「大学ランキング」制作エピソード① 常見陽平さんと倉部史記さんの対談



「大学ランキング2025」が発売され、さまざまな感想、反響を頂いています。

とある高校からは「クラスに1冊ずつ置いています」というご連絡を頂きました。

「偏差値だけではなく、多様な観点から大学を知ることができる」本として、進路先を検討している受験生の方々に活用いただけるのは本望であり、たいへんうれしく思います。
 
「大学ランキング2025」には93のランキングが掲載されています。多くは、当社独自のアンケート集計によるものですが、そのほかに官公庁が発表しているデータや、他社(大学通信、リクルート進学総研、各予備校など…)からの提供データをもとにしているものもあります。

なぜ、独自ランキングだけではなく、他所で発表されているランキングも掲載するのか?

そこには「1冊のなかに多様な指標のランキングが詰まっている」ことへのこだわりがあります。
本をペラペラとめくることで、今まで意識したことがなかったテーマのランキングが目に入り、大学に対して新しい視点を持つことができる。そのためにはなるべく多くの項目が掲載されていることが好ましい。

しかし、ランキングのためのデータ収集は膨大な手間と時間がかかります。アンケート等にお答えいただく大学関係者のみなさまにもご負担をおかけするものです。そのため、すでにあるデータは活用すべく、毎年あらゆるところと連携しつつ、この辞書のように分厚い1冊を作り上げているのです。

さて、前置きが長くなってしまいましたが……。今回のブログでは、「大学ランキング2025」の制作エピソードをご紹介したいと思います。

「大学ランキング」巻頭対談 常見陽平さん×倉部史記さん

 左から、千葉商科大学准教授の常見陽平さん、進路指導アドバイザーの倉部史記さん、教育ジャーナリストの小林哲夫さん


こちらは「大学ランキング2025」に掲載した対談取材時の写真です。


小林哲夫さんは「大学ランキング」創刊当時から、編集スタッフ(現在は編集統括)として関わってくれています。
常見さん×倉部さん対談の進行・執筆も担当していただきました。

■どうしてお二人に対談を依頼したか?

今回の対談のテーマは、「大学には社会を変える力がある」。

現状を把握したうえで客観的な目線で語っていただける方の話を聞きたいと考えていました。
人選について小林さんは「常見さんにお願いした理由は、本音で語ってくれるから」といいます。
「学者でありながら、受験生や保護者にもちゃんと伝わる言葉で話してくれる人なので適任だと思いました」(小林さん)

一方で倉部さんは、全国各地の高校に足を運んで、教員や高校生の生の声をたくさん聞いている方。
「そのうえで、これはまずいぞ、どうしたらいいのだろう、という問題意識を持っている人なので、課題を提示してもらいたいと思いました」(小林さん)

■今回の対談で印象的だったことは

対談のなかで印象的だったおふたりの言葉を、小林哲夫さんに聞きました。

――2025年、千葉商科大は大きな改革を行います。

​​​​​​​常見 商経、総合政策、サービス創造、人間社会の4学部編成になり、全学共通の基盤教育機構も強化されます。国際教養学部は24年度から募集停止です。私は同学部の教員として立ち上げから関わってきました。その過程でグローバル化について、大学が考えるカリキュラム、高校生が思い描く内容、保護者がイメージする中身にはそれぞれギャップがあることに気付きました。
たとえば、ビジネスパーソンはグローバル化と聞くと三菱商事やトヨタの社員になって海外でバリバリ働くことを考えるでしょう。高校生はそこまで思い至らない。総合商社は何をやっているのか、仕事の全体像も、トレーディングということ自体も、大学生にもわからないものです。グローバル化の実態が伝わっていません。

倉部 大学はどう考えていたのですか。


常見 国際教養学部は高い理想を掲げ海外留学の必修化、プロジェクト活動の強化などに取り組みました。ただ、世界で働く学生を育てようと力んでしまいましたが、学生たちが希望する進路は、日本で世界の人をもてなす仕事でした。プログラムと学生との乖離を反省しました。新しい4学部体制ではグローバル教育は全学共通のプログラムとして実施することになったのです。

~「大学ランキング2025」より抜粋~

「千葉商科大学の改革の話(国際教養学部が24年度から募集停止になる理由について)は印象的でした。数年前から“グローバル化”はどの大学にも求められていて、多くの大学が『国際』や『グローバル』という学部をつくった。しかしその内容と、実際に学生が求める学びの内容にギャップが生じてきていることも多い。千葉商科大はより具体的に、今の時代のニーズにあうことをやろうとしている。これは大学のあり方を象徴しているなと思いました」(小林さん)

倉部 大学入学後に「自分とはどうしても合わない」と気づいてしまうミスマッチも見られます。看護師に興味がないのに地元の公立看護大学に入り、すぐ中退してしまう、そんな学生が少なからずいます。「地元」「公立」など、狭い範囲で条件を決めて大学を選んでしまうとこういうことが起こりやすい。保護者の顔色を気にしながら大学を選んで後悔するケースもあります。

「世界のかけはしになりたい」と語る高校生に、グローバル系で特徴がある大分県の立命館アジア太平洋大学(APU)を薦めたら、「キャンパスが家から遠いので」と言う。でも、地元から飛び出せないのに、世界で活躍できるでしょうか。
ものすごく狭い範囲で考えるから、大学選びもちぐはぐになってしまう。結果的に地元に自分の合う大学があればいいけど、はじめから1時間以内で通える大学しか探していないのでは、選択肢を狭めてしまいます。

~「大学ランキング2025」より抜粋~

「倉部さんが話してくれた“進学先の選択”についての話は、私も実際に高校生と接していて感じていることでした。最近の高校生はみんな“いい子”で親の望みを叶えるための選択をするようなケースも多いようです」(小林さん)

倉部 大学進学率が半分を超える現在、大学のあり方は多様化しています。成熟したとても優秀な学生がいる一方で、四則演算が不確かで、一般常識をまだ身につけていない学生もいる。とくに後者の学生を、大学はいっぱしの大人に育てなければならない。

~「大学ランキング2025」より抜粋~

「この『大学が最後のとりで』という倉部さんの話もとても共感しました。“面倒見の良さ”についてもそのやり方が学生にあっていることが大切で一律ではない。“今の大学はこうあるべき”論というのは現状に即していないと思います」(小林さん)

大学のあり方は多様になり、学生の進路選択の幅も広がっています。大学と学び、そして学生とのマッチングも非常に大切なことであると、今回の対談を通じて再認識できました。全文はぜひ「大学ランキング2025」にてご覧ください。


(文/「大学ランキング」編集部 国府田直子)


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