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バリアフリー 2006年3月15日号その1
写真を拡大 清水祥一先生(左)と篠倉敏彦先生の間のホワイトボ-ドに張ってあるのが、予定を視覚的に伝えるための絵カード。最近のユウキ君は、朝「今日の予定」だけでなく「今月の予定」にも注意を払うようになったという。
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文・写真 中和正彦
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知的障害と自閉の子どもが
パソコンで一緒に遊ぶ
養護学校の実践
現金自動出入機を模した遊具のようなカラフルな物体には、本物のパソコンが組み込まれていた。その画面を、3人の子どもが目を輝かせて見つめていた。兵庫県立姫路養護学校小学部1年1組の、自由時間の光景だ。
遊具仕立てのパソコンは、日本IBMが社会貢献活動として行う幼児教育支援プログラム「キッズスマート」によって提供されたもので、ゲーム感覚で遊びながら学べる24種類の知育ソフトが入っている。
知的障害があるヒロシ君(仮名)が、部品を選んで設計図どおりに機械を完成させるソフトの部品の選択に迷っていると、自閉傾向があるユウキ君(仮名)が「これだよ、これ」とでも言いたげに画面を指さした。
「はい、5分たったから交代」と担任の篠倉敏彦先生が促すと、ヒロシ君は素直にユウキ君にマウスを譲った。1台のパソコンで仲良く遊ぶほほえましい光景だが、篠倉先生はそこに子どもたちの成長を見ていた。
「昨年9月にこのパソコンが来た当初は、順番の奪い合いでケンカになりました。少しずつ『順番を守る』というルールが身についてきたんです。そのほかにも、このパソコンの活用を通じて、子どもたち、特に自閉の子どもたちに、いろいろと変化が見られるようになりました」
自閉症は先天的な脳の機能障害で、言語コミュニケーションや対人関係の構築、時間的な見通しを持って行動することが苦手、視覚的な情報に対して強い興味と記憶力を示す、などの特徴がある。 ソフトの内容は幼稚園・保育園児が対象なので、知的発達段階が同程度以上の子が遊べることは想定できた。しかし、自閉の子どもたちの場合、周りに関係なく、自分がしたいことをしたい時にするという行動に出がちで、なかなかほかの子と一緒に遊べない。篠倉先生は導入時に、その点を心配したという。
ソフトを通して
自閉の子に変化が
ソフトを導入してみると、まず画面の中の動きに強い興味を示した。順番を守らないと遊ばせてもらえないことを理解すると、ほかの子がやっている時はおとなしくして、画面の動きに見入った。そして、まったく想定外なことに、知的障害の子のわからないところを教えてあげるような行動も示すようになった。
「同じ画面の動きを見る触れ合いの中で、言葉も出てきて、他者とかかわる意識の芽生えが感じられるようになってきました」(篠倉先生)
ソフトは、物事には順序があることへの理解を促す「映画をつくろう」を中心に使わせた。「花」「水やり」「種まき」の3コマの絵を「種をまいて水をやると花が咲く」という映画になるように並べるといった順序学習の素材が、何種類も入っている。
ユウキ君の場合、着替えから始まる一日の予定を見通して行動することが入学以来の課題だった。「映画をつくろう」で、ほかのいろいろな物事にも順序があることに触れるにつれて、一日の予定の順序への理解も進んだ。
「最初は、次は朝の会だよ、次は運動だよと、その都度、絵カードを見せながら指示しなければダメでした。それが今では、『次は何かな?』とたずねると、自分で思い出して動けるようになりました」(篠倉先生)
昨年末、キッズスマートに参加する幼稚園・保育園などから活用事例を募集してコンテストが行われた。姫路養護学校は篠倉先生の実践により、養護学校で唯一入賞を果たした。
同校の情報教育部長として、篠倉先生とともに活用法を検討した清水祥一先生は、来年度以降の取り組みについて、「篠倉先生の実践をほかの先生方にも見ていただいたので、ほかの先生に引き継いで試行錯誤を重ねていくことも検討しています」と語る。
知的障害や自閉の子を育てるうえでのパソコン活用法は、身体障害の子の場合に比べるとまだ模索の段階。試行錯誤とその情報交換が重要だ。
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