障害の子供たちの学力に大きな影響を与えています。そこで校内行事やニュース放送などをPDPを使って配信し、ちょっとした情報が目から入るような環境づくりをしています」(林校長)
 1つの情報を複数のPDPに一斉放送するだけなら既存のシステムを使うだけで簡単にできる。だが同校は幼稚部から高等部までが同じ校舎内にあり、それぞれの年齢に合わせた情報発信をする必要があるため、コンテンツをどう管理し、配信するかが問題だった。日々変わる情報を、リアルタイムに継続して発信できるシステムが不可欠だった。

見える「警報」など
安全面でも活用

 システムを担当することになった依田広太郎先生は「幼稚部の子供にわかるよう、ひらがなや絵を多用した放送内容にすると、他学部の子供たちにはかえってわかりにくくなってしまいます。また、各学部で授業の時間や行事が異なるため、それらにも柔軟に対応できるシステムが必要でした」と語る。
 当初はPDPごとに管理用パソコンを設置していたが、メンテナンスや管理が難しくコストもかかるため、1台のPCから各学部用に設置されたサーバーを通じて情報管理ができる仕様を考えた。入札の結果「PicTran」という機器を採用した。
「あらかじめ作っておいた文字情報や画像などをサーバーに登録しておけば、自動的に放送されるよう、スケジューラーやコンテンツ管理の仕組みをメーカーに作ってもらいました。本校は教師全員に1台ずつPCが配布されていて、日常の業務もグループウェアを使っていますので、PDPへ表示する情報もそこから変換して使えるような仕組みを取り入れました。ここまでカスタマイズを重ねて、ようやくPDPを校内放送代わりに使えるようになってきました」(依田先生)
 見える校内放送は、安全面でも有効だ。サイレン代わりにFlashで作成した動画像をPDPに流し、視覚的に警報を出す仕掛けを作ったり、PDPのある場所から避難経路を誘導する情報を流すなど、さまざまな状況に応じた放送で、子供たちの安全性も高められるようになった。
 葛飾ろう学校では釣り下げ型やスタンド型、移動用のPDPなどが合わせて40台近くあるが、理想とする各教室ごとの設置にはまだ足りない状態だ。
 同校のIT推進委員である伊藤守先生は、すべての教室でPDPが使えるようになれば、さらにITの意義は高まるとしている。
「障害者にとって、ITはなくてはならない道具だと感じていますが、コストやカスタマイズの問題で容易に導入できないのが実情です。本校で使えるシステムならば、普通学校やそのほかの場所でも応用できるはずなので、メーカーに教育市場を意識した開発をしていただければ、活用の幅ももっと広がると感じています」
 伊藤先生は、現在、PDPを黒板代わりに使えるデジタル教科書の導入や、携帯電話を使ったeラーニングなど、ITを授業に応用する研究を行っている。同校のIT推進校の指定は3年で、まもなく終了するが、今後も新しいIT教材の開発を進めていきたいとしている。