「大学ランキング」制作エピソード② ICU 岩切学長と麻布中学・高校 平校長の対談


「大学ランキング2025」をはじめ、朝日新聞出版アエラムック大学取材班はさまざまな媒体で大学関連の情報を発信しています。

記事をつくるにあたって大切にしているのは「大学に関わるあらゆる立場の方々に直接話を聞く機会を多く持つ」ということです。大学関係者、大学生、高校関係者、高校生、保護者、そして長年大学のことをみてきたジャーナリストや専門家の方々、などです。

大学や高校はいまどんな状況に置かれているか、そこにいるみなさんが感じていること――希望や課題、欲している情報など――は千差万別、多種多様です。ホームページなどの情報からは得られないものがそこにはあり、そうした部分を記事にして伝えていきたいという思いがあります。

「大学ランキング2025」の制作にあたっても、いろんな方々にお話を伺いました。
今回のブログでは、前回に引き続き「大学ランキング」制作エピソードをお伝えしたいと思います。

「大学ランキング」巻頭対談 国際基督教大学 岩切学長×麻布中学校・高等学校 平校長

左から、国際基督教大学学長の岩切正一郎さん麻布中学校・高等学校校長の平 秀明さん


「大学ランキング2025」の巻頭対談にご登場いただきました。


この対談の進行役をつとめた教育ジャーナリストの小林哲夫さんの感想とともに、記事の内容をダイジェストでお届けいたします。

■どうしてお二人に対談を依頼したか?

「国際基督教大学も麻布中学校・高等学校も、“右へ倣え”で世の流れに追従するのではなく、自分たちが良いと思う教育を進め、文化をつくっていると感じます。お二人には教育に対する姿勢に通底するものがあると感じたので、ぜひ語り合ってもらいたいと思いました」(小林さん)
 
同世代で、ともに東京大学で学んでいるという、共通項も多いお二人。対談の際はお互いへの質問も飛び交い、とても内容の濃いお話を伺うことができました。

■今回の対談で印象的だったことは

対談のなかで印象的だったおふたりの言葉を、記事から抜粋してご紹介します。

岩切 私の専門は文学で、役に立たないものの筆頭かもしれません(笑)。でも、「資本」と言っても数値に換算できる金融資本もあれば象徴的な価値によって測られる文化資本もあるように、あることでは役に立たなくても別のことでは役に立っていることもありますよね。「本当の人生って何なのかなあ?」といったことを考えるときには文学は役に立ちます。狭義で役に立つ、立たないと決めつけるのではなく、もっと広い視点で物事をとらえることも大切ではないでしょうか。

 文系学部不要論みたいな話が出ていますが、世間で名の知れた企業の不正と無縁ではないと思います。倫理観が欠如しているからでしょう。非常に危機感を覚えたのは、95年に起こったオウム真理教の事件です。無差別殺人を起こした信者のなかには、日本のトップ大学で専門的な教育を受けてきた人もいました。サリンは、相当な知識がないとできません。そういう若者が簡単に人を殺せたのは、教育の履歴の中に欠落した部分があったからです。何のために勉強するのかという根源的な問いを学ぶ必要がある。

~「大学ランキング2025」より~

「世の中では理系が重視される傾向にありますが、文学部不要論には危機感を抱いている教育者も多いのではないかと思います。文理融合のあり方について、考えさせられる言葉だなと感じました」(小林さん)

――国の教育政策についてどう思いますか。

岩切 理系重視になっていると感じますね。たとえば国の財政支援にしても、既存の学部や学科をスクラップして、情報工学科のような新しい学科をビルドすると補助金が出る、というような枠が嵌められる。本学では教養学部アーツ・サイエンス学科1学部1学科のリベラルアーツ教育を行っているので、その枠に入るのは難しい。
10兆円ファンドを作って、特定の大学に集中的に投下する一方で、もっと広い視野で、すぐに成果が出ないような研究もサポートしてほしいと思いますし、個性的な大学が独特の成果を出していれば、定型の枠組みからは外れても、イノヴェイティブな長所を発展させる形での柔軟な財政的サポートも必要ではないでしょうか。

 日本の年間歳出費は114兆円ほどですが、教育費関連の支出は5兆円ほどしかありません。日本のように資源のない国は人を育てることにお金を使わなければいけないのに、どういう方向を向いているのか疑問に感じます。大学の予算も削られて、自分たちで研究費を獲得しろという姿勢になっている。本当に大丈夫かと感じます。

~「大学ランキング2025」より~

「国際基督教大学は“教養”を大事にしています。早くから日本のリベラルアーツを牽引してきたICUの岩切学長と、“教養”についての授業を行っている麻布の平校長ならではの危機感であると感じます」(小林さん)

 大学の(旧)AO入試が盛んですが、高3の1学期までの成績でエントリーの申告をしなければいけないのは早いと感じます。社会のスピードが増しており、大学も3年生から就活を始めています。最終学年の4年生は授業や研究に打ち込めているのか心配です。
​​​​​​​以前、東京大学が9月入学説を唱えていましたが、賛成です。受験を後ろ倒しにできるかもしれないし、運動部も高3まで続けることができる。高校を卒業してから半年間のブランクを、ボランティアや旅行など、実り多い時間に使えばいいと思います。人生60年時代ではなくなったのですから、急いで大学を決めたり、就職を決めたりする必要はありません。

岩切 私も大賛成です。幼虫がさなぎになり、さなぎが成虫になるように、さなぎであるべきときに成虫になれというのではなく、ゆっくりと将来のことを考えイメージしながら自分の様態を変えていく時間が必要です。

~「大学ランキング2025」より~

対談後の感想として、「教育のあり方、受験のあり方について、変化の激しい今、立ち止まって考えようとされていると思った」と小林さんは語っています。全文はぜひ「大学ランキング2025」にてご覧ください。


(文/「大学ランキング」編集部 国府田直子)


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